65話
(…………………ん、ここは…?)
ゆっくりと目を開けた先に広がっていたのは、天井────ではなく、赤いテントの様なものだった。
全く見知らぬ光景に呆然としていると、右手が異様に熱く感じたのでそちらに目を向けると、そこにあったのは。
(……………ナナ?寝てる、のか)
優人の手を両手でぎゅっと握ったまま、幸せそうにベッドにもたれ掛かっている。
むにゃむにゃしながら「ユートォ……………」と寝言を言っている辺りナナに怪我とかは無いのだろう、と安心した優人は彼女を起こさない様に周囲を見渡す。
(俺がいるのはベッドの上か………それにしてもフカフカ過ぎるな。
やたらとキラキラしたカーテンとか絨毯とか壁とか……………
一体どこなんだよ…………)
全く以て見覚えのない空間に頭を悩ませ、潔く考えるのを諦めた優人はまた体をベッドにダイブさせる。
そこでしまった、と思ったが時すでに遅かった。
「ん、ぅん…………………
ふぁぁぁっ~~~………………ユートォ?」
「ああ、起こしたみたいで悪かったな。
もう少し寝てていいぞ」
「う、うぅんありがとぉ…………」
寝ぼけながらも優人の言葉に反応したナナは、開きかかった半目を再び閉じ、深い眠りに─────
「ってユート起きてるじゃん!?」
とはいかなかった。
優人が起きている事に驚きつつも手は絶対に離さない所を見ると、どうやら無意識で握っているようだ。
優人は自分の手を解放する事を諦め、ナナに状況の説明を求めた。
ナナの説明によると、優人は合成魔法を使った後魔力切れで倒れ、ズィナミの変身でナナ達の元まで運ばれてきたらしい。その後アクエリアスが水を操ってくれたおかげでマグマは全て固まり、水脈も元に戻してくれたらしい。
「─────で、その後ユートはルルちゃんとレイちゃんの王城の客用寝室に運ばれたんだよ」
「なるほど、それで俺はここにいるのか。
ズィナミには感謝しておかないとな」
「……………てかさ、言ってくれないと分かんないじゃん!!」
「何を?」
「色々だよっ!!
アクエリアスちゃんを急がせたのがリアさん達の為だとか、新しい魔法か何かを使ったら倒れちゃう事とかだよ!!」
あー、と言葉を濁す優人の態度にナナは更に問い詰める。
「だいたい!!
いっつもいっつもナナ達の事置いて行って!!」
「す、すまん…………」
もうっ、と不満を口にするナナの手は、いつの間にか少し痛いと感じる程に優人の手を強く握り締めていた。文句ばかり口にしている彼女だが、内心は心配でならなかったのだ。
だけどナナはすぐに表情を一変させ、いつもの明るい顔に変わる。
「でも、本当にユートは凄いよ。だってあれだけ大勢の人の命を救ったんだから!」
「…………そうだな」
ナナの純粋な感激の言葉を優人は素直に受け取れないでいた。昔の自分ならきっとこんな事をしなかった、だからこれは自分のお陰では無い、と。
(そうだよな、昔の俺がこの事を知ったら間違いなく”嘘だ”と言うだろうな…………)
「ん?ユートどうかした?」
「ああいや、何でもない。
………とりあえず、一件落着、だな」
「だねっ!!」
「うっ………」
心から喜んでいるのだろう、ナナの屈託のない笑みを不意に向けられ優人はドキッとしてしまう。その反動でなのか手から汗が滲んでしまい、「しまった」と顔を逸らし手を引っ込めようとするがそれをナナは許さない。
「ユート、いつまでも逃げるのはずるいと思うなぁ…………」
「っ…………」
「ねぇユート」
優人の目の前で何度も息を吸ったり吐いたりして、ナナは何とか冷静さを保とうとする。だが優人は自分の手が異常に震えている、震えさせられている事から分かっていた。ナナがどれほどの思いで、今から大事な事を、そう生涯で何度も言う事のない思いを、頑張って形にしようとしている事を。
だから優人は、その想いに応える。
「あ、あのねユートに話が」
