29話
馬車で言葉が飛び交っている一方、ちーちゃんの上でも言葉が飛び交い始めようとしていた。
「この3人だけでどこかに行くのって久しぶりだね!!」
「ちーちゃんの上、だけだけど」
「もうっ、そんなツッコミは厳禁だよイリスちゃん!」
「ナナは元気がいいね、旅行楽しみ?」
「そりゃあもちろん楽しみだよ!!
ナナは温泉好きだしね!!
そういうリアさんは楽しみじゃないの?」
「そりゃあもちろん楽しみだよ?でも……」
「でも?」
はぁ、とひとつため息を落としリアは頬に手を当て外の景色に目をやる。
「ユート様との旅行、絶対何か起きると思うとね」
「…………あー。
何かすっごく不安になって来た………」
「師匠は、面倒事に、愛されてる」
その事に関しては全員が共通認識らしく、揃って首を縦に振る。
するとみんなの様子を見ていたアクエリアスが面白半分で、最も強力な爆弾発言を炸裂させる。
「みんなあの異世界人の事が好きなのね~。
で、彼のお気に入りは誰なのかしらね?」
「「「………」」」
全員の顔が固まる。文字通りピクリとも動かない。
こんな状況になるとは思ってもみなかった精霊自身さえ、その空気感に圧され言葉を発せずにいるのだ、もはや地獄以外の何ものでもない。
そんな地獄で、まず先陣を切ったのはナナだ。
「そりゃあやっぱり一番一緒にいる時間の長いナナじゃないかなー!?」
「まって」
続いて声を出したのはイリス。
「私は、いつも、可愛がられてる」
「それはイリスちゃんが子供だからでしょ!?」
「負け惜しみ?」
「なっ、ち、違うし!そもそも負けてないし!!」
「……………」
ナナとイリスが言い争っている間、リアは意外にも口出ししないでいた。
気になったアクエリアスが口論中の2人を置いて彼女に寄り、どうしたのか尋ねる。
「えっと、私はユート様に自分の気持ちを知ってもらえていればそれで十分だから、特にお気に入りがどうとか考えたことが無くて…………」
「そう、考え方が大人なのね。
それで困っていたのね」
「ええまあ。
一緒に居れればどうでもいい、じゃダメかな?」
頬を赤らめてそう呟くリアの顔は、完全に恋する乙女のそれだった。
可憐、美麗、魅力的、どんな言葉で飾っても表現が足りないように感じさせる美女がそこにはいた。
リアの表情を見たナナとイリスはその優美さに少し見とれてしまい、終いには自分達の口喧嘩の事など忘れてリアに駆け寄っていた程だ。
「リアさん!!何かあったの?」
「え、いや、何もなかったけど?」
「嘘だぁ!!
さっきのリアさん、すっごく綺麗だったもん!!」
「うん、綺麗過ぎた」
「そ、そう?
何か面と向かって言われると照れるな…………
って私の話はいいから!!」
「話変えようっ!」と慌てるリアを見て、ナナとイリスが思わず吹き出してしまう。
さっきの重たい空気から和やかな雰囲気に変わり、元凶であるアクエリアスもほっと一安心する。
「あのさ、こんなタイミングでする話じゃないんだけどさ」
一息ついたところでナナが別の話を切り出す。
「ナナ、何かあったの?」
「この前モンスターが襲って来た時なんだけどさ」
「うん」
話の感じから真面目な事だと思い、イリスとアクエリアスも真剣に耳を傾ける。
「ナナが襲われそうになった時、ユートが助けに来てくれたよね。
あの時さ、ナナの事を『俺の女』って言ったんだよ!!
もうあれだよね!?両思いだよね!?」
…………残念、全く以て真面目な話ではなかった。
「そう思うのだったらいっその事告白すればいいのに………」
「うっ………
そうなんだけどさ、中々タイミングが無くて………」
「ナナが奥手、似合わない」
「さらっと馬鹿にするのやめて!?」
「ま、まあいずれにしてもユート様から告白なんて有り得ないだろうし、覚悟決めないといつまで経っても平行線だよ?」
「そうだよね…………
よし、この旅行中にナナ、頑張るよ!!」
握り拳を高く突き上げて「おーっ!!」と気合を入れるナナ。
しかしイリスとリアの脳内に浮かんだのは、結局言えずに酒に逃げるナナの姿だった……………
「ぶぇっっくしゅん!!」
「英雄………………ユートさん、風邪でも引いたんですか?」
「いや、何か嫌な予感がしてな………
なあマール、いい加減タメで話してくれないか?
仰々しくされるのはやっぱり嫌なんだよ」
「は、はぁ努力します」
「はいもうダメじゃねーか」
「くっ………
わ、わかった?」
「おお、その方が気が楽だわ、これからもそれで頼む」
「お、おう!」
「いい歳した男2人がそんな事で盛り上がらないで下さいよ………」
ニレの嘆きは誰にも共有される事が無かった。
ナナの恋もいつか実ればいいですね~
というかそろそろ優人も動けよっ(笑)
次回投稿は5/11(木)13:00予定です。
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(__)m
同時掲載「死神が死神をやめるまで」も読んで頂ければ幸いです。




