種族の壁
一章目はここで終了、次からは二章目になると思います。
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@fuji_kogami12です。
訓練場に足を踏み入れたルシアとリオンは、なにかを話していた。……聞こえない!とにかく口を動かしていることはわかったのだが。
「おい貴様」
「うぇっ!? は、はい」
あっぶね、考え事をし過ぎて返事を怠るとこだった。どの隊長もそうだけど、返事には厳しい人が多い。
「あいつらはなんだ?」
「…………はい?」
まさかの質問。え、あれだよね、ルシアやリオンが何者かって話だよね。
「いや、わかりませんけど……」
「貴様は共に居たのではないのか」
「えぇー、た、確かに学校の近くでは一緒でしたけど……」
俺はミスリルスパイダーに襲われてるのを助けてもらっただけだからなぁ。そういや、ルシアはどこから出てきたんだろう。
「役に立たんな」
うわ、いきなり暴言はかれた。
「……第一、ライラ隊長はなんでそんなこと気になったんですか」
「あいつらには、私のチャームが効かなかった。今まで効かなかったやつは、【バアル】という者だけだ」
「【バアル】!?」
バアルは、誰もが知る魔王の眷族。
姿をはっきりと見たものはいないが、その出現付近にあった死体の切り傷から、バアルは大きな鎌を持っているだろうと推測されている。
ちなみに、学校に入ると習うことだけど、眷族と眷属は違う。
眷族が、魔王直属。
眷属が、さらにその下で眷族の眷属となる。
つまり魔王、眷族、眷属、魔物の順番ということだ。
「ってか、バアルと戦ったんですk」
ゴッ!と俺の顔すれすれの壁から音が。
……え?今、俺の顔の横に何か通った?
おそるおそる見てみると、ライラの拳が壁にめり込んでいた。
「……アイツは、私が殺す」
えぇぇぇ!?バアルと何があったのぉぉぉ!?
ツーッと頬から流れる少量の血液をハンカチで拭きながら余りの理不尽に、ライラを見る目が少し変わってしまった。
「…………すまない、まだか?」
と、そこでルシアから声がかかった。律儀にリオンと待っていたらしい。
「ああ、始めるか」
ライラも先程殺気を放っていたとは思わせないほど、いつも通りに返事をした。
俺は少し楽しみにしていた。ルシアやリオンがどう戦うのかが知りたい。もしかしたら、俺と【組んで】くれるかもしれないから。
「では、準備はいいか」
ライラの確認にルシアが手をあげて合図をした。
「それでは……始めっ!」
ブゥゥン……と音をたて、魔法具が起動する。ラインは20体だが、出てきたのはそれ以上の群れだった。狼のような姿をした魔物、あれは確か……ムーンウルフ、だったはずだ。それほど強くはないが、群れをなし人を襲う。連携が得意な魔物だ。
ムーンウルフがルシアをその目にとらえた。
ヤバイ、攻撃されるっ!
俺がルシアに訪れるであろう痛みを想像し、目を瞑ろうとしたとき、ピクリ、とムーンウルフの動きが一瞬止まった気がした。
「…………え?」
次の瞬間、横から飛んできた何かにムーンウルフが吹き飛ばされる。なにかと思えば、それはリオンが放った小さな石だった。
どうやったかは知らないが、明らかにただ投げただけではない。いや、もしかしたらリオンはそういう筋力に特化しているのかも。
「すまない、リオン」
「はぁ……疲れるんでやめてください」
二人は緊張している様子もなく会話をしている。……さっき、ムーンウルフが【攻撃を躊躇った】ように見えたのは俺の勘違いだろうか。
そう思っているうちに、ルシアがどこから取り出したのかわからないナイフをムーンウルフに投げて命中させていた。
ギャンッと鳴き声を上げて倒れるムーンウルフ。あれ?完全に今のは致命傷だったはずだ。なんで死んだあとに鳴き声をあげたんだ?
不可解なことが多くあったが、そう時間がかからないうちにルシアとリオンは資格を得ていた。よかったな、と言いながらルシアに近づくと能面のような表情が向けられた。
「えっ」
「仮死状態にしただけだ。それでも、痛かっただろうか」
ルシアがそう呟いた。初めはなんのことか分からなかったが、先程の疑問と照らし合わせて、あ あと納得した。
さっきの、ムーンウルフのことを言っているのか。
「……どうしてルシアはそんなことを思うん
だ?」
「…………ミカ、君はヒトを傷つけるときに苦しくならないか?」
それは、苦しくて当たり前だった。出来ればそんなことはしたくない。
「それと同じだ」
ルシアは淡く微笑むと、リオンの元へ歩いていった。このとき、初めて自分とルシアの間にあるどうしようもない壁を感じてしまった。
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