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ひねくれ者の異世界攻略  作者: FALSE
〈3章 アドゴーン山編〉
108/180

24話




奴隷商店を出た後、優人は王国を少しぶらぶらしていた。

といっても、リアに頼まれた食材の買い足しなどをして回っているだけなのだが、それもすぐに終わりそうなので暇つぶしをしている訳である。


王国にいると多くの通行人に話しかけられるため、今の自分が元の世界に居た頃の自分と同じとは思えない様な気がしてしまう。




(そういえば春物の服とかって持ってないよな………

明日か明後日にみんなで買いに行くか)



いまいくらあったっけ、と思い足元に目をやりつつ確認していると、突然目の前に人が立ち塞がりぶつかりそうになってしまう。




「おっと、悪い不注意だっ────」




顔を上げた先に居たのは、イルミ。

しかも、本能が危険信号を出しているほどの笑顔付き。




「ユートさん、お久しぶりですね。

ちょっと、今から付き合ってもらえますか?」


「あ、いやでも俺もう帰r「いいですね?」………はい」




強制連行確定。

イルミの気迫に屈服した優人は、為す術も無く近くの飲み屋に連れていかれた。


その光景を見ていた人々によって、イルミは「英雄様を打ち負かす唯一の平民」として後に『姉御様』と呼ばれるようになるのだった。























─────────────────────────





朝の酒場は人が少なく、カウンター席に数人、テーブル席に至っては1つしか埋まっていない有様だ。


その埋まっているテーブル席に座る男女2人組の前に置かれたビールジョッキは4つ。




「あ、あのイルミ、さん?」


「あら、どうして敬語なんでしょう?

いつものように『イルミ』と呼んでくだされればいいのに」




目の前のビールジョッキを3と1に分配し、1つを呷るイルミ。

もちろん、イルミが3で優人が1である。


これからイルミが話すことの内容は大体予想できているのだが、イルミの目線が「早く話を振れ」と訴えている気がしたので優人の方から話を持ち出す。




「えっと、今日はどんな用事で」


「以前みたいに私の愚痴でも聞いてもらおうと思ってね。

この前ね、仕事先に変わった木箱が届けられてね、ガランさん宛だったんだけど偶然中身を見ちゃって。

ねぇ、中身何だったと思う?」




気付けば既にジョッキが1つ空になっている。

2つ目のジョッキに手を掛けながら笑顔で優人の回答を待つその姿からは、静かながらもマジ切れ状態のナナ以上の恐ろしさが感じ取られてしまう。


故にこの場に出くわしていたカウンター席の者達は皆こう思っていた。

──あぁ、詰んだな。と。



そしてその詰んだ男・優人の脳内はモーター音が聞こえそうな程にフル回転していた。



(マジでどうするよ!?

この状況、答えても答えなくても地獄しかねぇっ!!?

くそっ、やっぱり直接誰の目にも届かないところで見せるべきだった………)




ジョッキ2杯目が空になる。


全身至る所から冷や汗が出ている優人の前には、3つ目に手を伸ばすイルミが涼しげな表情で優人を見ていた。

言わなくても分かるだろうが、もちろん笑顔だ。




3杯目も空になりそうなところで、意を決した優人が行動に出る。



「すいませんでしたっ!!!」


「……………」



両手を太ももの上に置き、テーブルにぶつかりそうな勢いで頭を下げる。


イルミは無言のまま、空にしたジョッキを置き───



────バンッ!!!!



「謝まられても許せる訳無いでしょっ!!?」




吠えた。

優人の「とりあえず本気で謝る」作戦はまさしく火に油状態だった。

イルミの怒声に周囲の人間や店員までもがすくみ上ってしまい、店内は殺伐とした雰囲気にのみ込まれてしまう。




「………誠意を見せて下さい」


「え?」




少しの沈黙の後、睨みを利かせたイルミはそんな事を口にした。




「もし、本当に悪いと思っているのなら行動で示すべきじゃないですか?」


「た、確かにそうだけど………」


(つまりあれだよな、日本人の伝家の宝刀を今ここで見せつけてみろって事だよな?

……………やるしかない、か)




ガタッ、と椅子を鳴らしながら立った優人は対面のイルミの横にいき、視線をそらさずにその場で正座を始める。

いきなり何事か、と目を丸くするイルミを他所に優人は両手を八の字にして地面に揃え、そして額が地面に触れるギリギリまで下げた。




「誠に申し訳ありませんでした」




誠意の象徴とも言えよう、土下座がそこにはあった。

イルミはこうなる事を予測出来なかったのか、口をパクパクさせているが優人は微動だにしない。


過去に優人が土下座をしたのは一回、バイトをクビになった時だけでありそれは割と新しい記憶だったため、思いのほかスムーズに出来てしまった。



(イルミさんがどんな表情をしているかは分からないけど、こちらから頭を上げる訳にもいかないからな────くっ、ここでかよっ)



またしても、悪いタイミングでフラッシュバックが起こってしまう。





───────────────────────



”優人君、そろそろ認めたらどうなんだい?”



いえ、だから自分がやったのではないですって。



”現に〇〇さんの証言があるじゃないか”



そんなの嘘に決まってます、証拠が無いじゃないですか!



”言い訳なんて聞きたくないよ、早く誠意を込めて謝り給え”



くっ。………すいませんでした。



”うん、君の誠意は伝わったよ”



………では、俺はこれで。



”ああ、君はもう明日から来なくていいよ”



────え?





────────────────────────────────





「────トさん!!ユートさんってば!!」


「うおっ!?………イルミさんか」




体を揺すられている事に気が付き、顔を上げるとすぐ目の前にイルミの顔があり無条件で身を引いてしまう。




「もうっ!!

何回も名前呼んでるのに返事してください!!」


「あ、ああ悪い………」




さっきの本気ギレとは違って優しさのある怒り方をするイルミに、優人は申し訳なさそうに俯く。

とイルミが怒りから打って変わって悲しみの表情を見せる。




「あの、私の言い方が不味かったようですいませんでした」


「いや、イルミさんが謝る事なんて無いだろ。

むしろ謝る「違うんです!」……え?」


「その、前の時みたいに嫌な雰囲気を感じたので、また何か嫌な事がフラッシュバックしたのかなって。

だとしたらその要因を作ったのは私ですから、すいません」




何か言い返してやりたかったが、イルミの言っていることは最もであるため、優人は言葉を掛ける事が出来なかった。



そしてまた少しの間静寂が続き、その場に空気に耐えられなかった優人がテーブルに手をつきながら立ち上がり、




「ごめん、気分悪くなったから帰るわ………」




驚くほどの速さで店から出て行った。

声を掛ける間もなくただ一人取り残されたイルミは茫然と立ち尽くし、他の客や店員は何事も無かったかのように自分の事へ目を向けなおす。もうこれ以上は見ない方がいい、そう誰もが直感したのだろう。




「ゆ、ユートさんの馬鹿っ!!!!」




悲痛の叫びが店内に響き、テーブルにいつの間にか置かれていた金貨一枚がキラリと光沢を放つ。

それは今日も王国は平和だと言っている様だった。








荒れるイルミさんはこの後飲み直したそうです(笑)

優人の謎のフラッシュバック、どうなるんでしょうか?


次回投稿は5/4(木)13:00予定です

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