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父との会合

 拍手に見送られて、舞台袖に戻る。

 突然のことで、面を喰らっていたけれど、

 徐々に嬉しさが込み上げてくる。


「春人の判断が生きたな」

 袖裏に引っ込んだところで結太が褒めてくれる。

「いや、そんなことは」

 否定をしかけて、袖で待機していた文化祭実行員が話しかけてくる。


「『あいまいガールフレンド』の代表者の方、

 審査員長の桐原冬人センセイがお待ちですので、

 私についてきてください」

「え、なんですか。それ?」

「特別賞受賞作の方は、審査員長と語り合う場が設けられているんです」

 言いながら、実行委員がパンフを取り出して、指をさす。


 確かに特別賞の右下に『審査委員長との面会権利付!』

 と小さく書いてある。


「じゃ、監督行ってらっしゃい。また後で」

 手を挙げて結太に別れのポーズをとる。


「審査委員長は、出来れば桐原春人さんに来てほしいと言っています」

「え?」

「出来ればでいい、とおっしゃっていましたが。

 無理なようであれば、従来通り代表者の方に出席をお願いします」

「僕は話すことないし、春人が行ったほうがいいと思う」

「なんでさ。結太は、父さ、

 ……作者のファンなんだろ? 良い機会なんだから結太が行けよ」

「僕は話すことなんて特にないよ。

 僕が書いたシナリオじゃないんだから、春人が行った方がいい」


「あの、お待ちいただいているので、申し訳ありませんが。

 すぐ決めていただけますか?」

「僕が書いたシナリオを選ばなかったんだから、春人が行くべきだ」

 結太は俺の肩を押して、実行委員の子に押し付ける。


「なっ」

「では、行きましょう。こちらです」

 歩き出した実行委員を見、結太を見る。


「ほら、置いていかれるよ」

 実行委員の子がこちらに向き直って、迷惑そうに俺を見ている。

 納得がいかなかったが、これ以上、お手数をかける訳にはいかない。

 俺は駆け足で彼女の後を追った。



「失礼します」

 ノックをして、審査委員長こと桐原冬人こと義父の楽屋に入る。

 目が合うと、義父は驚いたかのように目を見開いたが、

 すぐに平常心に戻った。


 自分で俺に来いと言った癖に、何を驚いているんだろうか。

「監督が、俺が行くべきだと言いまして」

 言い訳する必要なんてなかったけど、居心地が悪くて言った。


「即興劇だったそうだな」

 あまり興味がないようで、スルーされる。

「ええ」

「土台がいくつかあるって言っていたが、

 どんなシナリオが用意されてたんだ」

「各ヒロインと結ばれるエンディングですよ。

 それぞれ全部分用意してありました」

「選ぶとしたら、妹か幼馴染だな」

 決めつけるような意見に俺は少しむっとする。


「まだあの作品は学園(うち)の教科書に載ってるのか?」

「『愛妹ガールフレンド』ですか? 載ってますよ。

 一年の時に物語論でやらされました。一番最初にね」

「そうか。だったら、タイトルを変えて、また妹を選ぶってのもありだな。


 古典的なやり方だが、生徒を驚かすことはできるだろう。


 まぁ、結果的にはそうなったが。

 いや、違うか。

 元々、選択することに価値を置いた作品だ。


 選択せずに妹を手に入れても仕方ない」

「そうですか。演じるだけの俺には分かりませんよ」

「そうか。分からないのか」

「ええ」


 沈黙。


 義父は俺の目の辺りに視線を這わせているけれど、

 俺のことを見てはいない。


「人と話す時は目を見て話しなさい」

 というのは、常識としてよく言われるけれど、

 実際の人間でそれを守っている人はほとんどいない。

 相手の目をずっと見ていることは威圧感を与える。

 基本は相手の目を見て、気まずくなったら一度目を逸らす。

 そして、頃合いを見て、また相手を見る。

 人の視線は、本来そうやって漂っているものだ。


 だから、ずっと目を見続けるということは、

 かなり意識的にやらないとできない行為だ。


 でも、義父はずっと俺の辺りに目をやっていた。

 俺もその視線に合わせるが、俺と義父の視線はすれ違っている。


 義父は、目の前の俺を見ているのではなく、

 俺の目の辺りに目を固定して、

 自分の頭の中にある物語や思想を凝視している。


 だから、気まずさなどを感じずに、俺の目をずっと凝視していられる。


「終了のタイミングは、審査委員長の作家センセイの方が見計らいます。

 くれぐれも粗相のないように」

 と、俺と義父の関係をまったく知らない実行委員の子は言っていた。


 粗相のないように。

 仮初とはいえ、親子の間に粗相なんて存在するんだろうか。


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