男と男の一騎打ち
久し振りの投稿は閑章から始めたいと思います。
それでは、どうぞ(^-^)
木造の建物の中、同じく木製の方形テーブルを囲うのは優人とナナ、そしてナナと同じ様な見た目の男性と女性の四人。
「…………その言葉、本当なのか?」
「そうだよ、お父さん。ナナはこの人と結婚するって決めたんだよ!!」
「ナナ、良かったわね。良い人見つかったんだね?」
「うん!!ありがとう、お母さん!!」
会話から分かる様に、優人達はナナの両親に結婚の報告兼挨拶に行っている所である。
ナナの父親は左腕が付け根付近から無いのが良く分かるが、どうやら生活には影響を及ぼしていないようだ。
母親がナナの結婚報告を喜んでいるその横で、彼だけは何か言いたげな雰囲気を放っていた。
「ほらほらお父さん。あなたからも何か言ってあげたらどうなんですか?」
「……………」
「お父さん……?」
「………ユート君、と言ったかな?」
「は、はい」
酷く落ち着いた声で名前を呼ばれた事によって緊張感が高まり、優人も少しぎこちない返事となってしまう。
だがそんな事は全く意に介していないらしく、父親は言葉を続ける。
「君はナナの事をどこまで知っている?」
「どういう、事ですか?」
「……オーガの事だよ」
「………その事なら良く知っています」
「そうか。ならいいんだ。
………正直2人の結婚については祝福してもいいと思っている」
「お父さん………!!」
「だが、ナナの父親としてはやはり君を試さないと思っている」
「は、はぁ………」
「そこで、だ」
スゥ、と椅子から立ち上がった父親は優人を指差し、
「君に、勝負を挑む」
そう宣言した。
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「…………で、その勝負の内容がこれですか」
黒い布を何重にも折り畳まれた布で目隠しされている優人の前に置かれたのは、鶏肉とトマトの様な見た目の野菜、それとジャガイモの様な野菜とを煮込んで作った料理。
見た目だけで言えば「トマト煮込み」に近いのだが、優人は鼻を刺激し食欲を誘うような匂いを感じ、それがナナの良く作る手料理だとすぐに分かった。だがそれと同時に、同じ料理である筈なのに少しだけ違う匂いも混じっている事に気が付く。
「ユート君、何も言わずに目隠しをしたことは済まないと思っている。
これから君には二つの料理を食べ比べてもらい、どちらがナナの料理かを当ててもらう。
見事に正解すれば君の勝ちだ、二人の結婚は認めよう。
但し、もし万が一間違えでもしたらその時は………」
「そ、その時は?」
「私の勝ちとして、君が『女の手料理すら見分けられない様な残念な男』だという事にに大量に尾ヒレをつけ、それを噂として各地に広める。それと結婚は許さない」
「………何で結婚を認めない事より噂の方を重視してるんですか………」
ナナの父の言った事にツッコむ優人だが内心はかなり焦っていた。
ナナ達のお陰で他人に対する疑心を減らせている状況で、見ず知らずの者から
「あ、あの人確か今『手料理の味が全く分からない味音痴』って噂になってる人よ。
あんな人とは結婚したくないわよね~」
などと言われでもすれば、まず間違いなく優人のメンタルは粉々に砕け散るだろう。
つまり、父親は優人の急所を的確に突いてきたのだ。
「因みに料理を口に運ぶのは公正さを出すために里の女方一人にやってもらう。
むさ苦しい男にそんな事されるのは嫌だろうというのと、見てるこっちも嫌だという事の理由もあるが。
………さて、準備は良いかな?」
「……………」
準備は良いか、と言われても優人は全くそうでは無かった。主に心の方が。
(ナナの父親が変わった人だというのは良く分かった。
普通こういう時って『決闘だ!』とかじゃないの?
…………それよりも今は自分の感覚に集中しないとな)
二、三回深呼吸を繰り返し背筋を張り、「はい、いつでもどうぞ」と声を出す。
その後すぐに誰かの足音が近付き、右耳の方から知らない声が聞こえて来る。
「では一つ目の料理を運ぶので、口を開けて下さい」
「はい」
指示通り口を開け、舌の上に料理が流されるのを待つ優人。
そしてゆっくり流し込まれてきた料理をまず口に全て含み、その味をゆっくり噛み締める。
(これは何時も食べてる料理だな。味付けもまさにそれだし、鶏肉のサイズとかまさしくいつも通りなんだよなぁ……)
と、一つ目の料理に対する評価を頭の中で書き加え、口に残っていた物をすべて飲み込む。
舌でわずかに残っている料理くずを喉に送り込んだ後、「次お願いします」とだけ伝え、また口を開ける。
「では二つ目の料理です」
その言葉の直後舌の上に流れてくるのは、やはり先程とは殆ど変化のない風味の料理。
それでも余す事無く口の中に含み、ゆっくりと吟味する。
(これもさっきと同じ様に何時も食べている料理なんだよなぁ。
…………ん?これは…………)
先程の料理との違いに気が付いたのか、他人が見ても分かるぐらいにモグモグ口を動かす優人。
少しの間その状態が続き、漸く全ての料理が喉を通った所でナナの父親が声を上げる。
「さあユート君、答えは出たか?」
「……………はい」
「どうだね、自信はあるかね?」
「そうですね、これを外すと後でナナに何されるか分かったものじゃないですからね」
「ちょ、ちょっとユート!?
