18話
「え?…………今何と?」
村長はあまりにも予想外な事を言われ、思わず聞き返してしまう。
「いや、だから村長の座を下さい」
「は、はぁ…………しかしそれは………」
村長は本気で困ったらしく、うんうん唸っている。
「ちょ、ユート!? 何言ってるの!?
そんな事言って村長困らせないの!!」
「ナナは黙ってて」
何も理解していないナナを、イリスが制止する。
優人はナナとイリスのやり取りを横目に、村長に問い直す。
「で、どうすんの?」
「う、ううむ、しかしですなぁ…………」
(やはり賛成はしない、か。仕方ない、やりたく無いけど……)
優人はゆっくり息を吸いこみ、大きな声でハッキリと言葉を発していく。
「へぇー、この村の村長ってのは、村を救うために村人の持ち物や村人自身は差し出すのに、自分の持ち物は差し出さないんだなぁー」
「――――――っ!?」
あまりにもハッキリと言われた事に、村長は動揺を隠せないでいた。
「認めるんだな。
―――なら、そんな村に用はない。ナナ、イリス、帰るぞ」
「うん」
「えっ、ちょ待ってよ!? 待ってってばー!!」
優人達は村の外れに借りた小屋に戻っていった。
「そ、村長………?」
「村長、どうするおつもりですか?」
三人が帰った後、村人達が一斉に質問をぶつける。しかし、村長の耳には聞こえて来ず、別の事に意識が向いていた。
(あやつら、きっと気づいておるな……
今夜中に消し去っておくか)
不穏な雰囲気を身にまとい、村長はそんな事を考えるのであった。
―――――――――――――――――――――――
「ちょっとユート!?
さっきのあれは何? ちゃんと説明して!!」
集会場から立ち去った優人達は小屋には戻らず、近くの茂みに身を潜めていた。
「ナナ、声大きい。静かにして」
「えっ、あ、ごめん…………って、何か最近イリスちゃん冷たい……」
「ナナ、お前のために順を追って説明してやる。
そうだな、まず一つ質問するから、ナナなりに答えてくれ」
「え、うん、分かった」
何が始まるんだろう、とナナは少し強ばっていた。
「そんなに緊張しなくていい、じゃあ質問だ。
もし村長に『村を救ってくれたお礼に、この村にあるものなら何でもくれてやる』って言われたら、どう思う?」
「えっ、そりゃあ遠慮する、かな?
あーでも、せっかくくれるんだから―――」
「あーもういい、大体そんな所だろう。それがお人好しの回答だ」
「何かバカにしてない!?
てか、これ以外に答えなんてあるの?」
「ある。じゃあイリス、答えをどうぞ」
「…………本当に、村長?」
「うん、正解」
「へっ? ど、どういう事?」
ナナが全力で首を傾げる。
「要はそんな簡単に村人の物とか村人を差し出す奴が、村長なんてお偉い立場にいるはずが無いって事だよ。
実際にそんな事をしたら、村人達からの信頼はガタ落ちだし、それこそ村長の座を剥奪されるだろ?」
「あ、確かにそうだね」
「そう、でもそんな事も分からないような奴が最初っから村長に選ばれるはずがない。
じゃあ、村長は何者なんだ、って話になるんだよ」
「ほぇー、なるほどねー。
あー! だからあんな事言ったのか!!」
「ナナ、まだ話は終わってない」
「そうだぞナナ、ちゃんとイリスお姉ちゃんに謝りなさい」
「え、あ、ごめんなさい?」
「ナナ、ちゃんと謝れる、偉い偉い」
「あ、ありがとう。
――――――って私の方が年上だから!!」
もうっ、とナナが頬を膨らませて怒る。
「ごめんごめん、でも話はここからが大事な所だから」
「そう、村長は何者か、これが大事なの。でも、私には分からない」
「イリス、それは俺が説明しよう。これを見てくれ」
そう言って優人は、収納からある手紙を取り出す。
「これは、何?」
「昨日話した神様が俺のために用意してくれたものだ。
で、ここのページのこの文章を読んでみてくれ」
優人は手紙のとある部分を指差す。
「『そして、人間は獣人に王国を乗っ取られ散り散りになり、各地で街や村を作って生活を成し』かぁ、それがどうしたの?」
「そう、全部わかった」
「さすがイリスだな。まあ、ナナのために説明しておいてやろう。
まず、あの村長は村の内部崩壊を目論んでいる。何故かは後回しにしよう、そしてそのために湖に謎の菌を放ち、それを使って村人達を苦しめた」
「え、でも何のために?」
「簡単、ここを通る馬車に乗った人達に、発見させるため」
イリスがナナの疑問にすかさず答える。
「そう、そして王国と街を行き来する馬車に乗っている奴なんて、大体が冒険者だろ?
王国の住人とか街の人と、両方とも遠出する必要性は無いからな」
そう、王国程ではないらしいがラルの街はかなりの規模である。生活するには何不自由無いのだ。
「村の人が倒れているのを発見した冒険者は、何かしら行動を示すだろ?
今回の俺みたいに自力で何とかする奴もいれば、他人に力を借りて何とかする奴もいるだろう。
いずれにせよ、村人は助かる、そして村長はお礼を言う」
「そう、そこでさっきの問い、を投げ掛ける」
「まあ、冒険者だって元はただの人だ、何でもくれてやると言えば欲が出るし、欲のない奴でも必死にお願いして来られれば断りにくいだろ」
「そして、村長は無断でそんな事を行い、村人からの信頼を失う。それか村長を辞めさせられる」
「は、はぁ」と口を開けてナナが首を振る。
「急に村長が存在しなくなった村はどうなる?
統率が失われて自壊するか、新しい村長を選ぶために揉めるかのどっちか、だ」
「ここまでが、村長の考えた、シナリオ」
「そう、そしてさっきの『村長は何者か』の答えだが、その答えがさっきの手紙のあの一文にあった訳だ」
優人は呼吸を整え、二人に向き直り、口にする。
「村長は、役割を全うする途中で王国に買収された。つまり王国側の人間だってことだ」
えっ、と驚くナナ。
「それ、本当なの?」
「ああ、今から証明してやる。あの小屋を見ておけ」
優人にそう言われて、ナナは小屋に目をやる。
――直後、小屋が激しく燃え始めた。
「えっ嘘なんで!?」
「俺達が正体に気付いている事を、集会場での会話の時に村長に悟らせたからな。
そりゃ抹殺しに来るだろ」
「師匠、どうする?」
「そりゃあ―――――――――」
(何をするかって? ……そんなの決まっている)
「――――――――――――村長を葬る、だろ」
そう答える優人の目には、燃え盛る小屋が映し出されていた。
他人を疑う事を止めない優人だから分かる事、
今回はそんな感じでしたねー
次回投稿11/2(水)21:00予定です
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何なりとお申し付けくださいm(_ _)m




