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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈最終章 魔王城編〉
173/180

14話






「……で、気が付いたらここにいたって訳だよ」


「……何だよそれ、ただの八つ当たりかよ」




話を聞き終えた優人が抱いた感情は怒り、そして恨み。

震える手で剣を握り直す青年の気持ちに気が付いたのか、ニヤリと笑う銀次はゆっくりと彼に近付いて行く。




「何だ?話を聞いて怒ったのか?いやー、若いね若いね~

……でも、それはお門違いってもんだ」


「どういう事だ?」




はぁ、と息を吐くと優人の目を睨みつけ、まるで自分の子に諭す様に語り出した。




「こっちの世界ではどうか分からないけどな、日本なんてそういう理不尽ばっかりなんだよ。

ほんの少し住宅街を歩けば魔が差した誰かに殺される。ただただ普通に暮らしてるだけなのに職を失う。極め付けには自分を信じてくれていた筈の者に裏切られる」


「っ……」




銀次の話す事の幾つかは、優人も身に覚えのある事だったため、無意識にも反応してしまう。




「それを踏まえた上でもう一度聞くが、お前の怒りはお門違いじゃないか?」


「そ、そんな事は……」




銀次にそう念を押され、頭の中では違うと分かっていても口が素直に動かない。



(くそっ、どうしてこういう時に限って言葉が出ないんだよっ!!)



優人のその焦りはどうやら態度にも出ていたらしく、




「おらっ、戦闘中だぼさっとしてる暇はないぜっ?」


「ぐぁっ!?」




ほんの少しの意識のブレを銀次につかれ、大きく横方向に蹴り飛ばされてしまう。

壁が崩れる程の速度で衝突した優人は、流石に深手を負いその場で蹲った。


敵を仕留めるのならばこれ程絶好のチャンスは無い、だが銀次はまるで優人が起き上がるのを待っているかのようにゆっくりと足を運びながら何やら語り出した。




「ったく、今までどんな戦闘をしてきたんだ?

……まぁ丁度いいや、これからもう少し痛めつけて────」


「ユート!!」


「な、ナナ……?」




更なる追撃の手が下されるかと思ったその時。

絶体絶命の優人の下に駆けつけたのは、優人が一番来て欲しくなかった人物、ナナだった。




「ああ、確かお嬢ちゃんはこいつのガールフレンドだっけ?

これは丁度いいタイミングに来たもんだな」


「ユート!?大丈夫!?」


「ナナ……早くこの場から離れろっ」


「おーっとそんな事はさせないぜ?」


「っ……」




衝突の際の衝撃による痺れが未だに取れず動けずにいる優人は、自分の事などお構いなしにと彼女の方に手を伸ばす。

が、しかし二人を分断するかのように銀次が割って入り、ナナに向けて気味の悪い笑みを浮かべた。




「さぁお嬢ちゃん、ここを通りたければ俺を倒していく事だなぁ!!」


「っ!?

ナナやめろ!!お前じゃ勝てないっ!!」


「おいおい、そんな興醒めな事を言うなよ。

……で、お嬢ちゃんはどうするんだ?」


「……」




額から汗が流れている。ナナも銀次が優人と同程度のステータスだという事は分かっていた、絶対的な力量差がある事は全身が感じ取っていた。


しかし、それでも彼女は勝ち目のない戦いに挑もうと、手に握られていた剣を構える。




「……へぇ、負けると分かってても戦うってのか」


「……確かに貴方には勝てないかもしれない。

でも、それでもナナはユートと一緒に居るって約束したから!!」


「ナナ……」


「何だよ、ただのノロケかよ。でもな」




剣を握り締めながら己の覚悟を口にする少女に向かって毒づく銀次は、スゥ、と細めた目で彼女を捉えると───




「その約束は叶わない」




優人ですら目で追えない速度で、人とは思えない程の正確さで、彼女の脳天にナイフを突き刺した。




「────え、?」




間の抜けた声が漏れたかと思えば、ナナは何が起きたかも分からないまま地面に倒れる。

優人には、何が起きたのか分からなかった。ナナが地面に身体をつけるまでがスローモーションのように感じていた。そして、




「―────ぅあ、あ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?!!!?!!!」


「んなっ!?お前動け─────」




ほぼ(・・)全てを理解してしまった優人は本能のままに銀次の首を一瞬にして刈り取り、ナナの元まで駆け寄った。


まだ死んでない。死んでない。

理解したくない唯一の事を頭の中で何度も否定しながら体を揺すり、抱き上げるようにして、名前を呼ぶ。




「ナナっ!!ナナっ!!」


「…………」


「返事を、返事をしてくれよぉっ!!!!!」


「…………」




彼女自身の重みと装備の重みが、全て腕にのしかかる。


死んだ。ナイフの刺さった額から流れる、その事実だけが腕ではない所に重たく存在し、それは同時に優人の表情を酷いぐらいに歪めてしまう。

自分の大切な人が無くなるのはこれが初めてではないとしても、優人にはダメージが大きすぎたのだ。



だが幸か不幸か、まだ彼女の温もりが感じられていたお陰で、優人はほんの少しだが冷静さを取り戻せていた。



(どうする!?どうすればいい!?

蘇生魔法は覚えていない、ナナは助からない……?

そんなの、そんなの認めれる訳無いだろっ!!

また、また俺は大切なものを失うのか…………っ!?)




星の無い空を仰ぎ、涙を堪えながら腕の中で目を閉じる少女を救う手段を思索する。

しかしそう都合よく思い浮かぶものでは無く、半ば諦めに入っていたその時だった。


空が壊れた(・・・・・)




「なっ!?何が─────」




唐突な異常事態(イレギュラー)に目を大きく見開いてしまう優人だったが、すぐに何が起きたのかを理解出来た。


優人達がいた空間と言うのは、元は銀次が生み出した空間だった。

空間を作り替えるという天変地異にも等しい魔法、それだけの事をするには当然デメリットと言うのが存在する。それが”魔法使用者の生命力(HP)が20%を下回れば消滅する”と言うもの。

つまるところ今、彼らがいる空間は崩壊が起きているのだ。




(空間が壊れて……元のブロック壁の部屋に戻ったのか。

という事はもしかして、魔法が使える、のか?

……やる、これで全てを終わらせる)




周囲が変化すればそれに応じて状況も大きく変化する。

魔法禁止だった状態から解放された優人は、少女を救うための唯一の”賭け”を行使する事を心に決めた。




「……これがもし成功したとして、俺はナナ達に嫌われないだろうか。疎まれないだろうか。軽蔑されないだろうか。失望されないだろうか。

……いくら考えても答えなんて出ない、か」



仮定、仮説、疑問、それら一切はこの場では意味を為さない。

優人は目を閉じ、自分を大切に想ってくれる者達の顔を思い浮かべながら全てをたった一つの魔法に託す。




「―────全ての力を代償にして魔法を発動する。

合成魔法(ユニゾン)・”ゼロリバース”」




優人の呟きと同時に、その場の全てが白く光った。



銀次によって命を奪われたナナ。

絶望に呑まれそうになった優人が下した決断は、全ての力と引き換えに発動する最強にして最大の合成魔法だった!!


次回投稿は10月19日(木)13:00予定です。



※誤字脱字、感想等何でもお待ちしています(^-^)


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