21話
「メロウ様、予定通り全滅したみたいです。
しっかり御影優人一人の手によって」
「そう、流石はベリアル様ね、完璧に仕事をこなしてるわ。
……ねえセバス、この世界って脆いと思わない?
人類種なんて私達が本気を出さなくても容易く滅びちゃうだろうし、私達と戦えるのなんて、後にも先にも彼ぐらいでしょうね」
「確かにそうですな。
しかしそれはメロウ様のお力が強大であるが故の事」
「ありがとう、セバス。
———でも、だとしたら私達は何の為に生きているのでしょうね?」
「メロウ様、失礼ですがそれは愚考かと」
「あら、怒られちゃった。
まあいいわ、それより例の計画、どこまで進んだのかしら?」
「宝石類と引き換えに家臣を引き込む事には成功致しました。
その家臣というのが妹の方に随分信頼されている様なので、上手く誘導すればよろしいかと。
後、王宮の中に配下の魔族を数体、人間に扮装させて侵入させております」
「そう、上出来ね。
計画の実行まであと何日だったかしら」
「当日を含めて後7日、時間は正午です」
「ありがとう、セバス。
ではもうひと手間加えましょうか。
耳を貸しなさい。—————」
「———————畏まりました。
すぐに準備にかからせて貰います。では」
「ええ、よろしくね」
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ソフィア達大精霊の帰宅、そして優人の帰宅を祝したパーティーから一夜明けた朝、優人の仕向けた客が思っていた以上に早く来ていた。
「んふぁぁぁ~………
っとすいませんね、みっともない所を見せちゃって」
「いや、構わないさ。
こんな朝早くに訪れた私の方に非がある」
短針が6を指している時計を見ながら、セシリアは申し訳なさそうに顔を振る。
そのため身に着けている騎士鎧が擦れてカシャリと音を立てるが、優人も当の本人も気にはとめない。
「すいませんね、英雄様。
隊長は朝かなり早いんですよ。日の出と共に起きるというか………」
「なっ、マール!!
それは言い過ぎだ、私だって眠たい時はもう少し寝てるじゃないか!」
「もう少しって、本当に少しじゃないですか………
隊長の中での少しは10分ですか?」
「あ、いや、それはだな………」
「あー、人の家まで来て言い争わないで下さい。
てかマール、久しぶりだな」
「そうですね、新年迎えてからは会ってませんから。
お久しぶりです、英雄様」
そう言って頭を下げるマール。
その佇まいから、数ヶ月会っていなかったが何も変わってない、と優人を安心させる。
「で、今日はどうしてここに?」
「ああ、色々あるんだがまずは昨日の件だ。
王国の窮地を救ってくれてありがとう、助かった」
今度はセシリアが深々と頭を下げる。
「だからそう簡単に頭を下げない方がいいですって」
「そうか、すまんな。
………ふふっ、こうやってお前に叱られるのは懐かしいな」
「いや、全く同じ内容で叱らせないで下さいよ」
「そんな細かい事は気にするなよ。
それでだ、優人は今回のこの襲撃をどう思う?」
そう問いかけられ、優人は少しの間考えを巡らせてみる。
「まあ、確実に言えることは人間以外の誰かが意図的に起こしたことでしょうね。
ただ、その目的が見えませんが」
「ああ、私達の方でも同様の意見が出た。
そして今回の件の実行者は魔族の者と見ているんだが」
「魔族、ですか………」
魔族。
何度か聞いたことはあるがその実態については殆ど知らなかったため、優人は魔族について尋ねてみることにした。
「そうか、優人は魔族の事を知らなかったか。
この世界の生き物は大きく分けて4つに分けられると言われている。
力は弱いが知性を持ち、それを種族の繁栄などに生かしている私達人類種。
力はあるが知性を持たず、本能のままに生きている通称モンスター類。
力も知性も兼ね備えるが、個体数が少なく今ではどこかに隠れて暮らしていると言うドラゴン種。
そして、素性の全く知れていない魔族」
「………いや、素性知れてないのかよ」
「まあ待て。
ただ、長年の調査によっていくつか分かったことがあるんだ。
まず、魔族の中でも人間を襲うような奴とそうでない奴に分かれるらしい。
そして前者の方を束ねるリーダー、まあ魔王といった所かな、そいつの名前はギンジ。
変わった名だが力は相当なものらしいぞ。
この魔王に変わったのが今から8年ほど前になるらしい、憶えておけ」
はぁ、と優人は首を縦に振る。
(魔王ギンジか。
ものすごく日本人っぽい名前だから憶えやすくて助かる。
この世界で今から8年前だと、日本ではだいたい6年前………
俺が中学の時、か)
「次に、魔王の下には幹部の魔族が3人。
その中で一番の権力を持つのがベリアル、その次がメロウ、そして最後がクラケ。
どれも人類種の敵う相手ではないが、奴らは魔王の命令がない限り自ら目立つ行動はしないらしい。
とまあ、私達が得た情報はこれが限界だった」
「いや、貴重な情報をありがとうございます」
「お礼を言われるまでもないさ。
でだ。今回の実行者が魔族だと判断した事なんだが、私個人の推測も交えるとベリアル、もしくは奴の配下の者の仕業だと見ているんだ」
「それはまた大きく出ましたね。根拠は?」
「3つ頭の子犬だよ。
このモンスターはベリアルが従えるモンスター、ヘルハウンドの幼体と言われているんだ。
今回これが多かった、それが根拠だ」
「なるほど、筋は通っていますね」
「まあ、それが分かったからと言って敵の居場所が分からいのでな、こちらから仕掛けることなど出来ない訳だ」
「隊長は血の気が多いですから」
「………マール。
余計な事ばかり言うのなら仕事させるぞ?」
「あ、いや、すいませんアハハ………」
「はぁ」と小さくため息をつくマール。
その表情からよくこの手の脅しをされているのだろう、本当にお気の毒だ。
「じゃあ、セシリアさんはこれからどうするつもりなんですか?」
「まずは、ラルの町を復興が最優先だろうな。
まあそれは既に手を回しているから問題ないがな。
次に王国の軍事強化、そして魔族の本拠地を探すこと」
「……どれも難題ばかりですね」
「ああ、だが王国の平和の為だ、どれも解決しなくてはならない」
「それは、俺も協力させられるんですかね」
まさか、とセシリアは苦笑いする。
どうやら今までの話は本当にただの報告らしく、特に何かしらの手助けを求められていないと分かると、優人は安堵の表情を見せる。
「じゃあ、今日は報告だけしに来たんですか?」
「いや、それとは別に今回の例も兼ねて1つ頼みたい事があるんだが。
何、君達にとっても悪い話じゃないさ」
「まあ、聞くだけ聞きます」
「そうか、すぐに断られなくて良かったよ」
一呼吸置いて、セシリアはその内容について述べる。
「秘湯に、興味は無いかね?」
家の外の風が強くなった気がした。
次回投稿は4/30(日)13:00予定です




