表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈3章 アドゴーン山編〉
130/180

46話





「御免なさい、少々話し込んでしまいましたね。

私は他の方に挨拶に回りたいと思いますのでここで失礼させて頂きますね」


「ああ、分かった」




では、と一言告げてレイがその場を離れた。




「また、私を置いて行った…………」




ため息をつきながら、レイに完全に置いて行かれているルルはトボトボと後を追いかけていく。




「………お互い、出来る姉を持つのは疲れるよな」


「………………」




聞こえたかどうかは分からない、しかしそれでも優人はそう呟きたかった。

まるで過去の自分を見ているような感覚で、その弱々しい背中を見送るのだった。





















────────────────────────









「レイ様、セバス様が屋外テラスでお待ちです」




駆けつけたメイドにそう告げられたレイは、不思議そうに首を傾げる。


(このタイミングで呼び出すって事は、何か問題があったのかな?)




「分かりました、すぐに向かいます。

私の使用許可を取っておいて下さい」




そう告げると、レイはルルを探すため辺りを見回す。


────会場の端で重臣の1人、ルルが最も懐いている者と一緒にいた。





「暫く放って置いても大丈夫よね?」




ちょっとの間目を離しても何も起きない、そう信じることにしたレイは近くの扉からテラスに向かう。










屋外テラスの端にあるテーブルに、セバスは深く腰掛けていた。




「セバス、こんな所に呼び出してどうかしましたか?」


「レイ様、わざわざご足労感謝いたします」


「辞儀はいいです、それより要件を言ってください」




対面の椅子に腰掛け、セバスの話を聞く姿勢を取る。

周囲に人がいない事から大事な話だと察していたので、レイはある程度心構えしていた。





「………本当に勿体ない」


「え?」


「いえ、何でもありません。

───これを見て頂けますか?」




そう言ってセバスはシルク製の手袋をするり、と脱がす。




「こ、これは!?」




驚愕したレイの目に映ったのは、いつも従順に仕事をこなしてくれたセバスの手──────ではなく、魔の者の手だった。

皮膚は人では有り得ない黒光りを放ち、人の指の骨程ありそうな血管、そして異様に長く伸びた鉤爪の様な鋭い爪。


どれもレイを驚かせるには十分だったが、何よりも一番驚いたのが




「ど、どうして魔族がここに………」


「やはり驚きましたか。

そうですよね、自分の執事職に従事する者が魔族なんて事があってはならないですから」


「…………その事が分かってるなら、どうして?」


「それは今に分かりますよ」




今までに見た事のない、不敵な笑みを浮かべるセバスにレイは何かゾッとするものを感じ取る。

そして、最後の発言がどういう事か聞き返そうとしたその時だった。




「そこを一歩も動くなよ─────反逆者!!」


「なっ!?────どういう事なのです!!」





いきなり大勢の衛兵が流れ込んで来て、武器を構えてレイを取り囲んだ。

そして、予想だにしていなかった事が告げられた。




「レイ・ファルガン!!

お前には魔族との密会の嫌疑が掛けられていたが、今ここでそれが証明された!!

よって現行犯として拘束させてもらう!!」


「ま、待て──――――っ!!」




この騒ぎを聞きつけた人々が、いつの間にか群衆と化して騒めいていた。

その中に、レイがこの現状を最も見られたく無かった人物、ルルの姿が見え、2人の視線が交わった。




「る、ルル……………」




ルルは無言で、衛兵達に退いてもらって出来た道を歩きレイの前までやって来る。




「ねえ、ルルからも説明して?

いつも一緒に居たんだから私が潔白なのは知ってるでしょ?

一言『お姉ちゃんは無実です』って言うだけでいいから!」




目の前で立ち尽くすルルに、レイは必死で説得するように呼び掛ける。

―――こんな所で終われない、レイを動かす気持ちはそれだけだった。




しかし、現実は残酷なまでに彼女を裏切る。















「お姉ちゃん、見損なったよ」



















レイの中で、何かが崩れ落ちた。




無情にもルルが恐ろしく低く、冷たい声で突き放す様に言い放ったそれは、妹を思うレイの純粋な心を完膚無きままに叩き潰した。


いや、それだけではない。


その言葉を言い放ったルルの目が、表情が、まるで汚らわしい者に向けられる時のものだった事も、レイの心を抉っていた。




「ぁぁ…………そんな…………」




今まで妹の為にと思い、冷たくあしらった事は何度もあった。

でも、それは無知な妹を周囲の悪から守る為であって、決してルルをいじめたかった訳では無かった。

自分と距離を置き、自分が優秀な子を演じ続ければ妹にはしんどい思いをさせなくて済む。


レイにとってこれがルルを救う最善の一手だと信じて数年間努力を重ねてきたのだ。




それが、その努力が、たった一言で白紙に戻されたのだ。




大人びて見えるがレイはまだ少女同然、彼女が受けたショックは計り知れない物となってしまっていた。


もう彼女を動かす源はない。




「………………………」



───────バタッ。




言葉の暴力は、レイの意識までをも刈り取っていった。





「おや、彼女には少々刺激が強すぎましたか。

………私は厄介事になる前に失礼しましょう」




騒めく観客の視線がレイに向いている間に、いつの間にか手袋をはめていたセバスは闇に溶けていった。



こうして、最年少の国王の1人は、もう1人の最年少国王によって表舞台から姿を消す程の大罪人に突き落されたのであった。





ルルの裏切りによって衛兵に捕えられたレイ。

心の支えにしてきた妹によって完全に潰れてしまったレイはどうなるのか…………


次回投稿は6/14(水)13:00予定です



※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m


同時掲載小説もありますので、もし良ければプロフィールから読んでみてください(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