「ナナ」
「ひゃいっ!?」
「大事な話をするから聞いて欲しい」
「え、う、うん………」
いきなり話を折られ、アタフタしているナナを優人は真っ直ぐに見つめる。もちろん、優人の緊張はピークに達している。自分から告白なんてのは生まれてから一度もした事が無い優人だが、前に居る少女もついさっきまで同じ状況だった事を思うと気を強く持てた。そしてこうも思った─────”こういう事を言うのは男の役目だ”と。
だから優人は覚悟を決め、今ここで思いの丈をありのまま、目の前の愛しい少女にぶつける。
「俺はナナの事が好きだ。これからもずっと、いや、一生そばに居てくれないか?」
その言葉の直後、世界が凍り付いたかの様な静寂に包まれる。たった一言「好きだ」と伝えるのにかなりの年月を要したが、それでも優人は精一杯の気持ちを伝えた。後は少女の返答を待つだけ、なのだが──────
「な、ナナ?」
優人の手を握る少女は、突然の出来事に呆然としていた。それだけなら優人は驚きはしないだろう、それはごく自然な反応だから。だが優人の見た少女は茫然としているだけでなく、その見開いた両目から涙がツーっと流れ落ちていた。
優人の呼び声に遅れながらも、ナナが反応を示した。
「え…………あ、あれ?おかしいな………
嬉しい、嬉しいはずなのにっ…………
ナナ、変だよねっ…………」
「ナナ…………」
自分でも感情に抑えが利いていないのか肩を震わせ始めたナナに近付き、優人は握られていない方の手で華奢な少女の肩を掴む。だがそれによってナナは一層涙を流してしまい、それを無理に拭おうと優人の手を手放す。
「ご、ごめんね…………
目にゴミが入っちゃっただけだから、こんなのすぐ止まるからっ…………」
「ナナっ!!」
目の前の弱々しい少女の姿に、優人は耐えきれなくなり両手で強く抱きしめる。自分が負わせていた気持ちがここまで大きく膨れ上がっていた事に気が付き、優人はナナを抱きしめずにはいられなかった。
ナナも抱き締められ感極まったらしく、それこそ少女の様にただただ泣いた。泣く事しか今は出来なかった。
どれほどの時間が経ったのかは分からない、がナナは既に泣き止んでいた。
「………悪かったな、ここまで引きずってしまって」
そう呟く優人に、ナナは目をゴシゴシ擦りながら
「ホントだよ、しかもあのタイミングで言うとかズルいよっ」
と軽い文句を口にする。
そんな事が言えるなら大丈夫だろう、と優人はナナから距離を取ろうと抱き締めていた手を解くと───
「まだダメッ!!」
今度はナナが強く優人を抱き締めた。さっきと殆ど状況は変わっていないのだが、何せ優人は既に冷静さを取り戻している、そのためナナが柔らかい2つのモノを押し付けて来る事にドキドキが止まらない。別にナナにそんな気は無いのだが。
「ユート、さっきの返事するね?」
「お、おう」
こんな状況でか、と言いたくなるのを我慢して優人は抱き締められていて見えないナナの声に意識を向ける。
「ナナはバカだからユートには釣り合わないかもしれないけど、ずっとユートと居させてください」
「…………ああ、もちろんだ」
「ユートっ!!」
どうやらまた感情が高ぶったらしく、ナナはこれでもかと言う位に優人を抱き締める力を強くする。優人もそれに応え、もう一度ナナを抱き締めてやる。
その後少しの間抱き合ってから、どちらからともなく密着していた体をお互いの顔が見える位置まで離し、
「好きだよ。
………ううん、大好きだよ、ユート」
「ああ、俺もだ」
お互いの気持ちを確かめ合うように、ゆっくりと目を閉じ唇を重ね合わせた。
ついに、ついにここまで来ましたよ皆さん!!
うん、やっぱり正規ヒロインはナナですねっ
次回投稿は8/14(月)13:00予定です。
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