見えない選択肢
1/7 8:06 二重投稿申し訳ありませんでした。修正しました。
「俺は朋夏を見捨てたくない。
でも、朋夏の重りにだってなりたくない。
小さい頃から、朋夏は俺を好きになるように仕向けられた。
あなたにね。
俺は朋夏に沢山の選択肢を持ってほしい。
その選択肢がうまく行かなかった時に、
『朋夏の魅力が分からない男が悪いんだよ』って言ってあげたい。
そして、もっと朋夏にふさわしい男を見つける手助けをしてあげたい。
どうして俺と朋夏を婚約なんてさせたんです?
いつまでも続かないってことくらい、
父さんだって分かってたはずでしょ?」
義父の視線が横に逸れた。
「ねえ。
俺には選択肢なんて元から用意されてなかったんだ。
俺と朋夏には血縁関係はない。いわば他人だ。
朋夏を選ばなかったら、俺と朋夏はどうなるんです?
千秋はどうなるんですか?
元に戻るんですか?
でも、俺たちには戻る場所だって、もう残っちゃいない。
俺が朋夏を選んだら、朋夏はどうなるんですか?
答えなんて、どっかにあるんですか?
俺には選択肢なんて、どこにも見えない」
「すまない」
押し殺したような声が、義父の方から聞こえた。
「俺はあなたを攻めたい訳じゃないんだ。
感謝だってしてます。
ここまで大きくなれたのだって、父さんのおかげだと思ってる。
朋夏も千秋も立派に大きくなった。
感謝はしてるんですよ」
でも、と俺は続ける。
「でも、わざわざこんな機会を設ける為に賞まで貰っちゃって。
俺たちこの劇を作るのに色々あったけど、
でも真面目に取り組んだんですよ。
それをこんな形で賞をくれるなんて、なんていうか、残念ですよ」
「いや、それは違う。
話だったら、この場じゃなくたって出来た。
身内びいきや、原作が私の作品だから選んだ訳じゃない。
劇として、凄くよかったんだ。
……私が作ったよりもずっと、な」
言いたい反論は沢山あった。
けど、どうにも噛み合わない。
俺は言葉通り、父さんに感謝はしている。
恨んでいる訳でもない。
朋夏と千秋との生活に満足しているし、学園での生活だってそうだ。
ただ、こと朋夏のこととなると、俺には考えることが多すぎる。
それに、考えた後で、結局は思考停止しなければならなくなるだけだ。
俺に選択肢はない。
俺の選択で、朋夏の人生を多少なりとも変えてしまうことは、
俺にはしたくない。
「もう、良いですか。みんなも待ってると思うので」
「ああ。すまなかった。
最後に、これだけ受け取ってくれ」
便箋を渡される。
部屋の明かりに透かしてみると、中には手紙が入っていた。
「私の口から直接言うべきなんだが、……やっぱり話せなかった。
すまない。私には文章を書く方が得意でね。
いや……得意でもないかもしれないな。
そこに書いたことは私の本心だ。
どうなっても、私に出来ることはさせてもらう。
いつからか、私には思い出せないが、ずっと後悔してたんだ。
すまなかった」
「さっきも言った通りですけど、感謝してるんですよ。父さん」
「いや、いいんだ。私は父親にはなれていない」
義父が俺の言葉を拒絶している以上、もうかける言葉は俺にはなかった。
便箋を持って、部屋を後にする。
俺は自分たちが使っていた楽屋に戻った。
中には、みんなが揃っていた。
朋夏が心配そうな顔を俺に向ける。
「まだちょっと時間かかりそうだから、先に帰ってて」
とみんなに言って、自分の荷物を取り上げて楽屋を出る。
俺は楽屋から少し遠いトイレの個室に入った。
渡された便箋の端を破ると、中には3枚の手紙が入っていた。
それぞれを3回ずつ丁寧に読んで、俺はそれを破った便箋に戻す。
カバンの中からクリアファイルを取り出して、便箋を中に入れて、仕舞った。
劇をやった体育館から出ると、辺りはもう薄暗くなっていた。
出店は既に人がいない所が多かった。
明日1日片付け日になっているから、
出しっぱなしにされている出店が多い。
友達に頼んでいた、
出店の食べ物は朋夏と千秋が持って帰ってくれているはずだ。
俺は帰路についた。




