3話
※先に言っておきます、作者としてはブラックコーヒーの準備をオススメいたします。
そんな回ですのでお楽しみくださいm(_ _)m
ナナ用の装備は意外と簡単に完成した。
と言うのも優人は始め、完成してからの微調整に時間が掛かると思い最低でも一日かける予定だったのだが、いざ完成して微調整に入ろうとすると「うーん、特に問題も無いから大丈夫だよ!!」と拍子抜けな答えが返って来たのだ。
「取り敢えずそれつけてズィナミと実践、それでもし問題ないなら本当に問題ないだろう」
優人のその一声によって、今は庭でナナとリザードマンに変身したズィナミが近接戦をしている。
ズィナミには余った鉱石で剣と盾を拵え、ナナは例の如く神速の剣を使っている。
見た感じだけではナナの方が有利にも思えるが、リザードマンの基礎身体能力と体質の高さ、ズィナミの戦闘経験がその差を埋めていた。
「やっ、はっ───ふっ!!」
『いいね~でもまだま───だっ!!』
「っ!?─────きゃあっ!?」
ズィナミがナナの剣を飛ばした事でどうやら勝敗が決したらしく、ナナがその場にへたり込んだ。
「お疲れ様。どうだ、何か問題点はあったか?」
「あ、ありがと~……特に無いかなぁ。
何かあるとすれば、防具の分だけ重たくなったから体慣らさないといけないなぁって事だけ?」
「なるほど、ならこのまま夕方までやるか?」
今の時刻は昼の三時ごろ、おやつ時である。
昼食を挟んですぐに防具は完成し、それからすぐに模擬戦は始められた。
その事を考えるとかれこれ一時間近くぶっ通しで切り合ってた訳なので、ナナのタフさには優人も素直に感心する。
ナナの下にタオルを持って近付いた優人は、彼女の真横に腰を下ろしタオルを手渡した。
「うーん、ちょっと疲れちゃったし休憩挟んでもいい?」
「ああいいぞ。何なら今日はこれでおしまいにして、明日すればいいからな」
「ううん、多分もう少しで感覚掴めそうだから後でもう一回やるよ!!」
「そっか、ならここで休んでろ。水持ってくるわ」
「あ、いいよいいよ、そこまで喉乾いてないから。
その代わり────」
カシャン、と防具を外したナナは立ち上がろうとする優人の手を掴んで座らせ、傍まで行って彼に背中を預けた。
「ナナが良いって言うまでこうしてて欲しいなぁ」
「…………少しだけだぞ?」
ぶっきらぼうに答える優人だったがナナにはそれが照れ隠しだと分かっていた。
何せこの手の事を優人は何だかんだ言って一度も断った事が無いのだ。
「…………」
暫くの間無言が続く。
いつの間にかズィナミは木陰で熟睡していたソフィアの近くで同じ様に眠っていて、その行動は彼なりの『空気を読んだ』行動なのだろうと優人は思う。
誰も言葉を話さずただ風と木々、自然だけが音を発するこの時間を優人は気に入っていた。
「……ねぇユート」
「ん?」
自分の胸元からこちらを見ずに言葉を掛けてくるナナに、優人は短く返事する。
「今話すような事じゃないかもしれないけどさ、今まで本当に色々あったよね」
「…………」
しみじみと語りだす妻の言葉に、優人は黙って耳を傾ける。
「ユートと最初であった時なんて、ナナすっごく恥ずかしい場面だったよね。
何も知らず大声で助け求めちゃってさ。
でもユートは文句を言いながらでも助けてくれた」
「まぁ、不可抗力だ」
「ははは……で、何だかんだでユートに付きまとってるとオーガに襲われた。
ナナがオーガで嫌な過去を持ってるって話したらユート、ナナの為に頑張ってくれたよね。
あれは今でもちゃんと憶えてるよ」
(そっか、あれってそんなに前の話だったな……)
「その後はユートに嫌な事があって、森の奥の洞窟で籠ってたっけ。
あれも色んな冒険者から情報集めて歩き回って、探すの苦労したんだから!!
……でも、生きててくれてすっごく安心した、また会えて本当に嬉しかった。
その後すぐにイリスちゃんを発見して、何だかんだでユートが悪い魔族の人達をやっつけて、そしてイリスちゃんもナナ達と一緒に行動するようになったんだよね」
(イリスと出会ったのもそんなに前だったな……
こうやって聞くと何だか恐ろしく年月が過ぎてる気がする)
「で、王国に向かう途中で何故か村長になったんだよね。
しかもあの時、ユートは初めて人を殺したんだっけ?
王国に着いたらリアさんとちーちゃんと出会ったんだよね。
家も買ったし、そこでソフィアちゃんとも出会った。
セシリアさんの為に王国の悪い王様を退治して、その後は王国の為にリザードマンの強い奴らと戦ったんだっけ。
ナナ達が駆けつけたらユートがだいぶピンチで、片方の腕を着られたかと思えば敵のボスをやっつけて……それで、それで……」
話している途中であの時の光景を思い出したのだろう、声がどんどん嗚咽に近付いていた。
優人はナナを片手で抱き寄せ、もう片方の手で頭を優しく撫でてやる。
「んっ……ありがと。
そしてセイルペイスに行ったんだよね。
カジノとか豪華な服とか美味しい食べ物とかで色々満喫してたら、トリノ君を仲間にしてさ。
良い子だったのに悪い人達のせいであんな事になっちゃって……
あの時のユートは本当に見てられなかったよ」
(まぁ、親しかった人が目の前で死んだからな。
正直、今でもあいつの事を思い出してるぐらいだし)
「で、ユートは何とかしてその悪い人達を見つけて、やっつけたんだよね。
でもあの時に行方不明だった王国の騎士隊の人達が悪い人達に操られていて、全員人体実験にされていて、結局あの戦いって誰も幸せにはならなかったんだよね……」
そう言うナナの肩が少しだけ震えたのが優人にはすぐに分かった。
他人の事でここまで感情移入出来る心優しい少女を、優人は先程より強く抱きしめてやる。
「あの後だったね、年越しパーティに呼ばれてたニレちゃんがナナ達の家のメイドとして働くっていったのは。
今考えてもあの時のユートはいつもと違って優しかったなって思うよ、でも同時に『あぁ、ユートだなぁ』って感じたんだ、変だよね?
