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ラノベ研究部の日常

 そうした、俺の献身が実ったのだろう。

 部室の扉が開く音と共に副部長の声が聞こえてきた。


「まーた、騒いでるのか。ほら、早乙女も伊本もやめろ」

 入ってきた結太が薫にチョップをする。

「あーん」なんて甘い声をあげながら、

 薫は俺を引っ張るのをやめて叩かれた頭頂部を撫でている。

 そんな痛くないだろうに。


「結太くん、悪いのはボクじゃないよー。

 春人くんが酷いこと言ったのっ!」

 っ!

 俺はまた腹の中の虫がざわついた。

『っ!』『っ!』『っ!』。

 俺は立ち上がって薫を見据える。

 なんというか、俺には許せない何かがそこにあるんだ。


 しかし、俺も結太にチョップされてしまう。

 当てつけに「あうっ」とでも言ってやろうかと思ったけれど、

 あまりの気持ち悪さに自分で自分に吐いてしまいそうだから自嘲する。

 それに言ってみた所でどうせ薫を増長させるだけなのだ。


 さて、とにもかくにも余り大事にならなくて済んでくれてよかった。

 俺としては、唯に倒れ込んで手をついた先が胸だったりして、

「どこ触ってんのよ!」と殴られるという所まで

 想像していたので何も起こらなくて本当によかった。

 ベタな展開は嫌いじゃないが、

 自分がそういう人間にはなりたくないのである。


「部長、ちゃんと止めてくださいよ。

 怪我人が出たらどうするんですか。

 ほら、カメラ撮ってる人も止めて」


「うっさいな。スキンシップだろ、スキンシップ。

 キャラ科の人間はキャラクター性を磨くためにイベントが必要なんだよ」

「僕にはそう見えませんでしたけどね。早乙女、素で怒ってたでしょ」

「えー、そんな事ないよー。スキンシップだもん。

 ね? 春人くん」


 語尾に(はぁと)でもついてそうな言い方だった。

 けども、俺だけに見えるように睨みつけてくる。


「まじだったろうが、お前。

 つーか、俺にスキンシップしてくんなよ。気色悪い」

「もー、春人くんったら酷いよー」


 薫は自分の服の袖を掴みながら両手でポコポコと俺を殴ってくる。

 全然力が入ってない。

 俺は何かおぞましいものを感じて吐き気がしてきた。


 多分、この場の正解としては薫の頭を押さえて、

 「へへー届かねーでやんの!」みたいな感じで薫が両手を

 振り回させるとかなんだろう。

 でも、俺は気色悪いのでそんな事には加担できない。


 キャラクター学科の生徒として、あるまじき感性なのかもしれないが、

 やっぱり自分という人間の尊厳は捨てられない。

 そういうのは、適材適所でやりたいヤツが演じればいいのだ。


 数秒ほど、放置していると、

「もう、あんまりボクをいじめちゃダメなんだからねっ!」

 と、これまた身の毛のよだつような事を言う。

 俺は訳も分からず泣き出したい衝動に駆られた。


「はいはい、もういいから座ろうか。

 なんか僕いつもこんな役回りばっかりな気がするよ……」

「まぁ、創作科の人が場を収拾するのは普通だろ?」

「いや、キャラ科だけで片付けてくださいよ。

 物語発散させるだけで、どうするのさ……終わんないじゃんそれ」


「みんな思い思いにキャラを演じてるだけですからね。

 やっぱり、客観的な視点がないとまとまらないんじゃないでしょうか」

 かしこまる我が妹の朋夏。


 年上には敬語を使う。

 兄である俺の事もきちんと敬ってほしい。

 ファッキューサノバビッチ。


 本物のビッチキャラ専攻の女の子以外集まったので、

 俺らのグループは大人しくなった。

 今日の議題としては、結太の課題アニメーションの視聴会だ。

 俺と唯は出演者として論文を提出する必要があったので、

 別で先に見せてもらったのである。


 隣の部屋にあるラノベ研専用の映写室に

 グループのみんなで集まって視聴する。

 各々の感想は、好評ではあるが似たり寄ったりだった。


 最終的には

「ここまでちゃんとした作品に、良い評価がもらえないんだったら、

 課題を出した教官が悪い」

 という所で落ち着いた。


「唯ちゃんの表情よかったねー」

「春人は視聴者にじれったく思わせる天才だね。

 マジで殴りたくなってくる」


 とか、演じた俺らにもお褒めの言葉? をいただいて部室へ戻る。

 部員のほとんどは既に帰宅していて部屋は閑散としていた。

 どうせだから、今日は終わりにしようと紅音部長が全員を返して

 部室の戸締りをした。


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