病んでる
すっかり落ち込んだ春野は、広場の隅っこで体育座りをしている。気のせいかその周りだけ暗いような・・・。とりあえず、慰めるかして会話できるようにしないとだめだね。僕は春野に近づいていく。近づいてわかったのだけど、春野はなにやらブツブツと呟いている。
「Bになっているはずだ。なっていたはずだ。なっていたに違いない。やつの目がおかしいのだ。そうに違いない。やつの目を・・・。」
病んでる・・・、病んでます・・・。駄目なやつだ、これは暗黒面に落ちる前にどうにかしないと。僕は、意を決して手の届く所まで近寄った。こわ・・・すんごい怖いんですけど。とにかく、春野の肩に手を置いた。手を置かれたことによって、春野が僕を見る。ハイライトの消えた目で。怖ぇ・・・もう家に帰りたい。家に帰って猫達と戯れたい。猫じゃらしで心行くまで遊ぶんだ。
・・・っは、おもわず思考逃避してしまった。すーはー、すーはー、・・・よし、声をかけよう。
「春野の魅力は胸以外にあるよ。」
僕は、親指を立てて爽やかな笑顔(のつもり)でそう言った。春野は僕の声にぴくりと反応する。さあどうだ春野、暗黒面からもどってこい。・・・なにか嫌な感じがする。直感を信じて、僕は春野から距離を置いた。
「つまり私の『胸以外に』しか魅力がないということか。くっくっく、強者の余裕か。よろしい、ならば戦争だ。」
『も』が抜けてた・・・。春野は立ち上がると、いつの間にか右手に大ぶりのナイフ、左手にはハンマーをもって寄ってくる。
「その駄肉を削いで潰して私と同じ大きさにしてやろう。なに遠慮はするな、私の行為を素直に受け取るといい。」
ぎゃー、悪化したぁ。だ、だれか、助けてぇ・・・。助けを求め周りを見る。諸悪の根源はゲラゲラ笑い転げている。くっ、まじで後で泣かす。クリフさんは・・・、なぜにポージング。フロントラットスプレッドなんかしてないで助けて。あ、目が合った。ヘルプミー。クリフさんはなぜかサイドチェストに移行した・・・。違うポージングなんか要求してないから。マジ助けてください。やっと分かってくれたのかクリフさんはコクリと頷いた。そしてモストマスキュラー・・・。信じた僕が悪かった。
あせる僕の肩に何かが当たる。ハンマーを持った春野の手だ。はっとして、あわてて僕は春野の方を見る。黒春野の接近を許してしまっていた。もうだめだ。
ニタリと暗い笑みを浮かべた春野の表情が、僕の最後に見た光景だった。