62話
見事な大ジャンプを見せた化け物は、まるで何事も無かったかのようにスイレン山の頂上を目指して進んでいた。
いや、見るものが見ればその僅かな変化に気付けたのかも知れない─────移動速度が上がっている、と。
「ユート、どうする?」
「どうするって言ってもなぁ」
クイクイッと袖を引っ張るナナ。
どうやら他の者も同じ様な状況らしく、皆優人に視線を集めていた。
優人は思考を巡らす。今何が起きているのか、これからどうするべきなのか。
「………………そうだな。
まずはラーダ、隊員達を取り敢えず安全そうな所まで避難させてくれ」
「ああ、分かった」
「俺達はあの怪物を追う。それでいいな?」
優人が振り返り、それぞれに了解を取っていたその時だった。
─────ォォォォッ!!!!
「何だっ!?」
皆が一斉に声がした方向に視線をやる。
そこに居たのは例のアイツ。何をしているのかと目を細めると
「師匠、あれ………」
「な、何だ…………?」
怪物が、自らスイレン山の頂上にある火口に飛び込もうとしているのだ。
意味が分からない、誰もがその意識に駆られている間にもどんどん昇っていき、そしてとうとう火口まで到着しそのまま───────落ちた。
「は………?」
「お、おいユート、何が起きてるんだ?」
「俺に分かる訳無いだろ…………
何だか嫌な予感がする。ラーダは急いで退避をしてくれ」
その言葉にラーダは素直に頷き、駆け足でその場から離れていく。
想定外の事態に優人の額を汗が伝い始めていた。
ナナもイリスも相当不安らしく、無意識の内に優人の服をがっしり掴んでいた。
何事も起きなければいい、そう心の中で願っていた彼女達だったが現実はもっと酷い状況へと向かって───
ゴゴゴゴゴ──────────
「なっ、じ、地震か!?」
「きゃぁっ!?ユートっ!!」
「し、師匠………」
「おわぁっ!?地面が揺れっ!?」
怪物が火山に飛び込んで数分もしない内に、突然地面が揺れ始めた。
周囲の建物はミシミシと嫌な音を立てながら揺れ、木々も折れそうなほどの勢いでしなっている。
だが小さな地震を何度も体験した事のある優人だけはすぐに分かった、これが地震ではない事を。
動けない程の振動が少しの間続き、それが少し弱まった直後、スイレン山が噴火した。
────────────────────────
「あら、骸を壊しちゃったのね」
「………少しはメロウ様にも原因があるかと」
ベッドで優雅に紅茶を飲むメロウに、セバスはため息交じりに皮肉を口にする。
「あら、私のせい?」
「メロウ様が御影優人に『あっさり倒せる』などと申されるからです。
あれを聞かされれば誰でも骸を壊したくなるものです。
あんなただのエネルギー爆弾、倒せるはずないのに…………
…………………わざとですか?」
「さぁ、どうかしらね?
でもまあ、その方が面白いじゃない」
「そんな理由で火山1つ噴火させられる人間が、少し可哀想に見えてきますよ」
「……………意外、セバスも冗談言うのね」
「冗談では無いのですが…………
まあいいです、それよりメロウ様、彼がどうやら興味深いことをしようとしてますよ?」
「そう、それは楽しみね」
手に持つカップを近くに置き、メロウは自分の瞳の中に青年の姿を映す。
その瞳に宿っているのは純粋な興味なのかそれとも全く別の何かなのか、彼女すら分からないまま…………
───────────────────────
「おいソフィア!!
お前『知』の大精霊だろ!?何か打開策無いのか!?」
「そんなすぐ思いつくわけないじゃん!?
───ちょ、そんな目でアタシを見ないで〜!!」
メロウ達に見られていた優人達はというと、ものの見事に困惑していた。
「じゃあさっさと考えろよ!?
マグマだぞ!?冗談抜きで死ぬぞ!?」
「わ、分かったってば~…………」
「め、珍しくユートが焦ってるね…………」
「逆に、ナナがそんなに、落ち着いてるのが、不思議」
目の前で森精種以外には見えない精霊といがみ合っている想い人とは違い、ナナは冷静沈着そのものだった。
いつもなら真っ先に慌て始めるのに、イリスのその予想は
「どうして?」
「ん?
あーいや、どうせまたユートが変わった方法で解決するんだろうな~って思ったら安心しちゃって。
……………やっぱり変かな?」
何とも言えない形で裏切られていた。
イリスだって優人の事を信頼している、しかし身の危険と信頼は結び付かない事も知っている。
だけど彼女はそれが結び付いているのだ。
「…………ある意味、凄い」
「ん?何が?」
「おいマール、何かアレを止める手段は無いのか?」
さも当たり前のような反応を見せるナナの近くから、マールを呼ぶ声が聞こえて来る。
「いや、俺もさっぱり分からない…………
出来る事ならすべてを放り出して走り去りたいさ」
「そうだよな、普通はそういう反応だよな…………」
マールの返答に少し残念な様子を見せる優人。
時間的に落ち込んでいる場合では無いはず、なのだが実際には傾斜が緩やかな事もあってマグマがレインハートまで到達するにはもう少しの猶予がありそうである。
ふと、優人が現在進行形で大噴火中のスイレン山の方に目を向けると、マグマよりも先に目に飛び込んで来たものがあった。
「あれは…………」
「あっ、ちーちゃん!!」
……………………優人達のペットにして地竜のちーちゃんだった。
(どうしよう……言えないよなぁ。
完全に忘れてた、なんて…………)
思えばスイレン山に飛ばされてから色々な事が立て続けに起こっていて、頭の中からすっぽり抜けていた。
そんな中自力で帰ってきた、という事に優人は心の底から感心と謝罪が湧き上がってきていた。
「凄い、1人で、帰って来た」
「良かったよ!!
多分大丈夫だと思ってたけど、まさか帰ってくるとは思ってなかったよ!!」
「がうっ」
「地竜って、こんなに賢かったんだな…………」
少女2人に頭を撫でられ嬉しそうに吠えるちーちゃんを見て、マールは自分の中で地竜に対する評価を大きく書き換えた。
正直優人も一緒になって撫でたかったが、今はそんな事をしている場合じゃないと自制心を働かせ、目の前に迫り来る脅威にあれこれと思索を繰り返し─────嘆いた。
「どうしろってんだよ、この状況…………
何もしなければこの地域一帯人間が全滅するぞ…………」
想像もしたくない様な大災害を前に頭を抱える優人に救いの手を差し伸べたのは
「ねぇユート、何を悩んでるの?」
ナナだった。
有能すぎたちーちゃん笑
優人は、はたしてマグマを止められるのか?
次回投稿は8/5(土)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m
同時掲載小説もありますので、もし良ければ読んで見てください(*^^*)
※お題ボックスくんなるものを用意しています。
まだまだお題を受付中ですのでコメントお待ちしております!!




