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【5】

「どうしてそんなに満足している表情を浮かべられるの?…不満はないの?」

 そう質問すると彼は悲しみを瞳の奥にかげらせた。

「それは…逆に質問しますね。なぜ、あなたはそこまで不満なのです?」

そう質問されても私には答える事ができなかった。

「……分からないです」

そこから、私は思いつくかぎりの事を思いついた順番に彼に話す事にした。

そもそも、どうして不満なのか、自分と向き合う事をしなった事が話していくうちに整理されてきて、コトっと心の中で何かが落ちてきた気がした。


そうお金があれば何でもできるし、買う事ができる。

お金がまったくなくて満足できるなんてきれいごとだと思っていた。私の家ではそうでなかった。裕福と言えるほどの収入がなくても、家はあたたかくてなんだかんだと口ゲンカをしていても、ギスギスとした雰囲気が流れる事はなかった。

友人の家では給料が少ないと家族でケンカになり雰囲気がギスギスしていて居心地が悪いと聞いた事がある。

そういう面を見せられて、お金に直接関係のない勉強はする意味がないと思っていたのかもしれない。無駄を嫌うけれど、この世の中に無駄な事など何もないという事をこの世界にきて、外の世界を覗いてみて痛感する。

何かをしようと思っていても、そのやり方が分からない。一見つながりがなさそうな事でも全部がつながっている。人の表情を読むことだって、学問でいえば、心理学や国語の力が必要になる。本当に自分にとって無駄な勉強なのかどうかなんて、何年も先にしか分からないし、決めつける事はとても危険なのかもしれない。

それから別世界での生活をしていたけれど、自分が変わらない事には何も変わらない事に気がついた。

 物が何も価値がないこの世界では、赤ちゃんと同じ扱いをされてしまう。彼は、上手くいかない事でこの世界を嫌いだと言っていた。

 他人に自分の事を必要だと求められて、応える事ができる。その部分に充足感がうまれてくるものかもしれない。

 心の成熟も必要なら、物もある程度必要だ。どちらか一つだけしか見えていない事は、心が求めているものから遠ざかって、貧しくて誰かに温もりを与える事もできなくなるのかもしれない。

だからこそ、どちらか一つだけがいいという事ではなくて、両方のバランスが必要で、バランスが上手くとれていないから、自分で自分を縛っているから、見えていない部分ができて不満がうまれてくるのかもしれない。


そこまで、話すと彼は穏やかに笑う。

「自分の幸福は自分の中にあって、それを見つけるためには少しだけ苦労するのかもしれませんね。私は、不満があるとすれば、いつか、あなたが元の世界に戻る事が決まっている事ぐらいです」


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