魔王の序章
どうも、光神蓮です。
少年の序章に続き、魔王の序章です。
少年は驚いている。
当たり前だろう、なにせ今まで額縁の外にいたものが、急に自分の世界にやって来たのと同然だから。
「少年?大丈夫か?」
繰り返すと、少年は口をぱくぱくさせながら、オレの後ろを指差した。
「?どうした、少年。」
「う、……うし、ろ。」
後ろ?後ろには、ミスリルスパイダーしかいないが。
「…………ああ、安心していい、この子はもう襲ってこない。」
事実だ。ミスリルスパイダーは賢い。
「さあ、ミスリルスパイダー。帰るといい。」
そう言えば、彼は帰る。あとで原因を調べないとな。
「お、お前」
「少年、立てるか?」
手を差しのべれば、戸惑いながらも握り返され、ぐっと少年は立ち上がった。
「あ、ありがとう?」
「どういたしまして。」
少年が首を傾げてお礼を言うものだから、思わず笑ってしまう。
「なっなんだよお前!笑うなよ!」
「すまない、ヒトと話したのは久しぶりで。」
「はぁ?そんな山奥に住んでるのか?」
「んー、そうでもない。」
訳がわからない、なんて顔だ。少年は幼い雰囲気を残した顔で目を丸くする。
「じゃあ、名前は?せっかく助けてくれたんだし、お礼がしたい。あと、どうやったらあの魔物を追い払えるくらい強くなったか聞きたい!」
完全に重要なのは後者じゃないか。
苦笑をもらすと、少年にさっさと名前言え、と言われてしまった。
「そうだな、名前はルシ……。」
「ルシ?」
「いや、なんでもない。…ルシアだ。」
「ルシアか。俺は、ミカ。」
にっと笑う少年、ミカ。とても眩しい。
「で?お前、どこに住んでるんだ?」
「オレ?ああ、オレはグランドラインに住んでいる。」
グランドライン。
この世界の最大の王国、の隣にある国だ。それなりの大きさだと、自負している。
「はっ!?」
少年が限界まで目を開く。
「いや、え!?グランドラインって、魔王治める魔物の国じゃねぇか!?」
「そのとおりだが。」
「あれだろ?醜い魔王が絶対王政で、酷いことになってんだろ?」
なんと、ミカは間違っている。
「そんなことはしていない。オレは優しい方だ。確かに容姿はよくないかもしれないが。」
「……………………。」
ミカの視線に首を傾げて問う。
「なにかおかしなことを言ったか?」
「い、いやなんでも。そんなわけないもんな。」
明らかにミカの態度はおかしかったが、あまり気にしないことにした。
「ところで、ミカ。」
「?なんだよ。」
「学校というところに行くのでは?」
「…………………わ、忘れてたぁぁぁぁ!!!」
ミカが、走る。なかなか早い。
オレも追いかけよう、と思ったとき。
『――――――――様っ!!』
呼ばれた。立ち止まり、その声に応える。
「どうした。」
『どうした、じゃないですよ!どこにいらっしゃるので?』
「細かいことは気にしない方がいい、【ダンタリオン】。」
これ以上会話を交わすとなにを言われるかわかったものではない。早々と立ち去ろう。
『っ!お待ちください、【ルシファー】様!』
「ダンタリオン、ここではルシアだ。」
『え?待ってくださいって!【魔王】様ぁぁ!?』
今、魔王の運命も動きつつある。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。