劇の幕開け。そして、クライマックス
『あいまいガールフレンド』
劇が始まる。
この劇は、言ってみれば、俺らが今まで生きてきた日常そのものだった。
他愛もない生活。
他愛もない会話。
他愛もない触れ合い。
たまにしんみりしながらも、どうにかこうにか普通に楽しく生きている。
そんな生活が長く続けばいいのに。
って、誰もが思う。
けど、永遠に続くことなんて、この世界には許されていなくて。
『誰を選ぶにしても、誰も選ばないにしても。
アカネ先輩が卒業する前に決めてあげないと、可哀想だよ』
ずっと先延ばしにしていた決断を、迫られる時が、ついには訪れる。
女友達のカナエは前に一歩踏み出して言った。
カナエ
『どうしてそんなに煮え切らないの? 私、前にも言ったよね?
私たちの気持ち、ハルヒトくんは知ってるはずだよね?
アカネ先輩には、もう時間がないの。
もう私たちだって待てないよ。
今決めて!』
俺
『みんな、おんなじ気持ちなの?』
女の子たちを見渡すと、カナエの言葉を肯定するように、
おずおずと、それでも確かにみんなが頷いた。
俺は焦点が合わなくなり、世界がぼんやりと歪んでいく。
俺
(俺の、俺たちの日常はどこに行ったんだろう。
みんなだって、それを望んでいたはずなのに、
でも、みんなはそれを壊してしまいたくなったんだろうか)
俺だけにスポットライトが当たり、俺は心の声を客席に向かって、
訥々と語る。
ユイ
(あたしだって、小さい頃はずっとハルヒトと一緒にいられると思ってた。
でも、学校が始まってクラスは離れ離れになったし、
ハルヒトの周りにはたくさんの女の子が増えた。
あたしとトモカちゃんとハルヒトの3人しかいなかったのに。
今は、こんなことになってる)
アカネ
(私のせいで、みんなが困ってる。
私がちゃんと自分の口から言わないといけなかったのに。
結局、カナエさんに頼ってる。
私がこの場を収めないといけないって分かってるのに、
でもハルヒトくんの言葉が、どうしても聞きたいの……)
カナエ
(私は先輩の気持ちを代弁するなんて言って、自分の言葉を誤魔化した。
私自身が聞きたかっただけなのに。
先輩をだしに使って、それでハルヒトくんを傷つけてる。
でも、そうだとしても、
私たちはみんなハルヒトくんの本当の気持ちが知りたいはずなんだ)
俺
(2人きりで、こういう雰囲気になったことはあった。
でも、それはずっと誤魔化せてこれた。
でも、もうそれは無理だ。
みんなの中で、言葉がもう溢れだしてきてしまった。
その気持ちは、俺にとっての気持ちでもあるんだろう。
だから、この場所、このタイミングで、あふれ出たんだろう)
どうする。
どうすればいい。
俺
(みんなの為にも、俺のためにも、もう誰かを選ばないといけないんだ)
誰を選ぶ。
誰を選べばいい。
俺
(もし、それが誰かを傷つけることになっても。
俺の気持ちを伝えなければ、ならないんだ)
頭は真っ白になった。
でも、目の前いくつもの情景が見える。
香苗、紅音、薫、唯、朋夏。
それぞれの笑顔が見える。
それぞれの涙が見える。
それぞれの心が見える。
俺の心だけが見えなかった。
ルールを思い出す。
『どんな状況に陥っても、沈黙していいのは最大5秒』
何度も練習でやらされたから、
俺はそのルールを体感として身に着けている。
後、3秒、2秒、1秒。
0。
俺は自動的に口を開いて、
それで、俺は、俺が、俺の、選んだ、答えは。