47話
優人達が異変を感じたのは、衛兵の数が徐々に増えてきた辺りからだった。
「な、何か変な感じだね………」
「師匠、どうする?」
「とりあえず、ラーダ達の所と合流しよう」
数十分前にラーダはマールを連れてどこかに行ってしまい、優人達は会場の隅で固まって会話していた。
何人かが美人のリア目当てや優人の素性を知りたくて話し掛けに来たが、全員が全員ブラスの顔を見て表情を曇らせていた。
しかし、当の本人であるブラスは
「心配するな。
こうなる事は分かって来てるんだ、それなりに覚悟はしてたさ。
身構えていたらと意外と何とかなるもんだぞ?」
と苦笑いを浮かべていたが、案外大丈夫そうだった。
「ユート、衛兵が動き出したみたいだぞ」
言われて優人は周囲を見渡す。
すると散らばっていた衛兵達が屋外テラスの方に駆け足で向かって行くのが目に付いた。
「追いかけてみた方が良さそうだな」
「だったら急ごう!!
ナナ達以外にも見に行こうとしてる人がたくさんいてるみたいだし!!」
ナナの意見に全員同意し、少し駆け足で現地へと向かう。
テラスに近付くにつれ徐々に混雑していく中、人を掻き分けようやく騒動の中心辺りまでやって来た時。
──お姉ちゃん、見損なったよ。
ルルの、あの乾いた言葉が場を駆け巡った。
「ルル様…………」
悲しそうにそう呟くブラス。
その視線の先には普段の態度からは想像もつかない様な冷めた態度のルル、そして衛兵に囲まれその場にへたり込んでいるレイの姿が見えた。
(………………?)
全く状況を理解できていない優人だったが、テラスの隅から不思議な感覚を感じ、そこに目を向ける。
「(ユート~!!
あれ、この前の就任式で見た魔族だよ!!)」
「(なっ!?)」
頭上を飛ぶソフィアにそう言われ、優人はもう一度隅に目をやった。
しかし、もう一度見た時には既にその場から消え去っていた。
「…………これも奴らの策略かよ」
自分達の目的の為に子供までもを犠牲にする。
重臣達や魔族、そしてルルのその心無さに優人は遣る瀬無さと不快感を感じるのだった。
─────────────────────
その後、優人達はレイが捕らえられるまでの経緯を周囲の者の会話から知った。
そしてレイが衛兵達に連れていかれた後、そのまま食事会を続行することは困難になったため優人達は宿に帰って来た。
マールはラーダに、と言うよりかはクレーヌに半ば強制的に連行されていた。
部屋に入ってからも皆が皆戸惑いの表情を浮かべている中、ブラスと優人だけは険しい顔をする。
「ルル様、どうしてあんな事を」
「………これで分かった、ルルも完全に主犯だ」
「…………認めざるを得ない、か」
「ねぇユート、これからどうするの?」
困惑した顔で、ナナが尋ねる。
イリスやリア、ニレも同じ事を思っているらしく、渋い顔をして返答を待っている。
「どうしたらいいんだろうな」
しかし、優人から返ってきたのは力のない言葉だった。
『珍しいね、キミがそんな事を言うなんて』
「仕方ないだろ、俺だってここまで酷い事になると思ってなかったんだよ。
ブラスの言う通り、ルルは無理矢理悪事に加担させられてると思ってたからな。
これでも結構ショック受けてるんだ」
「ホントに珍しいね~。
………ていうかさ、まだそう決めつけるのは早いんじゃない?」
「「「「「?」」」」」
「どういう事だ?」
ソフィアの一言に、皆の思考が一度固まる。
「だーかーらー、まだあの緑髪の子が主犯って決まってないでしょって言ってるのよ!
頭カタいなぁ~もう」
はぁ、とため息をついてジト目で優人を見つめるソフィア。
いつもと立場が逆転してしまっている。
その小馬鹿にしたような態度に優人は今すぐぶん殴りたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えその言葉の意味を聞いた。
「だってさ~、子供なんだから上手くおだてれば何でも言う事聞くようになるでしょ?
別に脅す必要ないじゃん?
