38話
就任式当日の朝。
「ユート、準備は良いか?」
「出来てるぞ。
…………まぁ、準備なんて服着る事ぐらいだけどな」
「本当、ユートにかかれば敵が哀れに見えて来るよ。
────ブラスさん」
既に支度を整えて座っていたブラスに対して、マールが言葉を掛ける。
「式中では出来るだけ目立たないようにお願いしますね。
たとえ、あなたの慕う人が現れたとしても」
「分かっている、さすがにそこまで直情的ではないさ。
今回はルル様の一大事であるわけだからな」
ブラスの目は力強かった。
昨日の彼女からは想像も出来ない程に。
「ま、そんなに身構えなくても良いだろ。
あくまで今回は不審な奴を見つけて捕らえ、レインハートの国王を守るってだけだろ?」
「ったく、ユートはあっさり言ってくれるよな。
…………そろそろ第一騎士隊も位置に着いた頃かな」
「式まであと一時間半ぐらいか。
少し早い気もするが第一騎士隊の隊長にも挨拶しておきたいからな。
もう出るか───おーいナナ!!そろそろ出るぞー!!」
隣の寝室から「はーい!!」と言う声が聞こえてから数分後、いつも通りの私服に着替えていたナナ達女性陣が出て来る。
皆準備は整ったようだ。
「ナナ達は場所取りを頼む。
俺とマールとブラスは第一騎士隊に顔出してくるから」
「うんわかった!
場所は祭壇が見えやすい所でいいんだよね?」
「そうだな。
────よし、行こうか」
優人達は足早に宿を出発していった。
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意外にも、祭壇の周りには既に何人もの人が陣取りを始めていた。
その様子から今回の主役の人気の高さが見える。
「じゃあ後は頼んだ」
それだけを告げると、優人達3人は祭壇脇で打ち合わせをしている全身毛むくじゃらの男の方に足を進める。
「ラーダ隊長、ユートが挨拶したいと」
「おおそうか!!
すまんなクレーヌ、話は後にしよう」
その毛むくじゃらの大男は話していた女性───クレーヌを一歩下がらせると優人の方に向き直った。
(………ライオン、なのか?
まあ、この堂々とした態度からしてそうなんだろうな)
「初めましてだな、俺の名前はラーダ・ジャスリー。
王国第一騎士隊隊長を務めている身だ。
ラーダでいいぞ、宜しくな!」
そう言ってラーダは笑顔で左手を出してくる。
優人はそれに答えて、握手を交わしながら自己紹介をする。
「知ってはいると思うが御影優人だ。
こちらも優人でいい、よろしくな」
「そうだな、ついでに紹介しておくとこっちは───」
「王国第一騎士隊隊長補佐を務めています、クレーヌ・アインゼラです。
どうぞお見知りおきを」
「ああ、宜しく頼む」
クレーヌと呼ばれた女性とも握手を交わす。
クレーヌはマールと同じく猫人らしく、そのクールな振る舞いとは裏腹にピョコピョコ動く三角の耳が何とも愛らしい。
「…………久しぶりだな、ブラスよ」
「ああ、迷惑をかけたなラーダ殿。
こうしてまたお前の顔が見れるとは思ってなかったよ」
ブラスとラーダも握手を交わしたところで、いよいよ本題に移る。
「で、警備の方はどうなってるんだ?」
「ああ、あんたの言う通り全体的に見直して、出来るだけ死角の少ない編成にしたさ。
よっぽどの事が無い限り不審な動きを見逃す事は無いと思うが、そのよっぽどの時はユート、あんたの力を借りたい」
「もちろん、そのためにここに来たんだからな」
「………しかし考えたくありませんね。
今回の件に魔族が関与しているなんて」
クレーヌのその一言に、優人を除く全員が苦い表情になる。
それもそのはず、本来魔族など人の敵う相手ではないのだから。
「魔法陣が見つかった以上、冗談抜きで事にかからないとな。
………っとそろそろ王族の警護に向かわないといけないか。
悪いなユート、せっかく来て貰ったのに」
「いや、急に来たのは俺達の方だ、それぐらいは承知だ。
王族の警護、頼んだ」
「それが仕事だよ」と言い、ラーダはクレーヌを連れて祭壇の裏手に向かって行った。
優人達もナナ達の確保していたスペースに移動をし、祭壇の方に目をやる。
そこには幹部であろう数人の老人と赤いマントを着せられ、ちょこんと愛らしく座る2人の龍人族の少女の姿があった。
(あんな小さい子達がレインハートの国王……………
いや、政治とかはあの老人達がやるんだろう、形だけの王様ってやつか)
「えー皆さま、本日はお越し頂き誠にありがたく存じます。
大変長らくお待たせいたしました、これより第6回就任式を取り行いたいと思います」
次回投稿は5/29(月)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(__)m
※新作として短編小説書きました、興味のある方はプロフィールから探してみて下さい。
誰でも読みやすいように、一話完結となっています。




