12話
優人達は周囲に警戒しながら奥の扉を押し開くと、螺旋階段が出迎えてくれた。
階段を覆う壁には窓は無く、所々にある燭台の蝋燭火が足元をぼんやりと照らしている。
「セシリアさんの話だと魔族幹部は三人、さっきの奴が魔族幹部だとすればこの先にいるのが魔王って事になるよな」
「ううっ……そんな事言われると緊張するよ……」
「ここの周辺はある意味ではまだ安全だろうから、今のうちに装備は整えておいた方が良いかな」
そう言って優人は収納の中から今まで手に入れたリングやリアから託された短剣を装備し、愛用の剣を右手に握る。
それを見たナナも神速の剣を手に持ち構えるが、見た感じ全身に力が入り過ぎているようだ。
「ナナ、もう少し全身の力を抜けって」
「そ、そんな事言われても~」
「もう行くぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってって!?」
慌てふためくナナを無視して螺旋階段に足を掛け始める優人。この状況でそこまで冷静になれる方がおかしいと言うものなのだが、そのツッコミを入れる程ナナには余裕が無かった。
一段一段慎重に階段を上っていく二人だが、一向にゴールが見える気配がしない。
「こ、これどこに出口あるんだろ……」
「さあな……」
「…………」
「…………」
それ以降優人もナナも言葉を発さず、ただ淡々と足音だけが響く。
(……なにこれ気まずっ!?
え、えっと何か話した方がいいのか?
てかさっさと出口見えてくれよっ!!)
全く会話の無いこの状況に冷や汗をかき続ける優人に対し、ナナもまた同じ様な事を考えていた。
(ああっ~、会話途切れちゃったよ……
どうしよう、ユートってこういう時絶対喋れないタイプだからなぁ。
……よし、ナナから何か話題振らないとね!!)
などとお互い色々思索している内に、それを裏切るかのように出口が見えてくる。
「……出口みたいだな」
「う、うんそうだねっ」
螺旋の先に見えていたごくごく普通の木製の扉まで足を運んだ二人は、一度その前で立ち止まり二度三度深く息を吸っては吐いてを繰り返した。
「……ここが正念場だ。ナナ、準備は良いか?」
「……正直行かなくていいなら行きたくない、けどユートが行くならナナも行くよ。
ずっと一緒って決めたからね」
「……ふっ」
「ええっ!?今笑う所だった!?」
「悪い悪い。……さ、いこう」
「うんっ!!」
ナナの意気込みと共に優人はドアノブに手を掛け、勢いよく扉の先に踏み込んだ。
「…………は?」
「え?ここって……」
差し込んできた光の中で二人が見たのは、優人にとっては懐かしく感じる、夜の日本の住宅街だった。
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「…………と?ユート!?」
「…………」
優人は絶句していた。
何故ならその住宅街と言うのは、自分が暮らしていた家の周囲だったから。
しかも自分達の右横にある一軒家こそ、彼が最後の最後まで暮らしていた場所なのである。
有り得ない。ここは夢の世界なのか。
優人の頭の中では様々な疑問、仮説が浮かんでは霧みたく消えていくを往復していた。
「ユートってば!!」
「な、ナナ……」
「っ……」
肩を揺すられている優人の目はどこか苦しそうだった。
それもそのはず、そこは言わば自分が命を絶った場所なのだから。
もう二度と見るはずの無いつもりだった光景に目も意識も奪われかけているその時、住宅街の奥からこちらに歩いて来る人影を一つ確認する事が出来た。
「だ、誰っ!?」
「よぉ、久し振りだなクソガキ」
「え……ぁ……」
「え?ゆ、ユートの知り合い?」
電柱の傍の街灯に照らされた人影の主は、まるで優人に会った事が感慨深いかのように話し掛けて来る。
優人は……無意識に震えていた。もちろん、怯えという意味で。
「何だ、ガールフレンドとこんな所に来たのかよ。
随分と余裕だなぁ」
「だ、誰なんですか!?
ユートの知り合いなんですか!?」
「知り合い、なぁ。
そんなんじゃないけどまぁ顔見知りっちゃあ顔見知りだわ。
詳しい事はそこのクソガキにでも聞けばいいだろ?」
「ゆ、ユート……?」
「…………」
握りしめている剣にまで震えが伝わっているその手に自分の手を重ね、怯える優人の視界に割って入り、ナナは不安そうに彼に話しかけた。
「あ、アイツは……俺の父さんを刺し殺した奴だ」
「……え」
「おお、覚えててくれたか。
そうだな、この際自己紹介でもしようか」
上下黒のジャージ姿の中年男は街灯の真下でニヒルな笑いを浮かべながら自分の名前を口にする。
「俺の名前は黒鉄銀次。
一応この世界では魔王を名乗らせて貰ってる、そしてお前の親父を殺した張本人だよ」
優人は、自分の体内から血が無くなったような気分に見舞われた。
最大にして最低な運命と衝突する優人。
自分の全てをぶち壊した男・銀次との対決やいかに……!?
次回投稿は10月17日(火)13:00予定です。
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