……今思えばあの時には既にユートの事が大好きだったんだと思う」
優人は自分に掛かる圧が少し大きくなったと感じた、が口に出すような野暮はしない。
「ううん、本当はイリスちゃんと初めて会った頃からとっくにユートの事が大好きだったんだ。
いつもナナの事を助けてくれる、一緒に居てここまで安心出来る人はユート以外にいなかったからね。
……あ、別に前の方が好きだったとかそう言うのじゃないよ?むしろ今の方が大好きだし」
「……照れるからやめてくれ」
「はははっ、やっぱりそう言う反応なんだねっ!!
……うん、やっぱり今のユートが一番好き。大好きだよ。
っと、話が逸れちゃった。
セシリアさんのお願いで温泉地に行って、その時にズィナミちゃんが化けてたドラゴンと一緒に消えちゃったんだよね。
ナナはすっごく心配したし、ユートが帰って来なかったらどうしよって不安で押し潰されそうだった、でもイリスちゃんやリアさん、ニレちゃんのお陰で耐えれた。
そしてユートが居ない時にモンスターの群れに家を襲われて、ナナ達も頑張って戦ったけど力が足りなくて、オーガにまたナナが負けそうで、犯されそうになった時にユートは駆けつけてくれた。
ナナを、皆を守ってくれた。言葉に出来ないぐらい嬉しかったよ。
その後は依頼でマールさんとレインハートに向かったんだよね。
その時にブラスさんを奴隷から救って、ルルちゃんとレイちゃんと会う事が出来た。
あの時は色んな事が一気に起き過ぎてナナじゃついていけなかったけど、でもやっぱりユートは全部解決しちゃったんだよね。
その後に出てきた変な怪物のせいで起きてしまった噴火もユートが止めて、遠くでピンチだったリアさんやブラスさん、街の皆を一気に救ったんだよね。
その後すぐに倒れちゃって心配したけど、ナナはユートの事がすっごく誇らしかった」
(この辺りの事は割と最近だからよく覚えてるわ。
その後って……恥ずかしいな)
次にナナが口にする内容が大体想像ついた優人は少し頬を赤らめながら、ナナを撫でる手を放し、両手で彼女を抱き締める。
「そして、ユートが目覚めてからすぐ、告白してくれたね。
本当はナナからするつもりだったのに、意外だった。
でも、嬉しかった……ううん、嬉しいなんて言葉じゃ言い表せないぐらい嬉しかった。
『やっと、やっとこれでちゃんとユートと両思いになれたんだ』って─────えいっ」
「ぅおおっ!?」
話している途中でガバッと優人に抱き着き、ナナはそのままの勢いに身を任せ押し倒した。
不意な行動だが優人には起き上がろうとするつもりはない、寧ろこちらからももう一度抱き締めなおしてやる。
胸元に顔を埋めグリグリしていたナナだが、涙声で再び話し始めた。
「ナナさ、もうこれ以上ないってぐらい幸せなんだ。
これ以上何かあったら幸せ過ぎて破裂しちゃいそう」
「はは、何だよそれ」
「……でも、それとは別で不安もあるんだよ。
『もしこの状況でユートがどこか遠い所に行っちゃったらどうなるんだろう』って。
ナナ、バカだよね?そんなことまだ起きても無いのに…………
でも、一度考えだしたら怖くて怖くて……」
自分のシャツが濡れている、それだけで優人は十分ナナの気持ちを理解した。
しかし同返事をしたらいいのかも困っていた。
(「ずっと一緒だ」何て無神経な事を言える状況じゃなくなったからな……
もしあの神:ウルシアの言う事通りに魔王を倒し、最後のリングを集めたとしたら、前の世界に戻らないといけない事になるかもしれない。
……正直、嫌だな。ナナとも、皆とも別れるのは)
大切な存在だからこそ無責任な発言は出来ない、してはいけない。
だから優人はナナに、ではなく自分へ向けての言葉を口にする。
「何が何でもこの家に戻って来る。
それがどんなに厳しくても、だ。
ナナとずっと一緒に居るって誓ったからな」
「ユート……」
顔を上げた彼女の目は赤かったし、薄っすらとまだ涙が残っていた。
ゴソゴソと身体を捩りながら目線を優人と同じ所まで合わせると、そこで動きは止まった。
「……大好きだ、愛してる」
「ナナも。ユートの事、大好きだよ」
そう言って二人の唇は重ね合わさった。
書いてて「ラブコメかよっ!!」って言いたくなりましたがはい、我慢ですね笑
魔王戦まで残り僅かな日数、果たして優人の運命は……!?
次回投稿は10月5日(木)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしています(*^^*)




