9話
人では有り得ない黒光りする肌を見せ付けるかのように手を動かす悪魔は、淡々と話し始めた。
「ルールは簡単だ、これから俺の真下にある扉から出て来るモンスター共を全て駆逐出来たらお前らの勝ち、お前らが全滅すれば俺の勝ちだ。な?簡単だろ?」
「そんな事をしてお前にメリットはあるのか?」
「んなモン楽しいからに決まってるだろ?」
「……さっぱり意味が分からん」
「別に分からなくたっていいさ。やる事は変わんねぇ」
「ルールは分かったが、だから何だと言うのだ?
……隊員に次ぐ!!矢を持つ者はヤツに放て!!」
セシリアのその指示を受け、隊員の三分の一程がさっと弓を構え、各々放ち始めた。
だが、しかし。
「何だよ、人が話している時に攻撃かよ」
「なっ!?」
悪魔に向かった矢は悉く彼の前で跳ね返り、勢いを落として地面に転がっていった。
まるで見えない壁に阻まれているかの様に。
「どういう事だ!?」
「簡単な話だ。この部屋は俺の部屋、だから俺の前に物理・魔法衝撃完全耐性の透明な壁をあらかじめ用意していただけだ。こいつはスゲェぜ?何たってどんな攻撃でも無効化しちまうからよ。
たとえ─────御影優人の桁外れの力を持ってしてもな!」
「そ、そんなバカげた事信じられるか!!」
「信じなくてもいいさ、状況は変わりゃあしねぇんだからよ」
「くっ!!」
「ああ因みにだが、これがあるせいで俺は攻撃には参加できねぇ。
ま、お前らからしたら敵が一人減ったんだからラッキーだろうけどな」
「……誰が信じるか、そんな戯れ言」
「いいよいいよ、アンタがそうやって疑うのも当然の反応だ。
ましてや人の上に立つ者だ、配下の身を案じて行動するならアンタの発言は百点満点だろうよ」
「知ったような口を……」
「そりゃまぁ、俺もまたその立場にいるからな。
おっと自己紹介がまだだったか。俺はベリアル、魔王の幹部の一人だ」
「そうか、お前が魔王幹部の……」
隊員達がたじろぐ中、優人達含む六人の者だけはじっとベリアルを視界に捉えていた。
「っとお喋りはここまでにしてさっさと始めようぜ?
───あぁ御影優人、アンタだけは先に進むように魔王様から命令が出てるんだ。
俺の真下まで来い、真下の扉は次の階に続く階段に繋がってるからさっさと先に行ってくれ」
「……いやダメだ、ここに残る。そもそもお前の話に従う筋合いはない」
「それは困るんだよなぁ。そんな事したら俺が魔王様に怒られちまう」
「俺には関係の無い話だ」
「……ああもう分かったよ!!
五人だ五人!!お前含めて五人だけこの先に進む事を特別に許してやる!!」
「またパイモンにドヤされるじゃねぇかよ……」と嘆くベリアルを他所に、優人達はセシリアを中心に話を進めていた。
「セシリアさん、これ以上の譲歩はムリそうですけど、どうします?
ああ、俺とナナは確定で行くので残り三人です」
「そうだな。残り三人か、誰が行くべきだろう……」
「隊長」
真剣な面持ちで考え込むセシリアに話し掛けたのは、今の今まで王国第三騎士隊の指揮を任されていた男・マール。
「マールか、どうした?」
「隊長、貴女が先に進んで下さい」
「……それは出来ない。
どんな敵が出て来るか分からない以上、ここの指揮を離れる訳にはいかない。
それに────」
「隊長!」
「な、何だ大声なんか出して」
「隊長、俺達を信じて下さい。
皆貴方の下で共に行動してきた者達です、隊長の言いたい事も分かりますがここは部下を信じてやってください。
それと、隊長が行くなら俺もついて行きます。これは隊員達と話し合って決めました」
「…………」
マールの突然の提案に、セシリアは黙り込んでしまう。
部屋が数十秒時が止まった様な静けさに包まれたが、溜息を吐いたセシリアによって打ち破られる。
「……ふっ、どうしてこういう日に限って驚かされる事ばかり起こるんだろうな」
「隊長、こういう日だからこそ、ですよ」
「ああそうだな。
こんな隊員達に恵まれるなんて私は本当に幸せ者だよ。
……他の隊員達もそれでいいのか?」
セシリアがそう声を張り上げると、大勢の隊員達の中から手が一つだけ伸びる。
どうやらアドゴン国衛兵隊の方からの様だ。
「手を挙げた者、発言を」
「はっ。出来ればブラス隊長も先に進ませることをお願いしたいのですが」
「なっドレシスっ!?」
ドレシスと呼ばれた男は、ブラスの驚声に返事をする事も無く前に勇み出た。
「そうだな、お前の考えを聞かせて欲しい」
「はっ。理由は先程の彼が言った事と同じであります」
マールを指差したドレシスは、更に言葉を紡ぐ。
「我々は一度ブラス隊長を見限っている。
どうすることも出来なかった我々に非はないのかもしれない、それが欺瞞だと言われても仕方がない、だが何を言われようがその事実は変わる事が無い。
だから、この場を持って失った忠誠をもう一度取り戻したい。
セシリア総隊長、どうかブラス隊長を宜しくお願いします」
ドレシスが深く頭を下げると、続けて他の衛兵隊員も頭を下げた。
この光景にはさすがのセシリアも目を丸くしてしまったが、それ以上にブラスの目が大きく開いた。
「お前達……」
「……分かった、ブラスを連れて行こう」
「セシリアさん、本当に良いのか?」
「下の者の意を組んでやるのは上に立つ者の役目だからな」
「おうおう、決まったみたいだな」
詰まらなさそうに天を仰いでいたベリアルは視線を落とし、先程まで会話の中心にいた女性騎士を捉える。
「じゃあさっさと移動してくれ。俺は早く戦いを見たくてウズウズしてるんだ、これ以上は待ってやれねぇからな。
扉は一方通行だ、変な気を起こすんじゃねぇぞ?」
「……皆、行こう」
セシリアのその掛け声に応じて、六人が足を動かし始める。
隊員達の視線を一気に引き受ける中、最初に扉の前に到着したセシリアとマールが両開きのそれを同時に開け放った。
「……闇、か」
何か情報が得られるかと期待していた彼女だったが相手もそれは計算済みだったらしく、扉の先にあったのはどこまでも広がっていそうな深い闇だった。
「隊長、行きましょう」
「ああ」
何があるかも分からない状況だが、マールは手に松明を灯し自ら進んで行った。
「すごいな」と後ろから感心していた優人は、セシリアに続きブラスも進んでいった所でナナに話しかける。
「ナナ、俺らも行こうか」
「う、うんっ」
「……やっと来たか」
優人とナナが扉の先に足を踏み入れたその時だった。
─────バンッ!!
「はぁ、はぁ……ギリギリ、間に合った……」
「───えっ」
壁だったものを扉の様に開けて入って来たのは、水色の外套を身に纏ったイリスだった。
隊員達の思いに応えようと先へ進もうとしたセシリア達。その前に駆けつけてきたのは、あのイリスだった!!
どうなる次回!?
次回投稿は10月14日(土)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしています(*^^*)




