56話
(……………どうしたものか、な)
妖しく微笑む女性・メロウとその執事・セバスを前に、優人は動けずにいた。
下手に動いて後ろのクレーヌ達を危険にさらす訳にはいかない、かと言ってこのまま硬直している時間などこれっぽっちもない。
そう考えた優人は、とりあえず前に向かって言葉を飛ばしてみる事にする。
「…………お前達の目的は何だ?」
「目的?………………そうねぇ」
頬に手を当て、ゆっくりと目を閉じるメロウの様子に優人は違和感しか感じなかった。
────何故今、考える必要があるのか、と。
メロウが唸っている間、セバスは優人達の事をじっと、ただただ見つめていた。
正確には、力一杯睨みつけていたのだが。
すると、軽い溜息を吐いたメロウが困った表情を浮かべ、疑問を口にする。
「分からないわ。
御影優人、貴方は何だと思う?」
「………はぁ?」
「そうね、少しだけ時間もあるしお話ししましょう。
ああ勿論、貴方に拒否権は無いのだけど」
「くっ…………」
厭らしく口元を緩めるメロウに、優人やその周りの者は体を強張らせてしまう。
何が起きてもおかしくないこの状況のお陰で、彼らの警戒心は異常なまでに高まってしまっていたのだ。
「ねぇ御影優人、貴方こそ何の目的でこの世界に来たの?」
「………何で、俺が別の世界から来てるって知ってるんだ?」
「さあ、どうしてでしょうね?
でも今大事なのはそこじゃない、質問に答えてくれるかしら?」
「…………お前らも質問に答えなかっただろ、だから俺も答えない」
「ふふっ、可愛らしい答えね。
………まあ、それはいいわ。
それより貴方はこの世界をどう思う?」
「どう、って…………」
(初めこの世界に来た時は色々あった。
昔の俺では有り得なかった、気心の知り合いも出来た。
嫌な事もあったが、決して『悪い』と言い切っていいものでは無いと思う)
振られた答えに対しての答えは案外あっさりと出していた。
それが本当に正しいものなのか、ただの気の迷いなのかは優人には分からなかったが、それでも唯一出た答えを口にする。
「そりゃ、まぁ、悪くは無いと思うけど」
「ユート……」
「へぇ、思っていたよりこの世界に馴染んでいるのね。
私はこの世界をいいとは思わない。
明らかに力関係が総崩れしているし、それ以上に魔族の存在が曖昧過ぎる」
「………………」
「最近思うのよ。
何の為に私は生まれ、ここまで生きて来たのかってね」
「メロウ様、お喋りが過ぎるかと」
「ごめんなさい、確かにその通りだわ。
…………さて、そろそろかしら?」
「はい、後三分程かと」
急に話を変えたかと思うと意味ありげな言葉を呟く2人に、優人は思わず首を傾げてしまう。
だがそれ以上に怪しい行動はしない為、やはり無闇に行動出来ないでいた。
そんな時、またもメロウが妖しく微笑み、優人に語り掛けてきた。
「確認出来る事は確認したし、私達はここら辺で退出させて頂くわ」
メロウがそう言い終わるまでに、2人の背後に闇の霧の様な得体の知れないものが出現する。
それを一度見ている優人は次に何が起きるのか予測出来たため、驚くよりも先に体が動いていた。
「ま、待てっ!!」
地面がめくり上がるほど強く蹴り出して駆けて行った優人の手は
───────届かなかった。
「くそっ!!」
さらに空を切った手の先、闇の中からメロウによって衝撃的な事実が告げられる。
「そういえば、あのスライムもどきなら案外あっさり倒せると思うわよ?
…………ああそうそう、後3分もしない内にここは爆発するから、急いで逃げた方がいいんじゃない?
それじゃあ、ごきげんよう」
闇の奥まで進んで行ったメロウとセバスは闇と共にその場から完全に消え去ってしまう。
残された優人は一瞬呆然と立ち尽くしたが、メロウが言い残していった言葉のせいでそんな事をしている余裕は無かった。
『みんな早くボクの傍に集まって!!
一気にレインハートまで飛ぶよっ!!』
ズィナミの声だった。
慌てて後ろを振り向いた優人の目に映ったのは、クレーヌ達の上に浮かぶ光る何かとそれに集まるナナ達の姿。
「分かった」
『よしみんな来たね?
じゃあ飛ぶからみんな目を瞑っていてっ』
ズィナミが放つ光は徐々に強まっていく。
そして薄暗い洞窟を照らし尽くす程に眩い光が放たれたと思うと────
『じゃあ────いくよっ!!』
その後しばらくして光は収まったが、その場には何も残っていなかった。
──────────────────────
レインハートの北部では、未だに怪物との戦闘が繰り広げられていた。
「隊長!!
怪物の進路に居た住民の避難は無事に完了いたしました!!」
「そうか、他はどうなってる?」
「はい、武器を変えたり魔法の強弱を変えたりなど、ありとあらゆる試みを行っていますが何れも効果は薄いかと思われます」
「そうか…………
分かった、では他に逃げ遅れた者がいないか捜索してくれ。
それと非難した者への物資の調達も出来る限り急いでやってくれ」
「かしこまりました!!」
自分の元から駆けて行く隊員を見送り、ラーダは眉間にしわを寄せる。
突如として現れた怪物に対する有効手段は見つからない、さらに信頼する部下や優人達が山に向かって数時間が経過し未だに帰って来ないこの現状に、彼も内心かなり焦っていたのだ。
(そろそろ限界か…………
急いでくれ、クレーヌ、ユート………!)
幸か不幸か、ラーダのその願いは意外な形で叶った。
ラーダの前に現れたのは…………?
次回投稿は7/13(木)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m
同時掲載小説もありますので、もし良かったらプロフィールから読んでみてください(*^^*)




