43話
「ねぇユート」
馬車の振動に合わせて体が揺らされている中、ナナがずっと考えていたことを口にする。
「何でナナとマールさんなの?」
「あ、それは俺も思ったぞ。
ユート、何を考えているんだ?」
「あーいや、そんな大したことじゃないって。
ナナを選んだのは相手の国王がまだ子供だから、気さくな奴の方がいいなって思ったから。
マールはバックに王国がいるっていう牽制と、政治的な話になった時の手助けも兼ねてって訳だ」
「………そこまで考えていて『大したことない』ってさ、すっごく嫌味だよね~」
「なっ!?」
「ユートってそんな事ばっかり考えてるの?」
「さ、流石にそんな事は無いと思うぞ、うん」
いきなり核心を突かれてあたふたする優人。
ナナもそんな状況での発言は怪しいと思ったのか、優人を見る目がいつにも増して細くなっていた。
「あ、え、えーと………
ああ!そうそう、マールは王宮に行ったことあるのか?」
「あっ!!話逸らした~!!」
さすがに強引過ぎたか、と優人も内心感じていたが何とか無理矢理話を逸らすことには成功していた。
「はは…………
そうだな、隊長と何度か行ったことはあるぐらいだな」
「どんな感じだった?」
「どんな感じと言われてもなぁ。
他の小貴族と比べるならまず間違いなく大豪邸だと思うぞ」
「そりゃあそうだろ、王族なんだし。
じゃなくて中の雰囲気だよ。
殺伐としてるだとかそういう事」
ううむ、と顎に手を当てて唸るマールは、何かを思い出したかのように顔をばっとあげた。
「新国王の片方、姉の方は昔っから物凄く優秀な子供だとして一目置かれていた、ってぐらいだな」
「優秀な姉、か」
そう呟いて優人は外の景色に目を向ける。
───自分の姉も優秀だった。
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レインハートの町の構造はルークラート王国とは異なり、平面的にも立体的にも複雑な構造で高低差を生かした橋や、裏路地を利用した非住居空間、いわゆるスラムなど、巨大都市にありがちな光景が広がっている。
その中でもきれいに舗装された大通りを進む事数十分、優人達を乗せた馬車は外見からして大豪邸である屋敷の門をくぐり、玄関前までやって来た。
「屋敷に到着いたしました。
このまますぐに貴賓室にご案内いたしますので、馬車を降りて私達に付いて来て下さい」
「ああわかった、2人共降りよう」
「うん!」「おう」
兵達の後ろをついて行き屋敷の中へと入っていく。
入るとまず目に入って来たのは、赤や金の色が一面と広がる大広間。
二階へと続く階段が目の前にあり、その両脇には奥へと続く廊下の入り口。
兵達はその右手の廊下の方へと進み、優人達もそれに続く。
左側の壁にいくつもある扉を6,7回見送って次の扉を兵達はノックした。
「レイ様、ルル様。
お客様をお連れしました」
すると中から「どうぞ」と短く返事が聞こえ、兵の1人がゆっくりと扉を開け始める。
「ではこの中へお入りください」
兵の指示通り部屋の中に入ると、ソファに国王2人と老人が1人腰掛けていた。
まず金髪の方の国王がこちらに向かって声を掛けて来る。
「こんな朝早くにわざわざ申し訳ありません。
どうぞ、こちらにお掛けください」
向かいのソファに座ると金髪少女が軽いお辞儀の後に話し始めた。
「既にご存知でしょうが一応自己紹介させて頂きますね。
私の名前はレイ・ファルガン、この都市・レインハートの国王をしている者です。
そして私の横に座っているのが同じく国王のルル、さらにその奥にいるのがベザライトです」
「ルル・ファルガンです、宜しくお願いします………」
「ベザライト・アルベートです、お見知り置きを」
「俺の名前は御影優人、優人って呼んでもらって構わない。
よろしく─────っ!?」
「?」
優人が1人ずつ目を見て挨拶をしていくと、ルルの前で目が大きく見開いてしまう。
実の所、優人は挨拶しながら全員に真理眼を使っている。
そうやって怪しい者がいないか、逐次確認しているのである。
それをルルに使い彼女の名前を確認した時、そこにあったのは『ルル・ファルガン』ではなく、『ルル・ミントローズ』。
(ど、どういう事だ?
人が違う?別人の名前を名乗っている?)
「ユート様、どうかなさいましたか?
───妹が何か無礼な事を?」
まるで本当に無礼を働いたかのような目つきでルルを睨み、優人に対して申し訳なさそうに顔を俯かせるレイ。
その態度は明らかに姉妹のそれでは無かった。
「あ、ああいや何でもない。
ちょっと馬車に揺られ過ぎたから疲れてるのかもな、アハハ………」
「?
それならいいんですけど」
「それより、今日ここに呼ばれた理由をお聞かせ願っても宜しいですかね、国王様?」
「そんな畏まった言葉遣いをなさらなくても構いませんよ。
あくまで貴方達は客人、言葉遣いでどうこう言う資格はこちらにありませんので」
「それはありがたい。
じゃあここに呼ばれた理由を聞いてもいいか?」
ええ、と一呼吸置いたレイが今回の目的について少しづつ語り始めた。
王国で英雄と呼ばれている男が自国に来ているので、一度顔を合わせたかった事。
そして─────
「────そして、この土地で私達の元兵長を購入したと聞きましたが」
「ああそうだけど。情報が早いな」
「それはもちろん、身内で起きた事ですから。
その後どこかでまた粗相をされても、困るのは私達の方ですからね」
「…………そうですか」
少し冷たいな、そう感じる優人だったがそれ以上にルルの表情が気になっていた。
レイがブラスの悪口を言い始めた途端に苦悶の表情を浮かべ始めていたのだ。
(ブラスに関しては、レイとルルの考えは真逆のようだな)
「──とまぁ、私達がユート様を呼んだのは以上の理由です。
………それと、こちらをどうぞ」
そう言ってレイがポケットから取り出したのは何か書かれている紙切れが七枚。
丁度優人達の人数分である。
「これは?」
「今夜の食事会の招待状です。
もしよろしければご参加下さい」
「いいのか?
俺らみたいなただの一般人が」
「ええもちろん。
寧ろ貴族の者達はユート様に会いたいでしょうから」
「そ、そうなのか………」
優人が少し面倒そうに顔を引きつらせていると、レイやルル、ベザライトと呼ばれた老人が順にソファから立ち上がる。
「では私達はこれから用事がありますので、ここでお引き取り願っても構わないでしょうか?」
「あ、ああ分かった。
じゃあ俺達も帰ろうか、ナナ、マール」
来てすぐに帰れって酷くないですかねぇ?
しかし本当に今回は振り回されっぱなしですねぇ、優人も笑
次回投稿は6/8(木)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m
同時掲載小説もありますので、良ければプロフィールから読んでみてください。




