9話
飛んだ、と言えば少し語弊があるだろう。正確には人だかりを飛び越えた、という感じだ。
(これ、怖ぇよ………二度とやらねー)
化け物級の跳躍を見せた優人は、その速度やら何やらでかなりビビってしまった。
だが、それによって目の前には
「ヴォ!?」
急に人が現れたことで驚きを隠せていないオーガの集団があった。
(さて、ナナにあんな事言っちゃったし、恥ずかしい所は見せらんないな)
何であんな事を、とさっきの自分の発言に軽く恥ずかしさを感じながら、いつもの如く剣に手を置く。
――――――シュッ。
風切り音と共に、優人の一番近くにいたオーガの首が飛ぶ。
(あー、やっぱこの剣反則級だよな。適当に振ってたら全滅できるぞ、これ)
異常な強さを誇る剣に苦笑しつつ、優人は徐々にオーガの数を減らしていくのだった。
――――――――――――――――――――――――
(すごい、すごいよユートさん……)
冒険者の人だかりから少し離れ、優人達の戦いが良く見える位置に移動していたナナは、優人の見せる圧倒的な強さに完全に目を奪われていた。
しかしその一方でその戦い方にはどこか違和感、と言うよりは悪寒がしていた。その原因を探ろうにも、優人が毎回オーガを一撃で倒してしまう事、それと―――
「おい!!アイツは何者だ!?」
「そんな事はどうでもいい!!
見ろ! オーガがかなり減ったぞ!!」
「いける、いけるぞ!!!」
と、遠くで冒険者達が騒ぎ立てるので考える事に集中もできなかった。
しかし、そんな歓声も長くは続かなかった。
冒険者達が急に静かになったかと思うと、
「おい………あれ」
「ああ………あの青いオーガ」
「マジかよ!? あれSランク級モンスターじゃねーかよ!?」
「終わりだ……今度こそ終わりだっ……」
と、一斉に騒ぎ出した。
「―――――――――オーガキング」
オーガキング。
オーガの最上位種で、1体1なら無敗を冠している、Sランク級の中でも上位のモンスター。
本来なら火山地帯を棲家にするため、こんな草原に現れるはずのないモンスター。
そんなヤツが、どうしてここに―――
「………ユート、さん」
消えそうな声で、ナナはそう呟くだけだった。
――――――――――――――――――――――――
(ふぅ、かなり倒し終えたな)
足元に広がるオーガの死体には目もくれず、優人は1点を見つめ続ける。
(アレがやっぱり親玉って感じだよな。これだけオーガ倒してるのに動じないってどんな大物だよ……)
優人の見つめる先には、オーガキングが立っていた。
2メートルを大きく超える体と同じ大きさの斧を杖替わりにし、まるで取り巻きのオーガが全滅するのを待っているかのように、ただ立っていた。
と、残りのオーガ達も瞬殺し終えた所で
「グォォ」
そう低く唸り、右手で斧を握りしめ始めた。
(やっと臨戦態勢かよ、随分と余裕だな)
しかし、本当に余裕と思っていると言うことは優人も分かっていた。
肌で感じ取れるほどの威圧感、戦い慣れしている構え方、異常なまでに落ち着いている振る舞い、どれを取ってもオーガキングの強さを物語っていた。
長期戦は不利だと判断し、優人は先制を仕掛ける事にした。
――――――――――――ガキィッ!!
「は、はぁ!?」
首元を狙って放った、ほとんどの人が目視できない速さの一閃は、オーガキングの持つ斧で防がれた。しかも柄で。
オーガキングは不敵に笑い、斧を優人目掛けて振り下ろす。
そこまでの速さじゃなかった為優人は回避をとるが、流石はSランク級。斧が当たった地面にクレーターが出来上がっていた。
(いやいや、強すぎるだろ………
と言うより、あんな使い方して壊れない斧が強いのか)
そう思った優人は、真理眼の効果を使って斧を見てみる。
――――――――――――――――――――――――
名称:魔人の鉄槌
レア度:UR
説明:人ならざる者が魔力を流しながら使い込むことによって鍛え上げられる、自然武器の中で最高クラスの武器。
所有者の全能力を上昇させる。
――――――――――――――――――――――――
(斧じゃなくて槌かよ!?
てかマジかよ………相手もチート級武器か)
厳しい状況を叩きつけられた優人とは、オーガキングからの攻撃を避けながら打開策をあれこれ思案していく。
だがしかし、やはり避け続けるのにも体力的な限界がやってきてしまう。
すんでの所で何とか回避を繰り返し、何かないかと収納を探してみる。
(あ、そう言えば………よし、これなら)
と、一つの作戦を思いついた優人は、オーガキングに負けない程ニヤリとした。
――――――――――――――――――――――――
(本当に、ユートさんって何者なの!?)
