【1】
パラレルワールド
あの日、たまたま私は不機嫌だった。
そんな私は、ふと、こう思う。
どこか別の世界に行けたなら、きっと何もかもが上手くのに。
別の世界があるなんてマンガやアニメの中だけの話で、どこにもそんな世界は存在していない。だから、そう思ったところで現実になるとは思わない。
「「あーあ、ここじゃない世界に行きたい」」
誰か別の声が同じタイミングで重なって聞こえた。
周りを見渡してもどこにも存在がない。気のせいかと思って首をかしげたが、気配を感じる。
同じ事を考えていた存在が居た事で、私は忘れない特別な体験をする事になる。
この時、周囲を見渡しても目に見える場所に、彼は居るはずがなかった。彼は私の居る世界ではなく、別次元の世界に居たのだから。でも、あの日の私には、そんな事は分かるはずもない。
誰の声?
そう疑問に感じた人物がもう一人居た。
まるでメルヘンのような雰囲気に包まれ、可愛い傘や小物がおしゃべりをして生きている世界で、見習いをしていた少年は聞こえてきた少女の声に首をかしげる。
俺の世界ではテレパシーは当たり前に存在していたが、うっかりその事が時空の扉を中途半端に開けてしまい、意識だけ入れ替わるという変な状況を生み出してしまっている事には、次の瞬間に気がついた。
【声に出していたのに、時空も越えての会話はあり得ないと君は言うかな。
君が声だと感じているものは、脳が処理をしているのに過ぎない。今の技術では機械との意志の疎通ができるのは電気信号を読みとる事ができるからだ。
電気信号が直接脳から脳に、魂から魂に送受信できるとしたら、できないといいきることができるだろうか?
君が脳ではそんな事ができないというかもしれないが、その脳でさえ百パーセントの仕組みは解明されているわけではないのに、できないと言い切れる事ができる?
複数の世界で、複数が同じ事を考え、時空の扉を中途半端に開けてしまった。
何が中途半端だったのか?それは…】
「「何、これ…自分の身体じゃなーい!!」」
まじまじと二人は自分の居る世界とは入れ替わった世界で、自分の身体をよく見た。声が違う。身体も違う。ついでに、世界も違う。
「どう言うことなの?」
「あーあ、中途半端になってしまった」
「ちょっと誰か知らないけど、ため息つかないでよ。説明しなさいよ」
「意識だけ入れ替わったね、それも違う世界と入れ替わった相手と話せるおまけつき」
「なんでそんなに、冷静なの!」
「ん?当たり前でしょ、こんなの。それに起きた事はもう仕方ないから、次にどうするべきなのか考えた方がいいだろ?」
「こんなの当たり前なわけないでしょ!」
「あぁー、君の世界ではそうだね。うわ、面倒くさい。何かをするのに、いちいち動かないといけないのか。あ、そっちはいちいち動かなくていいから。大事なのは精神的なものが大切だから」
「どういう事よ?」
「ま、それは慣れてもらうとして」
「ちょっ!」
「このままだと俺も君も変だと思われるから今後は、声に出さずに必要な時に会話しよう。当分、どうすれば元に戻れるのか分からないと思うし。じゃ、またあとで」
まるで、携帯での会話を終了するかのように彼はそう言うと何も言わなくなってしまった。右も左も分からないこの世界でどうすればいいのよ!?
【世界は今の世界が一つだけ存在しているものではない。
目に見える世界もあれば、目に見えない存在の世界もある。あるいは、物事の選択によっては時間は複数存在している似ているような世界まで複数存在している。同時に存在しているそれらの世界を、人はパラレルワールドと呼ぶ。
現代では、一つの世界ですら全部を知る事ができないし、ましてはパラレルワールドにどうすれば行く事が出来るのかも分かっていない。
そんなパラレルワールドに意識だけ入れ替わってしまった二人のお話です】