41話
「なっ!?
あの『英雄』が今回の行動を!?」
「有り得ない、どうやってこの情報を得たというのだ!!」
「─────内通者」
誰が言ったのか、『内通者』の一言で全員の顔──ルルも含めて──が固まった。
そしてお互いがお互いの顔を見、まるで牽制するかのような鋭い視線を浴びせ合う。
そんな硬直状態が数分間続き、額から、全身から冷や汗が止まらない中でまず口を開いたのはセバスだった。
「………今私達がすることは、犯人捜しではなく今後の方針を決める事です。
それに、彼は先日ここに来たばかり、どうやって内通者を潜り込ませるんですか」
「そ、それもそうだな。
いやー、流石はセバス様、私達の様な崇高な龍人族よりも頭が切れてらっしゃる。
………して、どう動くおつもりで?」
「やはりここは一度会うべきでは無いでしょうか?」
「…………え?」
セバスの一言でまた、空気がピリッとする。
「じょ、冗談がきついですよセバス様。
ほ、他の魔族の皆さんもそう思いますよね!?」
「いえ、私達はセバス様に従うだけなので」
「そ、そうですか…………」
重く沈み込む中年男性に代わり、今度は初老の男が声を発する。
「セバス様、その意図をお聞かせ願えんかの」
「そう、ですね。
まず私達魔族が出ると気付かれる恐れがあるので、そこは遠慮させていただきます。
なので貴方達で彼の相手をして貰いたいのです。
彼がどのような人間か分かっていないと策すら練れませんからね」
「た、確かに言われてみればそうだがのぉ………」
「ではその方針で話を進めていきますね。
早ければ明日にでも王宮に呼ぶ方がよろしいかと」
「早いですね………」
「と、とりあえずこの件はセバス様に一任するとしましょう。
…………そろそろレイ様の所に戻らないと不審がられないでしょうか?」
「そうですね、そうしましょうか。
───ルル様、レイ様には」
「はいもちろん悟らせていません。
お姉ちゃんは私の事を『出来ない子』として見てるでしょうから」
「それは良かった。
何があっても悟られてはいけませんよ?」
「はい…………王国の為にも」
(……………………?)
重臣の皆が食事を、と移動を開始したタイミングでセバスが部屋の隅に目をやる。
………しかし何もない。
「セバスさん?」
「ああいえ、私の気のせいです。
早く行きましょう、ルル様」
───────────────────────
「─────以上が、アクエリアスの見聞きした事だ」
就任式の後、優人はアクエリアスに頼んで双子の監視、それと王宮に魔族がいないかを兼ねての潜入捜査を依頼していた。
アクエリアスは空気中の水を操れるため、それを用いて特定空間の音を集める事が出来る。
つまりは何の道具も用いない超万能型盗聴器の完成である。
そしてこれによって思わぬ収穫が手に入ってしまっていたのだ。
ふぅ、と優人は一息ついて周囲を見渡す。
口をあんぐりさせて驚いているのがナナとマール、ブラス。
興味が無いのか、特に何の反応も見せていないのがリアとズィナミ。
そして一番質の悪いのがイリスとソフィアだ。
「師匠、最近アクエリアス、使い過ぎ」
「そーよ!!
アタシという精霊がいながら何で他の契約主の精霊ばっかり使うのよ!!」
「だって仕方ないだろ?
ソフィアにそういう潜入が出来ると思えないし」
「酷いっ!?
アタシが『知』を司る精霊だってこと忘れたの!?」
「あー………………」
忘れてたと言わんばかりに目を逸らす優人。
さすがにショックだったようで、いつものようにソフィアはリアの胸元に飛び込んでいった。
「ま、そういう訳だからイリス悪いな」
「どういう訳か、良く分からなかったけど、分かった。
師匠、この後どうする?」
「さすがにこれは俺らの手に負える案件では無いだろ。
マール、第一騎士隊にこの案件を任せようと思うんだけど」
「まあ、それが妥当だろうな。
今の音声を持たせれば、向こうで上手くやってくれると思────」
「ま、待ってくれ!!」
突然発せられた声の方に全員が一斉に振り向く。
────ブラスだった。
「どうした?何か不味い事でもあったか?」
「……………頼みを聞いて欲しい、ルークラート王国の英雄よ」
「お、おぅ…………何だ?」
「どうか、今回の件は私達の方で内密に対処出来ないだろうか?
出来るだけ、大事にはしたくないんだ」
「…………ルルって子のためにか?」
「ああ、今回の件、ルル様が深く関わっているのは事実。
そんな状況で他国の騎士隊に任せたらルル様までもが犯罪者扱いになりかねない」
「王国の騎士隊にそんな人はいな───」
自分の騎士隊を侮辱されたマールが反論しようとするのを優人が片手で制する。
(………ブラスはああ言ってるけど、現実はそうでは無いんだろうな。
こいつには悪いけど、我慢して乗り越えてもらうしかないか)
先程の王宮での会話からある程度悟っていた優人は、少し口元を緩ませて喋り始めた。
「話は分かった。
だとしても俺の事を『ルークラート王国の英雄』って呼ぶやつに手を貸したくはないな」
「…………ぷっ、あはははっ!!」
予想外の切り返しに、ブラスは思わず笑ってしまう。
そしてしばらく笑った後、ゆっくり顔を上げて笑顔のまま口を開いた。
「そうだな、私は今は貴方の奴隷だ。
ここは『ユート様』とでも呼んでおくことにしようか?」
「……………変な性格なのはお互いさまって事か。
俺の事はユートでいいよ、別にブラスを一生奴隷にするつもりは無いからな」
「感謝するぞ、ユート」
そういって差し出した手を、優人は握った。
裏で働く謎の陰謀も、優人にかかれば大した事無いですねw
というか最近の優人、ただの悪人じゃ………
次回投稿は6/4(日)13:00予定です
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(_ _)m
同時掲載小説もありますので、良ければプロフィールから探して読んでみてください(*^^*)




