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【3】


【3】


 元いた世界とは、何もかもが違いすぎる。

 私がこの世界に来てから1時間も経過していないのにも関わらずに、そう痛感するぐらいは価値観が違った。たとえるならココは、オンラインのファンタジーゲームの中と似たような設定で、「科学」「お金」の存在価値が大きくない。

 当たり前のようにする買い物にお金がかかる。その常識もココでは通用しない。お金に価値ないから、通貨そのものが存在していないと「どエス」は説明してくれた。

 それどころか、そもそも身体も肉体ではないので、生活に必要な物すべてが買う必要がなく、その代わりに大切に思われていて必要なのは心の有り様だという。


 「貴方の居た世界というのは、牢獄のような世界ですね」


 この世界の説明をしてくれた後に、このどエスはそう言った。

 「なんで?」と視線で問うと、彼は苦笑する。


 「物などいつか壊れる。そうですね・・・必要にせまれてお金は必要でしょう。それにしても、ただ、縛れてすぎているその構図がお金でさえ自分たちの手で汚してしまって、悪になる。悪は、悪を呼びもっと闇が濃くなってくる。この世界には、まるで物や金が主人に見えたものですから」

 「そうなの、かな?」

 たぶん、彼が言った事で胸の奥が痛むのはすでに答えを知っているからだ。

 彼の言葉が的を射ているからだろうと思う。私の父も母も、疲れたと言いながら仕事をしている。周りの大人たちにしてもそうだ。お金がなければ何もする事ができない、それは、私の世界では当たり前のルールで特に誰かに教わる事なく突きつけられてしまう現実。

 それを、改めて非難する事を言う事すら、周りの大人はする事を辞めてしまっているように思える。

 「悪い意味ではなく、自分が主人公なのですから、ある程度わりきって「自分」を事も必要だと私は思います。自分に無理な事は引き受けない、曖昧な態度をしない、自分の時間を大切にできない人が、他人である友人を大切にできますか?」

 ふぅと呆れたため息を彼は押し出す。

 「そんなの常識ですよ、ここでは」

 「…そうかもしれないですね」

 「それともう一つ、自分の行動は自分で決めるものです。自分で行動をしなければ何かを変える事なんて不可能ですよ。見えていて見えていないものに気づくかどうかは貴方次第です」

 「見えていて見えていないもの?」

 ふむ、と頷くと彼はたとえ話を話始めた。

 「たとえば、そこにあの子が作った作品がありますよね」

 「あぁ、これですか?」

 そう言って視線を机の上に向けると、綺麗なガラス細工のコップが置いてあるのに気づく。今までずっとここに置かれていて、視界に入っていたはずなのに彼に言われるまでは存在にすら気づく事ができなかった。こんなにも美しくて見とれてしまうほどなのに、どうして?

 ふっと彼は優しい笑みを浮かべる。

 「そういう事です。いくらココが不思議な世界だからって貴方が来てからは、何も動かしていません。なのに、貴方は私が言うまでは気づく事ができなかった。存在が見えていなかったわけではありません。見えているのに気づいていなかった。貴方が気づいていないそれが何なのか、貴方自身で気づくしかありません」

 「…はい」

 そっとガラス細工のコップに触れてみた。

 冷たい感触がしていても、込められている気持ちがあったたく、心がほっこりするのを感じた。 

 「では、また」

 そう言うとどエスは部屋から出て行く。単純な性格の私は、このどエスへの印象が変わってしまった。

 案外、いい奴なのかも。と心の中でそうつぶやき、うっかりトキメキがあったりしたら、彼は何か忘れた物でも思い出したかのように顔だけ出して満面の笑顔で浮かべる。

 「あ、そうそう私は、年下の子供に興味はないので安心してください」

 「…出ていけ、このバカァー!!」

 その辺のクッションを投げつけて奴を追い出した。

 前言撤回しよう。いい奴なんかじゃない。優しいとか思わなきゃよかった。まだ、出会って時間も経過していないけど、あんな奴、あんな奴、ただのエスでいい!


 その頃、部屋の外ではクスクス笑っているエスが一人居た。

 彼女の心の声を聞きながら、さて次はどうからかい…もとい、からもうかと思って楽しみでわくわくしている。 

 一瞬だけ彼は寂しそうな表情を浮かべた。それは、いつかは彼女は元いた世界に戻らなくてはいけない事は決まっていて、その時には寂しく思うのだろうなと感じていても、今だけはその事を気づかないふりをする事に決めていた。 


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