26話
「……力加減、間違えた?」
「い、イリスちゃん………」
こんな事誰が予想出来ただろうか。
記念すべき一体目との交戦は、あっけなく終わってしまった。
「俺も驚いた。
イリスのアクアボールがそんな威力だったとは」
デスパイアーが現れて先手を打ったのはイリス。
水魔法・アクアボールの形状を針に変形させ、デスパイアーの顔目掛けて打ち込むと見事に貫通し、文字通り風穴を開けてしまったのだ。
優人は一撃で倒してしまったイリスの実力、ナナとリアはまさかイリスが一人で倒すという空気読めない行動に出てしまった事に驚いていた。
倒された仲間の気配を感じ取ってか、すぐに二体目がやってきた。
二体目との戦闘が始まって数分後。
「へぇ、これは驚いた」
後ろから見ていた優人は素直な感嘆の声を上げた。
3人の連携はもちろんの事リアの短剣の扱いやイリスの魔法の応用の仕方、そして何より優人を驚かせたのはナナの剣捌きが格段に上達している事であった。
「ナナ、お前いつの間にそんなに剣を使えるようになったんだ?」
「それはねーリアさんに教えてもらったんだ!!」
「リアがか?」
駆け寄って来たリアに目をやると、少し気恥しそうに顔を俯かせる。恐ろしく可愛らしい。
しかし、そんなリアを堪能する暇を与えないかのように、デスパイアーの群れが押し寄せてくる。
「うっわ、こんなに増えてくるなよ……虫かよ」
「いやいやユート虫だから!!
───ってまあ、イリスちゃんが居れば慌てる必要も無いかな。
ユート、ナナ達だけで戦ってもいい?」
「ああ、別にいいぞ」
「あ、いいんだ…」
「?」
どうしたものかと首を傾げていると、敵が思ったよりも近くに来たのでナナがイリスとリアを連れて前に足を進めていく。
(何だろう……ナナも随分成長したなぁ)
蜘蛛の脚を何本も切り飛ばすナナを眺め、優人はそんな事をふと思ってしまう。
そしてあっという間に蜘蛛共を狩り終えた3人は青年の元に駆け寄り、まるで「褒めて!」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
「あ、ああお疲れさま。よくやったと思うぞ」
「……………すごい、です」
「ホント!?
ニレちゃんありがとう!!」
小さい声で驚愕を伝えるニレにナナが思いっきり抱き着く。
苦しそうに身をよじるニレだが、恐らく苦しい原因が抱き着かれている事でないことに気が付いているのか、ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「………もう、帰るか」
「師匠、嫉妬?」
「ちげぇよ、興醒めだ………
やっぱナナはナナだよなぁ」
「え~?
ユートの今の言い方は絶対嫉妬してたよね~!」
『キミもそういう感情になるんだね~。
ソフィアとは初めて気が合いそうだよ』
「まあ、ズィナミと気が合うなんてユート絡みじゃないとまずありえないよね~。そういえばズィナミ知ってる?
ユートってみんなが寝静まった後でさ────」
「……………」
その日、森に悲鳴とも言えない悲鳴が響き渡ったとか渡ってないとか、そういう噂が流れたかどうかは知る人ぞ知るのであった。
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「どうだ、そっちに居たか?」
「いや、こっちにはいないかった。
これで残すは北の住宅街だけだが……」
「ああ、こんな夜に歩き回るのはあまり得策ではないな。
仕方ない、今日はいったん切り上げて明日の朝から捜索再開だ、まだ探し回ってる連中にも連絡しておいてくれ」
「ああ分かった、ラースさんに伝えておく。じゃあな」
石造りの橋の上で業務的な会話が交わされ、使い込まれたチェーンメイルやヘルムに身を包む男2人がその場から去っていく。
足音やメイルの擦れる音が徐々に遠く感じられ、意識を集中させても聞こえないぐらいになった時、その石橋の下───アーチ状になっている所の根本付近にある僅かな隙間から大きなため息が聞こえてくる。
「何とか、凌いだか………」
月の光が絶妙な所で途切れているため、残念ながら素顔は窺えないがその綺麗な声から女であることは判断できる。
「しかしまさか私がこんな闇に隠れることになるとはな。
今後この国は私の話で持ち切りだ、早く出て行かないと………」
女はどこから取り出したかは分からないが1枚の紙を取り出し、目の前を素通りしていた月の光の道筋にそれをかざす。
その事によって映し出されたのは、2人の少女の写真。
1人は赤い髪で細身の体が特徴的で、もう1人はエメラルドグリーンの髪色という珍しさともう片方の子と比べてかなり低めの身長が目に付く。
そんな2人が手を取り合って笑っている、そんな写真だった。
「………ルル様」
ぽつり、近くにいたとしても聞こえないだろう声量で呟く。
その声は寂しさ、不安、などの負の感情を乗せているように感じ取れるが、それとは逆に優しさ、慈しみなどの感情もうかがえる、何とも複雑で矛盾した雰囲気を醸し出す。
「あと3日、それまで耐えれば………っ!?」
遠くから徐々に近づく足音に気が付き、咄嗟に手を引き紙をしまう。
やがて話し声が聞こえてきたが、どうやらただの住人だったようで女は一安心し、彼らが過ぎ去るのを待つ。
「………………………行った、か」
1つ小さなため息が漏れる。
「これでは、動くに動けないな……………
もう少し人の少ない所に移動しなければ」
それから、「チャプンッ」という音と共に女の気配は消えた。
森の悲鳴?察してあげて下さい笑
どこかの都市を逃げ回る者の正体は………?
次回投稿は5/6(土)13:00予定です
※誤字脱字、感想等何でもお待ちしておりますm(__)m
同時連載「死神が死神をやめるまで」も読んで頂ければ幸いです。




