10話
主人公がひねくれ倒しますが、
優しく見守ってあげてください。
―――タッタッタッ。
「ハァハァ………えっと確かこの辺?」
満月の光が、森の奥深くまで射し込んでくる。
「んー、もうちょい奥なのかなぁ…」
神秘的な光景には目もくれず、少女は森の中を駆け巡る。
「――――――あ、いた」
森の奥にあった小さな洞窟で、彼女は探し人をみつけた。
そこにいた青年は、大きく目を見開いて驚いていた。
「探したよ――――――ユートさん」
そう彼の名を呟く彼女の頬を、一筋の光が伝った。
――――――――――――――――――――――――
「………でねー? イルミさんったらまたドワーフの人に飲み比べで圧勝しちゃってさー」
「………………………………」
青年―――御影優人がいた洞窟にいきなり現れた少女は、こうして何時間も一方的に喋り続けていた。
「あ、そういえばこの前ね―――」
「…………ナナ」
びくっと肩を震わせると、ナナは少し申し訳なさそうに俯く。
「……ごめん、1人で勝手に盛り上がっちゃって。
迷惑だった、よね?」
「…………………お前はもう帰れ」
以前より少し低く、感情がない声でそう言われ、ナナは少しムッとした。
「嫌、帰らない」
「帰れって」
「帰らない」
「帰れよ!!」
「嫌!!」
ナナは優人の怒鳴り声にも負けない程の大声で、はっきりと言葉を繋いでいく。
「だって3ヶ月だよ!?
どれだけ探し回ったと思ってるの!?
ユートさんがいなくなって、すぐ帰ってくるって信じて、でも帰ってこなくて、ギルドのみんなや知り合いにも手伝ってもらったりして、それでも見付からなくて、2ヶ月ぐらいから街では死んだんじゃないかって噂になり始めて、それで、それで………!!」
涙で顔がクシャクシャになっても、ありったけの思いを言葉にする。
「ずっと、ずっと探したんだよ?
だから、だからさ―――」
優しく、壊れ物を包むように優人の背中に抱きつき、
「―――お願いだから、どこにも行かないで」
オーガの集団が襲ってきたあの日からずっと言いたかったことを、ナナは口にする。
「……………そんなのは、気の迷いだ」
「…………………………………………」
肩に顔を埋めて涙を流すナナに、優人はそんな言葉を呟く。
「どうせ、お前もいつか忘れるよ、俺の事」
「忘れない」
「無理だ、生き物はそういう風に出来ている」
「それでも、ナナは忘れないよ」
「それでも―――」
「ユートさん、ううん、ユート」
ナナは抱き締める力を強くして、
「ナナはユートじゃないからどんな辛いことがあったのか分からないし、ユートみたいに賢くないから知りたくもないことを知っちゃって悲しくなったりした事も無い。
でも、だからこそ、ナナはユートが見ているものを見てみたい。
ユートと同じ苦しさとか辛さとか悲しさとか、そういうのを全部感じて、ユートのことをもっと知りたい」
「……………………耐えられないぞ」
その声は、僅かながら苦しそうだった。
「うん、多分耐えられないと思う。だから、その時はまた助けてほしいな」
「そんな事、俺に出来るわけないだろ」
「ううん、ユートなら絶対に出来る」
はっ、と優人は顔をナナに向ける。が、ナナの真剣な眼差しに、優人はまた俯く。
「…………俺はそんなに出来た人間じゃない」
「そんな事ないよ、ユートはすごいもん」
「…………………なあ、一つだけ聞いていいか」
「うん」
「どうして、そこまで人を信じられる?」
どうしてかぁ、とナナは抱きつきながら唸る。
そして、一つの答えを出す。
「別に、誰でも信じれる訳じゃないよ。でも、ユートは信じれる」
「どうして」
「ユートだから」
それは……と言いかけた所で、優人は止まる。
きっと、この問い自体に意味は無い。
そんな事とっくに気付いていたはずだ。
でも、答えが欲しかった、ずっと前から。
だから、無責任ながらにもナナに答えを求めてしまった。
だけど、そんな問いでもナナは答えをくれた。
それが自分の欲しかった答えかどうかは分からない、違うのかもしれない。
俺は、彼女を信じていいのだろうか。
違う、その答えはもう出ている、口にするだけだ。
「……………裏切らないか?」
「うん、裏切らない」
「信じても、いいのか?」
「うん、信じて」
この言葉が本当である確信はない、嘘かもしれない。
でも、ここを捨ててしまえば、本当の意味で人として終わる、そんな気がする。
だから、
「………なあ、ナナ」
「うん?」
彼は、今一番の気持ちを紡ぐ。
「……1人は、もう疲れたよ」
その言葉は寂しさで溢れていたが、そこには優人の言葉の中で一番、感情があった。
「大丈夫、ナナがいるよ。もう一人じゃないよ」
「ナナ、俺はお前を信じたい」
「…うん」
「だから……一緒にいてくれ」
「うんっ、うんっ……!!」
背中で泣きじゃくるナナの頭を撫でてやる。そんな彼の目にはいつの間にか、かつてのものとは比べ物にならない程の光が宿っていた。
個人的にはこういう回大好きなんですけど、
皆さんはどうですか?
次回投稿10/30(日)13:00予定です