それに、あの子いっつも出来るお姉ちゃんと比べられてたみたいだし、ちょ~っと『お前もやればできる子って所を見せるチャンスだ』なんて事言われたら、簡単に信じ込むと思うけどなぁ~」
意外な事に、あのソフィアからぐうの音も出ない程の正論が飛び出してきた。
そんな異常事態にブラスを除く全員がポカンと口を開けてしまう。
そして、全員一致である結論に辿り着く。
「………ソフィア、お前風邪引いてるんだろ?」
「ひぇっ?」
「そうだよ!!
ナナと同じぐらい頭の悪いソフィアちゃんが、そんな事言えるわけないもん!!」
「酷っ!?」
「アクエリアス、看病してあげて?」
「だから風邪じゃないって!!」
「ソフィア、普段あんまり寝てないんだね。
いいよ、今日ぐらいは胸貸してあげるから」
「アタシの話聞いてる!?
………あ、でもそれは魅力的な―――」
「ソフィアさん大人しく寝てて下さい」
「一番辛辣っ!!」
悲痛な叫び声を上げるソフィアのおかげで、場の空気が一気に和む。
ただソフィアの言った事は実際に的を得ているので、今回の件において優人としては少し希望が持てた気がしていた。
「とりあえず、今日はもう遅いから明日ぐらいにでも第一騎士隊の所にでも行ってみるか。
もしかしたら向こうで何かいい案が出るかもしれないし」
─────────────────────
王宮の例の会議室では、ルルと王国の重臣達が集まっていた。
「———レイ様は今地下牢に収監されている。
これで大きな障害は消え去った」
「…………ではついに私達の天下ですね」
「ルル様も漸く、ご自分の真価を大衆に見せる時が来ましたな」
重臣達はいくつかのグループで談話していて、ルルの周辺にも数人の者が集まっている。
「お姉ちゃん、どうなるんですか?」
「さあ、分かりません。
とりあえずここに戻ってくることは出来ないでしょうけど」
「そうですか…………」
少し不安げなルルに、セバスから励ましの言葉が飛んでくる。
「ルル様、あまり深く考えないで下さい。
大事なのはルル様にも好機が回ってきたって事ですよ」
「そう、ですね。私、頑張ります」
握り拳を作ってやる気がある事を見せる少女に、セバスは優しく微笑む。
それが嬉しかった様で、ルルは珍しく顔を綻ばせる。
そんな時、近くで重臣の1人がルル様の耳元に囁きかける。
「ルル様、そろそろお時間です、寝室にお戻りになられた方が。
それに明日は市民への演説、そして書記のお仕事がございますので十分に休養を取って下さいませ」
「分かりました。
では皆さん、おやすみなさい」
ぺこり、とルルは一礼して会議室を後にしていった。
一瞬静かになった会議室だったが、すぐに別の空気感に変わる。
全員の顔つきが一斉に変わったのだ。
「…………では、本題に入りましょうか」
セバスの一言が、会議室によく響く。
「レイ様の件ですが、市民には『地下牢獄で数十年に渡り収監する』と伝える事にしましょう。
…………実際は、遅くても一週間以内に抹殺するべきでしょうね。
彼女は勘が良い、故に私達の事もすぐにバレてしまうでしょうから」
「今はあんな様子だし、放って置いても大丈夫じゃないか?」
「いえ、彼女自体は問題ないのですが、あの青年が動かないとも思えませんからね」
「…………御影優人、ですか」
一度策をぶち壊した青年の名前に、重臣達は皆苦い顔をする。
偶然とはいえ、優人のやった事は思いの外彼等にダメージを与えていたようだ。
「彼に抹殺計画を悟られない様に、慎重に行動しましょう。
……………とりあえず、明日の演説ではルル様に目立って頂かなければなりませんね。
上手く行けば明日、最大まで溜まりますからね」
そう呟くセバスの眼光が、不自然な程に揺れていた。
多くの者の思いが交差する中、事態は刻一刻と進んで行き…………
次回投稿は6/16(金)13:00予定です
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(__)m
同時掲載小説もありますので、もし良ければプロフィールから読んでみて下さい。