遠くから優人を見ていたナナは、Fランク一人でBランク相当のオーガの集団を全滅させ、続け様にSランク級モンスターのオーガキングと攻防を繰り広げている、という有り得なさすぎる光景を目の当たりにした。
冒険者達も、
「すげぇ、すげぇぞ!!!」
「いけー!!そこだー!!やってしまえー!」
「ふっ、僕の目に狂いは無かったみたいだね」
「「お前は黙ってろ」」
と、騒ぎ立てている。
(でも、このままじゃキリがないよね。
王国から来た援軍でも、さすがにオーガキングがいるとは思ってないだろうし)
だが、そんな状況が一瞬にして覆った。
優人は例の如くスキを見て首元に剣を叩き込む、がやはりオーガキングの持っている斧で防がれている。優人はこの瞬間に―――剣から手を離した。
さすがのオーガキングも驚いたのか、優人が一瞬にして背後に回ったのに反応が追いついていない。そして、優人はオーガキングの脳天に収納から取り出した短剣を深く刺し込む。
一瞬、だった。
オーガキングは何で殺されたのか分からないまま、地面に倒れ込んだ。
少しの静寂の直後、
「うぉぉぉぉやったぁぁぁぁ!!!!」
「すげぇ!!!ホントにやりやがった!!」
「さすが、僕が認めた男だ」
「「お前はマジで黙ってろ」」
誰からともなく歓声を上げた。
(ユートさん、本当に、ありがとう)
心にへばりついていた負の感情が全て消えて無くなったような気がし、ナナはお礼を言うために優人の元へ駆け出す。
オーガキングのそばで一人立ちつくす青年とそこへ駆け寄る少女を、夕暮れの暖かな明かりが優しく包み込んでいた。
――――――――――――――――――――――――
「おい兄ちゃん、あんた程の実力者ならさすがにうちの店のモンじゃ物足りないだろ?」
「別にそんな事ねーよ、それにそれとは別の話を聞きに来ただけだしな」
オーガキングを倒した後、救援に駆けつけた王国の者達に後を任せて、冒険者達は優人を強引に引き連れて酒場で一晩中バカ騒ぎした。
そして次の日、ある事に疑問を持った優人はこうして装備屋に足を運んでいたのだ。
「おう、俺でいいなら何でも聞いてくれ!」
そう言って店主の男はニカッと笑う。
ちなみに、ナナは朝早くに宿屋の部屋を訪れてきて
「さすがに生活費がピンチなのでクエスト行ってきます!!
ユートさんもいっしょにいきませんかー?」
とか大声で叫んできた為に、全力で追い返していた。
「いや、別にそんな難しい話じゃない。レア度についてなんだが、何段階あるんだ?」
そう、優人は今の所かなりいい装備しか手に入れていないので、普通のアイテムのレア度を知らなかったのだ。
「ん? そんな事でいいのか?
N、R、HR、SR、UR、MRの六段階だぞ、なんだ知らなかったのか」
あんな強ぇのにな。と男は嫌味ったらしく言う。
「ん、まあそういうのは少し疎くてな」
と、適当に誤魔化していると
「そういや兄ちゃんのその剣、見たところ超絶レア物じゃないのか?
ちょっとでいいから触らせてくれよ〜」
男が優人の腰にあった剣を指差す。
「ん、まあ別にいいか、ほら」
と、男に剣を鞘ごと渡すと
「――――――はぁ!?
お、お前これあの『神速』シリーズの剣じゃねーかよ!?
どこで手に入れたんだ!? なぁ!?」
男がグイグイ聞いてくる。
「いや、どこでってのは答えにくいな」
男のその質問に、優人は言葉が詰まってしまう。実際、起きたら横にあったなど言える訳もない。
「な、なぁ!他のやつも見せてくれよ!」
(他のやつって……あ、あれもか)
そう思い、優人は収納から短剣を取り出す。
――――――――――――――――――――――――
名称:神速の短剣
レア度:MR
説明:とある女騎士が普段隠し持っていたと言い伝えられている短剣。所有者の能力を上昇させる。
――――――――――――――――――――――――
「おぉ、これが神速の短剣かぁ。ヤベェ、MR武器なんて生まれて初めて見たよ…
本当に兄ちゃん何者なんだよ……」
「新米冒険者だ」
「ありえ無さすぎるわ!!
で、他のやつは?」
「ん? もう無いぞ」
「はあ? もったいぶんなよ〜
ここまできたら全部見せてくれって、な?」
「いや、だからもう無いんだって。
…………どうした?」
男が驚きを隠せないようにこちらを見ているので、優人は思わず何事かと聞いていた。
「まさか、兄ちゃん知らないのか?
MR系の装備っていうのは、大体シリーズ一式まとめて手に入るんだぞ?
いや、そういえばそういうのに疎いんだったな、驚いてすまんな」
―――――――――え、今なんて言った?
その言葉に、優人は自分の耳を疑った。男曰く、MR系の装備は兜や鎧、籠手、膝当て、靴、武器類、盾等一式揃って手に入る、という事である。
―――なんだ、何かが引っかかる。もっと、こう根本的な所で何かがある気がする。
「お、おい兄ちゃん。どうかしたか?」
「いや、すまん。少し考え事があってな。
色々と答えてくれてありがとな」
「ああ、また来てくれよな!」
男に別れを告げ、店を出る。
街はいつものように活気に溢れていて、道行く人は楽しそうに会話を弾ませている。
と、そんな中でちょっとした会話が耳に入る。
「なぁ、聞いたか? セト村の事」
(セト村って、確か俺が最初にいた村だっけ)
「ああ、村人全滅だって話だろ?
可哀想だよなぁ」
「いや、実際にはまだ3人見つかってないらしいぞ?」
「何だそれ?
リザードマンに食われたとでも言うのか?」
「んなアホな話があるかよ。どうやら、襲撃される前にどこかに出掛けてたらしいな」
「たまたまじゃないのか?」
「それがたまたまじゃないらしい。どこの親がさ、夜中に子供連れて出かけるんだよ?」
「それもそうか。しかし奇妙な話だな」
「全くだよ」と言って、話は別の内容に変わる。
―――――――――ぁ。
その時、優人の中で全てが解決してしまった。
「ふっ……ははっ、そうか、そうなのかよ……
そうか、俺は最初から騙されてたんだな」
優人の目の中から、光が完全に消え去った。
その日、ラルの街からたった一人だが、忽然と姿を消し去った。
とりあえず、王国に行くまでの話はここで終わりです!
次話から王国へ向けて動き出しますよ!
次回投稿10/30(日)9:00予定です
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