64話
「皆さん遅いですね……………」
スイレン山大噴火の数分前、宿に居たリアやニレ、ブラスの3人は室内でのんびりしていた。
もちろん外は例の怪物で騒いでいるのだが、不思議な事に宿の仲は平和そのものだった。
「まぁ、きっと勘の鋭い重臣とかに見つかってるんじゃないかな」
「いや、重臣にそんなキレ者は居なかったと思うが…………」
ううむ、と唸るブラス。本当にキレ者がいなかったのだろう、そんな事を他所で言われている重臣達が何だか可哀想に思えて来る。
「あ、お茶入れますね」
「ニレ、多分棚の一番下に紅茶の茶葉があるから、それを使って」
「かしこまりました、メイド長」
そう言って席を立ったニレは、そのまま台所の方へ向かう。
最近ではニレに「メイド長」と呼ばれる事に慣れて来たので、リアはこれと言った反応を示す事は無くなっていた。
しかしその事を知らない者がその場に1人。
「そうか、リアはメイド長なのか」
「はい、と言ってもまだ私とニレの2人しかいないのでメイド長らしいことは殆どしてませんけど」
「それにしては楽しそうじゃないか」
「そう見えますか」
ふふっ、と仲睦まじげに笑う2人。
元々似た境遇だった2人だからか、こうした会話が多くなりブラスの表情も以前に比べてかなり柔らかく様々なものを見せるようになった。
そんな2人の前に、紅茶淹れたてのカップが3つ置かれる。
「紅茶をお持ちしました。
熱いので気を付けて下さいね」
「ありがとう、ニレ。
……………うん、美味しい」
それぞれがカップを手に持って一息つく。
そんな圧倒的なまでの平和空間に終わりを告げたのは、座ってままの姿勢を維持できない程の大きな揺れ。
「きゃあっ!?」
「な、何が!?」
「な、何事だ!?」
三者三様の驚きを見せる間も揺れは収まらず、生まれてから初めて味わう感覚に戸惑いを隠せないでいた。
しかしその揺れは少しずつ弱まっていくが、その直後───
「きゃぁっ!!」
「な、何!?」
「今度は何だ!?」
謎の大爆発音が室内に響き渡り、先程ののどかな空気は完全に霧散していた。
そして『スイレン山が噴火しました、館内に居る方は速やかに避難を開始してください』という館内アナウンスにより、緊張感がさらに高まる。
アナウンスのせいか、気付けばニレはリアのメイド服の裾を掴んでいた。
少女が怯えるのも仕方がない状況だが、意外な人物までもが取り乱していた。
「スイレン山が噴火だと!?
そんなの、どこに避難しろって言うんだ!!」
「ブラスさん、落ち着いて。
今は取り敢えずどうするかを考えましょう」
一番意外だったのがこのリアの落ち着きようである。
自分とは正反対の態度の彼女を見て、ブラスは自分の慌てっぷりを恥ずかしく感じたらしく顔を赤らめていた。
「す、すまない………
それで、どうする?」
「私は荷物を纏めて一旦外に出るべきだと。
ここに居ても仕方がありませんからね」
「それもそうだな。
だとしたらレインハートに向かおう、外壁もあるし多少はここより安全だろう」
「ですね。ニレ、急いで準備を」
「かしこまりました」
───────────────────
宿の外は非難する人で混雑していた。
多くの者が必要最低限の荷物を持って走っていたが、中には両手で抱えきれない程の荷物を背負い、歩くのがやっとの状況にもかかわらずまだ荷物を家から引っ張り出そうとしている者もいた。
だが一貫していえる事は、その場の誰もが困窮していたという事だろう。
ここ二十年以内にアドゴーン山に属する山が噴火した事など一度たりとも無い。だからこそこんな大災害の時にどう行動すればいいのか分からないのだ。
「早くここから移動しましょう、人の波にのまれて行動出来なくなるのが一番の悪手ですから」
「そうだな──────」
リアの提案に従って宿の裏道を通ろうと動こうとしたその時だった。
ぞろぞろと移動を始めていた村人の方から悲鳴とも聞こえる声が聞こえてきた。
「ま、マグマだ!!」
誰かが指差したのか、皆が一斉に一方向を見つめる。
そこにあったのは赤と黒、注意深く見れば黄色や橙色もありそうだが、見ているだけで身が灼けてしまいそうなものだった。
マグマはまだ村から遠い所にあったが斜面を下って来たことで速度が上昇している為、村まで辿りつくのは時間の問題かもしれない。
「い、急ぎましょうっ
このままだとマグマに追いつかれてしまいます」
「あ、ああ!!」
背中を流れる冷や汗を感じながら、3人は急いでその場から離れようとする。
だがそう上手くはいかず、さらに予想外の出来事に巻き込まれてしまう。
───────ゴンッ!!!!
「えっ───────」
突然聞こえて来た鈍い音に、リアがいち早く反応する。
………が、それよりも早く状況は一変していた。
「水だーーー!!!
水が沸き上がってるぞーーー!!!」
「た、たすかったぁ~~」
突如として地面から吹き上がった水がマグマの方に向かって流れていくのを見て、村人達は歓喜や安堵の声を次々と漏らす。ニレやブラスも同様に安心のため息を吐くが、リア1人だけは全く別の表情をしていた。
(…………おかしい。どうしてこのタイミングで水が沸き上がるの?いや、万が一運良くそれが起きたとすれば辛うじて許容は出来る。だけどマグマの方に向かって流れていく事は有り得ない、どうしてみんなその事を疑問に思わないの?
…………いや、よく考えればこんな事が出来るのって)
そこで主人である青年の顔が浮かび、リアはふっと笑みを浮かべる。
「全く、無茶苦茶な人ですね」
「??
どうかしましたか?メイド長」
「ううん、何でもない。
………さて、どうしましょうか?」
異常に異常を重ねられ、完全に振り回されてしまったままのリアはこの後どうしようかと思考を広げる。高まった緊張感が一気に解けその場にへたり込む人が続出する中、リアだけは清々しい笑顔を見せていたのだった。
心が大人(?)な3人のこの雰囲気は、個人的に大好きだったりするんですよね〜笑
それはさておき、次話は必見ですよ!!
次回投稿は8/11(金)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m
他作品も読んで頂けたら幸いです(*^^*)




