【4】
【4】
僕は、物を作り出す事に喜びを感じていた。
お金や物に価値がないに等しいこの世界で、自分のためなのか誰かのためなのか、自問自答しながら作り出し続けている事が、この世界は「退屈」だと決めた理由だ。
物を作り出し続けるという事は、孤独になる。自分のわずかな隙間時間もすべて作品を作り出す事に使っていくと、時間は限りがあるものだから、他の事に対して何かを犠牲にしていかないと生み出し続ける事が不可能だ。
この世界に来てから1週間。
学校というシステムがあり、あらゆる物には値段がつけられている事を知った。
お金がなければ何も買う事ができない。食べ物も着る物も、生きていくのに必要な事すべてにお金がかかる。
そして、美術品には価値があれば評価がつけられている事も知った。お金が高いと価値があるものだと評価うける、わかりやすい評価だ。だけど、美術品の価値であるお金の部分にしか興味のなさそうな持ち主の手元にいる作品の写真は、悲しく写っているのを見かける度に、これでいいのか?と思った。
「あら、美術に興味あるの?」
「あ、はい」
「珍しい、今まで興味なかったのに。「もっと、将来に役に立つものにしか興味ない」とか言ってなかった?」
「そんな事を言っていましたか?」
「そうだけど、どうしてそんな事を質問するの?おかしいわね」
クスクス笑いながら彼女の母親は再び食器洗いの作業を続ける。
食べ終わった食器と持って行くと、「そこに置いといて」とシンクの中を指差したのでそこに置く。
「そういえば、あなたが持って来るなんて珍しいわね。いつも食べ終わったらそのままなのに。熱でもあるの?」
「ありません。自分の部屋に戻ります」
そう言うと僕は彼女の部屋に戻った。
彼女は、現実的な思考の持ち主だったようだ。
確かにこの世界では、そう感じて冷めた思考を持つのが現実なのかもしれない。暮らしていくお金がなければ何もできないし、優先されるべきなのは生きていく事だから。それにしても、そんな夢を持つ事もできないのはどこか悲しい。
机の上に作りかけの小箱に視線を向ける。
僕がこの世界に来てから作っている作品の一つだ。必要のなくなってしまった紙を、必要な入れ物にしているだけの簡単な工作。お金をかける事ができなくても、工夫次第でいくらでも作り出す事ができた。
「そうそう、美術に興味あるなら展示会があるからよかったら・・・また、作品できたのね。今度私も作って頂戴」
「どんなものがいいの?」
「そうね、あなたにまかせるわ。展示会のチラシ、置いておくわね。興味があったら行ってみなさい」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。あ、洗濯物たたんでおくから、あとで取りに来るのよ」
「分かりました」
彼女の母親が出て行ってから、展示会のチラシに視線を向ける。
近所の方が撮った写真を公民館で展示しているという内容のチラシだ。
「…羨ましい」
彼女の周囲には、物を作り出す事を認めてくれている大人がいる。趣味でお金にはならなくても、自分の作品を作り出して展示している大人もいる。いろいろな作品に触れる事も、自分で作り出す事もできる。
彼女の母親が褒めてくれたのを聞いて、作品は誰かに影響を与えてこその作品になる気がした。
「何が不満なの?」
つぶやいてみたところで、彼女の届くはずもない。
気づく事さえできたなら、自分で大切だと思う事、やりたいと思う事がきっかけで、いろいろな道を知る事ができるし、行動する事もできる。だが、自分の充足する答えは、何かのせいにしているかぎり、得る事ができないような気がしてきた。
僕が不満に思っている事は、本当に、周囲のせいだけ?
心の成熟だけがすべての世界では、どうしても心を大切にする事が大事だと教えられる。確かに、心の成熟し充足している事も大切だけど、それだけはどこか不完全で不満がたまっていた。
だから、あの時違う世界に行きたいと願っていた。
なんだろう、自分が求めていた答えがもう少しで出そうなのに、もやもやとした声耐えの姿がはっきりとした姿になってくれそうない。
もう少し後になれば、この世界に居る間に答えを出す事ができるのだろうか。
その答えが分からない限り、僕はあの世界に帰る事ができない。そんな気がした。その予感は、当たる事になる。