今そんな事言わなくてもいいじゃんっ!!」
「もうっ!!」というナナの声だけが耳に入って来ていた優人だが、きっと頬を赤らめてるんだろうな、という脳内補完は既に完了していた。
「そうか、それほどの自信なら答えられるだろう。
さあユート君答えたまえ、どちらがナナの料理かを!」
ふぅ、と一息吐くと優人は声のする方に首を向け、見えてはいない父親に視線を送る。
照れ怒りしていたナナやその母親、料理を口に運んだ女性の者が固唾を呑んでその答えを待つ中、優人の口が重々しくもしっかりと開かれ————
「二番目だ、二番目の方がナナの料理だ」
優人の口は、そう告げた。
「ほう、そちらを選んだか。どうしてそう思った?」
「最初、どちらも同じ味がして少し焦りました。
でも………ナナ」
「ど、どうしたのユート?」
「お前、俺が辛い味付けが好きだって事知ってるから胡椒の量多めにしてるだろ?
それと香辛料も少し多めになってるよな?」
「え?…………それは」
「だからそれが決め手となった。
………それが答えの根拠です」
「ふむ……………」
短い唸り声を上げる父親は、少し間を開け、そして高らかに答えを告げた。
「正解だよ、ユート君。
二番目は間違いなくナナの作った料理だ」
「ほ、本当ですかっ?
……………良かったぁ~」
父親のその言葉に心の底から安心したのだろう、椅子の背もたれに身体を委ね気を抜く優人にナナが近付きその頭をギュッと抱き締める。
「ユートさすがだよ!!
おめでとう!!そしてありがとう!!」
「ばっ、よ、よせっ、辞めろ恥ずかしい恥ずかしい当たってる恥ずかしい恥ずかしいっ!」
「………一言余計だったけどまあ今だけ許してあげるよ……
あ、目隠し外さないとね!!」
そうやって人の目を気にせずイチャつく2人に、ナナの両親と女性が近付いてくる。
「見事だったぞ、ユート君」
「ありがとうございます…………えっと、『お義父さん』と呼んだ方がいいですか?」
「構わんよ、好きに読んでくれたまえ」
「とか言ってこの人、この間『そのうち俺も”お義父さん”と呼ばれる時が来るのか。ナナの結婚楽しみだなぁ』なんて事を言ってたんですけどね」
「ちょ、ちょっと母さんそれは今言わなくても良いだろ!?」
「2人だけの秘密だと言っただろ!?」と慌てふためく父親に、その場からどっと笑いが溢れ出す。
それのお陰もあってか優人の緊張は完全に解れ、聞きたかった事を口に出す。
「そういえば、どうしてこんな勝負にしたんですか?」
「それはまぁ、見ての通りだよ。
この身体じゃまともに決闘なんて出来ないだろ?
ま、そんなのは些細な理由で本当はな?」
「本当は?」
「普段からしっかりナナが飯を作ってやってるかが気になったんだよ。
………正直、ナナが連れてきた男なら誰でも結婚を認めてやるつもりだった、何せうちの娘は母さんと同じ様に見る目はあるからな」
「お父さん…………」
「だからこの勝負にしたんだよ。
それによく言うだろ?
————”結婚は相手の胃袋を掴め”ってな」
「は、はぁ………」
何か少し違う様な気がするも、優人は愉快に笑う、新たに出来た義父を見て自然と口元が緩んでいた。
そして心から思った——————子は親に似るんだな、この人達となら上手くやっていけそうだ、と。
「じゃあ改めてユート君。
うちのナナは泣き虫で少し元気すぎる所がある。
これと言って凄い特徴がある訳でもない。
でも、それでも十分家族思いの良い娘に育ったと思っている。
………大事な一人娘だ、どうか幸せにしてやってくれ」
「………お父さん」
「ナナの事だからどこかで迷惑をかけると思います。
でも、人を思いやる心は誰よりもある優しい子です。
私からもお願いします、この娘を大切にしてあげて下さい」
「お母さん………」
優人に向かって深々と頭を下げる父親と母親。
その2人の姿にナナは感動のあまり涙を流してしまう。
そんなナナの、妻の肩を抱き優人は両親に向けて力を込めた声で
「必ず幸せにします、この身に変えてでも」
と、そう強く宣言するのだった。
こういう心温まる瞬間って、部外者でも関係なく気が緩んじゃいますよねぇ。
ま、作者はまだ未婚なのでこういう経験したことありませんが(笑)
次回投稿は9月22日(金)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしていますm(__)m




