16話
気が付いたら、私は真っ白な空間で突っ立っていた。
「ん…………ここ、は……?」
見渡しても白一色、どこまで広がっているのかも分からない、自分の足元には影すらない。
気が狂いそうな状況だけど思考を回転させ、自分の最後の記憶を呼び寄せる。
「……そうだ、私、優人を庇って車に撥ねられて……死んだ?」
そう呟いて自分の体を舐めまわす様に見る。しかしそこには傷一つついていない、幼い自分の体があった。
「……はっ、そ、そうだ優人は!?優人はどうなったの!?」
自分の置かれている状況の確認より先に、愛する弟の安否を口に出していた。
するといきなり目の前に巨大なスクリーンの様なものが空中に現れた。
「きゃっ!?」
驚いて情けない声を上げながら尻餅をつく。でもそんな私を放置してスクリーンには映像が写されていた。
「これは……ゆ、優人!?」
私の目に飛び込んで来たのは、私が車に引かれた場所で泣きじゃくっている優人の姿。
きっと、私が身代わりなって死んだことを悔やんでいるんだろう。
「な、何でこんな映像が……と言うか、私は死んだんじゃないの……?」
何が起きているのかが分からなかった私は、自分の置かれている状況を確認しつつ、出来る事を探ってみた。
するとどうやらこの世界では私は神と同じぐらいの力を持っているらしく、私が望めば何でも手に入った。
その力を使い私は色々な情報を集めながら、スクリーンに映る優人の様子をずっと見守っていると、まるで神が悪戯をしているのではと疑う程に不幸が弟を襲っていた。
どんどん人間不信に陥っていく弟の姿が見るに堪えなかった私は、その時優人の為の世界を作ろう、そう決心した。
実際、何でも手に入る状態になってしまった私は優人の為の世界を作る事は一瞬で出来てしまう。
まずは器となる海だけしか存在しない世界を創り、地球と同じ様な空気を用意し、大陸を作り、そして生物を創った。人間や、人間だけでなくエルフ、ドワーフ、獣人系や龍人、魔族やモンスターも作り心を持たせ、地球の数千倍の速度で時を進め、人類系の文明の発展を促した。
そうして世界を創っている途中で剣と魔法のファンタジー世界が出来てしまったのは誤算だったけど、それでもこうして優人を迎える世界を完成させた。でも、その時私は重大な問題に気が付いた。
「……どうやって優人をこの世界に送ればいいんだろう。
それに、ここの空間で優人と一緒に暮らせないから私も向こうに行けばいいって思ってたけど、私も向こうの世界に行けないなんて……」
そう、肝心の優人を自分の創った世界に送る方法が分からなかった。
それと同時に、私のいる空間に生物を召喚出来ないという事実があったせいで、優人をここに呼んで一緒に暮らす、ということも出来ないし、私の力を以てしても自分の創った世界に行くことは出来なかったのだ。
「生物はここには呼べない、つまり生物じゃないものならここに呼べる。
あの世界もきっと同じ原理なんだろうな、だとしたら……」
そこでの私の頭の回転は異常だった。
もし仮に優人をあの世界に連れていけたとしても、モンスターの蔓延る世界では簡単に死んでしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。
それに人間もいる世界、また人間的な面で深い傷を負って失望されても困る。
だから、優人には少し苦しい思いをしてでも、その人間性に対する恐怖を取り除いてもらい、生物として強くなるために何かしらの能力を与える事にしよう、そう考えた。
そして私は、私達の父を殺したあの男の魂を使い、魔王として魔族のいる世界に誕生させた。
転生はムリでも、魂だけならあの世界にも送れるようだ。
「なら、不謹慎だけど優人の魂が手に入れば優人をあの世界に送れる、って事……」
スクリーンにはコンビニバイトでギリギリ生計を立て、無機質な生活を送る優人の姿が映っていて、その無表情さに私は溢れ出そうな涙をぐっと堪えた。
「……泣いている場合じゃない。これで優人を幸せにするための準備は殆ど終わったんだから、後はシナリオを用意するだけ」
そうして私は、優人が命を絶つその時まで、自分の時間の全てを捧げて最愛の弟を幸せにするための計画をより確実な物へと練り上げていった。
姉・亜里須の長く壮大な過去。
ブラコンにも程があるよ……何だよ”弟の為に世界を創る”って……
次回投稿は10月21日(土)13:00予定です。
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