18話
ハォの村には日夜多くの冒険者が宿泊する宿屋がいくつかあり、冒険者の間では割と有名な村だった。
そのため────
「おいそっちにリザードマンが行ったぞ!!」
「魔法使える奴はこっちの支援頼む!」
「おい誰か回復魔法使える奴はいねぇか!?」
「D級以下の冒険者は村人を守れ!!
前線に出たら死ぬぞ!!」
村にモンスターの軍勢が押し寄せて来ても迅速に対応がなされていた。
オーガの群れにはB級冒険者が魔法を使いながら上手く削り、フォレストイーターやリザードマンはC級冒険者が集団で一体ずつ確実に仕留めていった。
「よっしゃお前らぁ!!
ここ食いしばったら俺らの勝ちだぞ!!
気合い入れてけぇ!!」
「「「「うぉー!!!!」」」」
敵の数も目に見えてわかるほどに減り、いよいよ大詰めという時に異常はやって来た。
「グルルルルルルゥ…………」
「おいあれ見ろよ…………『3つ頭の子犬』じゃねぇか」
「あれはかなりまずいな………体勢を立て直すぞ!!!」
リザードマンやオーガの群れに交じって表れたモンスター、通称トリオン・パピー。
名称の通り子犬の顔が3つ、同じ胴体から別々に生えているのだ。
これが厄介なモンスターで、顔それぞれが火・雷・氷のいずれかの属性玉を口から放ってくる。
さらに別のモンスターと共に行動し、それらを盾にしながら遠距離攻撃を仕掛けてくる、推定A級モンスターである。
「体張れる奴は前に出ろ!!!
魔法使える奴は後ろで待機、犬っころを集中的に狙え!!!
敵からも攻撃飛んでくるからな、注意しろよ!!」
指揮を執っていた男の掛け声で、その場にいた全員の士気が変わる。
だがしかし、統率がとれていたのは冒険者だけではなかった。
オーガが、トリオン・パピーを守り始めたのだ。
オーガだけでない、リザードマンやフォレストイーターまでもがまるで操られているかのように隊列を整えるのだ、これではさすがの冒険者達も顔が引きつってしまう。
そして、好機は危機へとなり替わる。
「バゥッ!!!」────ボッ。ボッ。ボッ。
「おい、玉飛ばしてくるぞ!!?
全員上手く回避しろよ!!!」
この時指揮を執っていた冒険者は慢心していた、先程見たトリオン・パピーの数からみて精々10~20ぐらいの玉の量だろうと、そしてそれなら躱せると。
しかし、実際に飛んできた玉の数は────予想の比ではなかった。
「な、なんだよそりゃあねえぜっ!!?」
「全部躱すとか無茶だろ………」
天を覆う無数の属性玉。そのあまりの数にどれだけトリオン・パピーが隠れ潜んでいたのか想像がつかないほどに。
そして、それらは冒険者達のいる辺り一帯に、地面に吸い込まれるようにして降り注ぐ。
最早、こうなってしまえば隊列どころの問題ではない。
「や、やべぇぞ逃げろ!!!」
「ばっお前そっちは!!」
「え、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「誰か!?回復魔法を使ってくれっ!!」
大惨事。
冒険者の大半が負傷し、死者まで出始めた。
ほとんど全員がこんな状況を味わったこともなく、冷静な判断で動けるものなど皆無だった。
それでも、敵が攻撃の手を緩めるような甘ったれた世界ではない。
「あ、あいつらまた玉出す準備してやがる………」
「でもどうするんだよっ!?
倒そうにもオーガ達が邪魔だしっ!!」
「そんなこと知るかよっ!?
────ああっ、終わりだぁ………こんなところで死にたくない………」
またしても、トリオン・パピーの口から属性玉が一斉に放たれる。
先程と同じく数え切れない程の恐怖が空を支配し、その場にいた者が全員己の死を確信したタイミングで、異常はまたしても起こる。
空中に上がった属性玉は、突然にしてその場で爆散したのだ。
「………は?何が起き────」
「ふぅ、間に合ったか」
『ホントギリギリ、危ないなぁ』
「うっせ。間に合っただろうが」
突如として皆の前に現れた青年。
王国から来ていた冒険者、それと村人なら誰でも知るその愛称を、それぞれが口にする。
「英雄様!!!」「村長!!!」
「「えっ!!?」」
「あーもうややこしいからどっちも詮索するな。
フルガ、村人にはもう大丈夫だと伝えておけ。
そこの指揮してた奴」
「あ、はい、えっと何でしょうか英雄様」
「あの子犬の相手は俺がするから、お前は誰も怪我しないように立ち回ってくれ」
「了解しました!!」
「敬語はやめてくれ、俺の方が年下だし。
とりあえず頼んだぞ」
「はい!!………あ、お、おうっ!!」
苦笑いを浮かべる優人は、攻撃が無効化された事で怯んでいたモンスター達の元へ一気に駆けつける。
優人が来たことで他の冒険者たちも先程までの負の感情を振り払い、己が役目を全うし始めた。
ここからはもう、ただの一方的な殺戮の時間。
たった数分で優人と冒険者達は大軍を蹴散らし、村人達と共に勝利を分かち合う───訳にはいかなかった。
この戦いで亡くなった者は3名。誰もが前線で戦っていた勇敢な冒険者だった。
死者を悲しむものは多く、優人も追悼を捧げたかったがそんな事が出来る立場でもなく、王国も不味い状況なため誰にも気付かれないようにその場から離脱する。
「村長」
背中からは、聞き覚えのある声。
優人は振り返らず、声の主に話しかける。
「フルガ、どうかしたか?」
「いや、あんたの背中が妙に寂しかったのでつい、な。
………あんまり自分を責めないでやれよ?」
「………何のことやら。
俺はもう行くから後の事は任せたぞ」
「ああ、任された」
優人は、王国の方に向け消え去った。
ただフルガの目には少し罪悪感に苛まれた青年の姿が映っていた。
次回投稿は4/23(日)13:00予定です




