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愛する妹

 俺はもう帰りたかった。

 表彰を受けた直後はあんなに嬉しかったのに。

 と、そもそもの表彰は義父の推薦だということを今更ながら思い出す。


 学園の課題図書で、義父の作品で、

 審査員長が義父だということは前もって分かっている。

 なんだか、媚を売って、審査員特別賞を貰ったみたいだな、

 と、思って俺は嫌な気持ちになった。

 俺たちの精一杯の成果が、矮小な意識に紐付けられるのが嫌だった。


「個人的な疑問なんだが、」

 義父が沈黙を破った。

 義父を見ながら、俺は自分の考えに逃避していた視線を戻す。


 義父は俺のことを正面から見つめていた。

 ぼんやりと俺の目の辺りを眺めるのではなく、

 俺と義父の視線がかっちりと合った。


「どうして、朋夏を選ばなかった? どうして、原作を改変したんだ?」

 ああ、そうか。

 義父は、俺たちの演劇を良いと思って賞を与えたんじゃないんだ。

 ただ単に問いただしたくて、わざわざこんな機会を作ったんだ。

 来たのが結太じゃなくて、本当に良かった。

 結太だったら、全部自分のせいだと背負い込んでしまうだろう。


「監督の結太は悪くないですよ。

 俺が自分で誰も選ばないことにしたんです。

 元々、あんなシナリオは、結太は用意してなかった」

「そんな事はもう会場のインタビューで聞いている。

 どうして、誰も選ばない選択肢をとったんだ、お前が」


「そんなこと、俺には説明なんかできませんよ。

 ただ、選べなかったってだけなんですから。

 他の子たちが優秀だから、なんとか形になりましたけど。

 俺は頭真っ白で、頭に浮かんだことを言っただけですよ」

 義父はまだ俺の目を見ている。

 俺は居心地の悪さを感じていたけれど、

 自分から視線を外したくなかった。


「春人」


 義父が養子として俺を迎え入れる時に付けた、俺の名前を呼んだ。

 俺は自分の本当の名前をもう覚えていない。

 必要なくなったから、忘れてしまった。

 朋夏の元の名前も一緒に。


「説明してほしいんじゃない。ただ、知りたいだけなんだ。

 個人的な疑問なんだ。劇のこともどうだっていい。

 なぜ、選べなかったのかを知りたい」

「作家として?」

「いや、……。いや、そうだろうな。多分、そういうことになる」


 いつもはっきりとモノを言う癖に煮え切らない。

 義父は俺から視線を外して、視線下げた。


「選べないなら、原作通りやればよかったんじゃないか。

 そうすれば、他の演じている子たちだって納得する。

 選べないという選択肢は、何かないのか。

 意味は、意図は。

 漠然とした感想でもいい。ただ知りたいだけなんだ」


 小さい頃に見上げた義父は大きかった。

 見知らぬ大人である義父に連れられて、

 カメラが沢山ある家に住むことになった。

 孤児院もカメラでいっぱいだったから、

 それが普通のことだと俺は思っていた。


 俺と朋夏を連れて、家に入り。

 すぐに出て行った義父の背中を思い出す。

 その映像が書斎でパソコンにずっと向かっている義父の光景と繋がる。

 大きかった義父より、もう俺の方が背は高い。


「朋夏ですよ」


 義父は下げていた視線を上げ、俺を見る。


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