迫真の演技
疑問が一つだけある。
もうこうなれば自棄だ。
俺は自分の疑問を解消することにした。
「なに、みんな、あれ。
演技だったわけ? 演技であんな表情、普通できるもんなの?」
誰も答えてくれない。
「八代さん、あの怒ってたシーン、あの気迫、あれ全部演技だったの?」
「え? あれ?」
突然名前を呼ばれて、八代はちょっとだけ正常に戻った。
頬をひきつらせながら、返答してくれる。
「あれは、本気で怒ってたよ。そりゃそうでしょ。
あれだけみんなで一生懸命練習したのに、練習と違うことやりやがって。
殺してやろうかと思ったわよ。
で、で、で、も、ゆ、ゆるして、あげる。
もうお、怒ってないよ。くはは」
劇のシーンを思い出したのか、八代は地面に手をついて、
襲ってくる笑いに耐えている。
「もうお腹痛い。
これ以上笑いたくない、くっくっ……」
すごく辛そうだった。
できることなら、俺の立場と変わってほしい。
「女はみんな女優だっての、ホントなんだな。
みんな、俺のことが好きなんだと思ってたよ」
収まりかけていた笑いの渦が、
まるで存在するかのように大きくなったのが視覚的に見えた。
「ぼ、ボクたちをこ、殺す気なのー」
いっそマジで死んでほしい。
笑い死にさせることが可能なのか?
真剣に考えようとして、自分の考えが馬鹿バカし過ぎて、
考えるのを止める。
「はー、ほんと。
春人、お前面白いな。
私が今まで見てきた主人公の中で、振れ幅が一番大きいよ」
紅音先輩は、馬鹿にした感じでなく、
心底感心したって感じに褒めてくれる。
その言葉に俺は傷つく。
ドンドンドン。
ノックが3回鳴って、実行委員会の生徒が入ってきた。
「そろそろ表彰式が始まるんで、舞台に集まってください」
崩れ折れて笑いまくっている俺以外に怪訝な顔を見せたが、
すぐに忙しそうに部屋から出て行った。
ほら、さっさと行くよ。
と抑揚を込めずに言うと、
苦しみながら立ち上がって、みんながついてくる。
「ほらそろそろ、もう笑うのやめてくださいよ。
それでもキャラ科の人間ですか」
ある程度正常に戻った結太が言う。
「そ、それもそうだな」
紅音先輩は答えて、目を瞑って深呼吸をする。
目を開けた時には、笑みはもう消え、いつも通りの表情を取り戻す。
他のみんなもそうだ。
切り替えの速さに俺は驚く。
俺らは(俺を除いて?)真剣な顔で、舞台に袖に立った。




