22話
要件を告げたセシリア達は仕事が山積みだと言って足早に帰り、残された優人は1人リビングのソファで天井を見つめていた。
「はぁ………何が『秘湯』だよ。完全に面倒事じゃねーか」
セシリアの告げた事は2つ。
アドゴーン山の中でも南側に位置するガージス村という村の宿に温泉旅行に行ってきてはどうか、という事。
そしてもう1つがアドゴーン山最大の都市・レインハートにいる王国第一騎士隊に挨拶に行ってこい、という事だった。
これだけ聞けば大抵の人は大した事無いように思うだろう、しかし優人はその例外が。
ただでさえこれ以上面倒に巻き込まれないように行動を慎もうとしていた矢先にこの案件だ、当然ため息もつきたくなる。
(『明日までに返事が欲しい』って言われたけどこんなもん脅し以外の何物でもないよなー。さて、どうしたものか………)
うだうだ考えていると、階段の方から声が聞こえてきた。
「だからぁ、何度もいってるじゃん~!!
来年の精霊会議には絶対出ないといけないんだってば!!」
『だからボクは何で絶対なのかの理由を聞いてるんだっ!!』
「ソフィアもズィナミも落ち着いて。
本当に耳障りだから」
「『アクエリアス!!』」
大精霊達が言い争いながら階段を下ってき、ソフィアが優人を見つけるとすぐに飛んで駆け寄ってくる。
「ねぇユート聞いてよ~!!
ズィナミがアタシの話を理解してくれないんだけど!!」
『キミさっきの話聞いてたよね?
どう考えてもボクは悪くないんだけど、ソフィアがバカだからキミからもちゃんと説明してやってくれないかな?』
「朝から元気過ぎるだろ、お前ら。
とりあえずソフィア、来年のその精霊会議では何を喋るんだ?」
「ここの所さ、モンスターの生態バランスが崩れちゃってるのよ。
特にリザードマンとかオーガとか。
それでアタシ達大精霊で協力して生態バランスを戻そーって話になったのよ」
「だそうだ、もういいかズィナミ?」
『さすがだね、キミは。
助かったよ、どうもこのダメ精霊では話が嚙み合わなくてね』
「なっまたアタシの事バカにしたなぁ~!!」
『ははっ、悔しかったらボクを捕まえてみることだね!!』
そう言って2階へと飛んでいくズィナミとそれを追いかけるソフィア。
朝から本当に騒がしい大精霊に優人の苦労は一つ増える。
「まったく、あの子らは大精霊だって自覚はあるのかしら」
「……正論過ぎて言葉も出ねぇよ」
「いつもごめんなさいね、あたしの同僚が迷惑かけちゃって」
「いつもの事だからもう慣れたよ。
———そういえば、アクエリアスとこうして2人で話すのは初めてだよな」
「ええそうね、何か聞きたい事があるなら今のうちよ?」
「そうだな、とりあえずその不思議な体について聞きたいかな」
「………変態なのね」
「なっ、ち、違うからなっ!!?」
「ふふっ、冗談よ」といかにも可笑しいといった表情で微笑むアクエリアス。
その艶のあり美しい姿に、優人は思わず心が乱される。
「そうね………分かりやすく言えばスライム系モンスターの上位互換ってところかしら?」
「スライム?この世界にもいるのか。
まだ会った事は無いんだが、やっぱり弱いのか?」
「誰の入れ知恵かは知らないけど、そんな事は決して無いわよ。
スライムは基本水辺に出現するわね、それも淡水限定で。
日中は日に当たって弱くなるけど、夜になると身体の水分が蒸発することも無くなって全力を出してくるわ。
そんなスライムと違ってあたしは水分が蒸発する事は無いの」
「へぇ、便利な体なんだな」
「そうね、その気になれば何でも出来るもの。
狭い隙間に入ることも出来るし、空気中の水分を使えば空に浮かぶことも出来るわ。
だけどまぁ、そんなことする機会も滅多に無いわね」
アクエリアスの話に優人は驚いた。話の内容にではない。
そう、アクエリアスはまともな精霊だという事にだ。
と、そんな時、優人は大事な事を思い出し質問する。
「ああそうだアクエリアス。
お前とイリスって仲良いよな?」
「何よいきなり。
——そうね、それなりには仲良くさせてもらってるわ。
でもいつもあの子が一方的に話を振ってきてあたしがそれに答えるって形だけどね」
「それで十分だ。
イリスさ、自分の家族について話とかしてなかったか?」
「………聞いたわよ。それがどうかしたの?」
途端に彼女の表情が険しくなる。
それでも優人は話を進めようと、一冊の本を取り出す。
「ここを、見てくれ」
「『イルギス・ミィス』ね…………
なるほど、であなたはどうするつもりなの?」
「探し出して話を聞きたい。
なぜイリスを捨てたのか、って」
「中々大胆な事をするのね。
そもそもこの人があの子の家族かどうかも分からないじゃない。
それにどうやって会うつもり?見た感じ、旅をしてるみたいだけど」
「分かってるさ、でも会ってみる価値はあると思うんだ。
目星はついている、レインハートに居てるはずだ」
「なるほどね。
聞くまでもないと思うんだけど、その根拠は?」
「まずはこの人が龍人族を追っている事からアドゴーン山周辺にいることは間違いないと思う。
次にアドゴーン山最大の都市なら情報を得るのにうってつけだ、ここに来る他無いだろう。
最後にこの一文だな」
そう言って優人は持っていた本のあるページを開き、「宝玉」という単語が沢山出てくる辺りを指差す。
「セシリアさんの話ではレインハートを取り仕切る王家には、一般の者には絶対見せられない物があるらしい。
もしかしたらそれが宝玉かもしれないと思ってな」
「とんだ大予測ね。あなたは予言者にでもなるつもりなのかしら」
「冷たいこと言うなよ。
そういうのがあった方が面白いだろ」
「まるでただの少年ね」
よっぽど面白かったのか、暫くの間アクエリアスから笑顔が消える事は無かった。
しかし、何かを思い出したのかすぐに険しい顔に戻ってしまう。
「だとしても無理ね、あの子は自分の家族に対して少なくともいい感情は抱いていないはずよ?
そんな状態で無理矢理会わせるなんて事したら、どうなるか想像もつかないわ」
「そう、だよな」
「ええ、だからこの話はここでおしまいね。
あの子はここでの生活が気に入ってるようだし、それを壊すような事はしたくないでしょ?お互いに」
「ああ。
さて、と。俺はあいつらの為に朝食でも作ってやろうかな」
「じゃああたしはあの子を起こしに行ってくるわ。
ついでに他の子たちも」
「おう、頼んだわ」
返事の代わりにアクエリアスは頷いて、階段の方に向かって進んでいく。
優人もキッチンの方に歩いていき、すぐ起きてくるであろう4人と精霊達、そして自分の分の朝食の準備に取り掛かるのだった。
ここに来てイリスの親が判明………?
さて、この人物がどこで出て来るのかはお楽しみですね~
次回投稿は5/2(火)13:00予定です
※誤字脱字、感想等ありましたら何でもお申し出くださいm(__)m
同時連載として「死神が死神をやめるまで」も連載しています、こちらも読んで頂ければ幸いです。




