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文化祭当日

 文化祭当日はすぐに訪れた。


 いつものように朋夏、唯、

 それから今日は舞台を見に来てくれた千秋も連れて、学校に登校する。

 日曜日に開催だけど、みんな楽しそうにわくわくそわそわしている。


 普通の学校と同じように、様々な出店が並ぶ。

 違うことと言ったら、

 学内のほとんどが作品の展示室になったりすることだ。

 また、メインコンテンツは文化発表会となっていて、

 文化祭の日は体育館を貸し切って、1日中映像や演劇を発表している。


 発表会に出る生徒は一部のみで、

 部活や有志として発表会に登録した人間だけが出席する。

 それ以外の人は、大抵文化祭そのものを楽しむか、

 あるいは、文化祭を催す生徒の役を演じる。


 俺はお祭りの食べ物が大好きだ。

 特別美味しい訳ではないけれど、

 その場の雰囲気などでおいしく感じるのだろう。


 焼きそばにたこ焼きに、フランクフルト。

 目につくものから片っ端から食べてしまいたい。


 しかし、俺たちの演目の順番は最後なので、

 出店を回っているような精神的余裕はなかった。


 クラスの友人に買い物だけ頼んで、楽屋でみっちりと稽古を重ねる。



 俺は、誰を選ぶべきなんだろうか。

 誰を選びたいんだろうか。


 まだ決まっていなかった。



 文化祭発表会の最初の催しものは、

 例の『アイしてる』の生徒が手掛けた作品だった。

 発表会のタイトルとしては『アイの軌跡』となっている。


 また言葉遊びか……と俺はうんざりした気分になった。

 しかし、結太が見ると言っていたし、

 俺も気になったので視聴することにした。

 ちなみに、この作品は前回の作品と同様にアニメとのことだ。


 内容としては、コミュニケーションを主軸に置いた話だった。


 主人公は、人との表層的な触れ合い

 (心の中で何を考えているか分からない恐怖)を恐れ、

 トラウマになっている。

 一方で、人との触れ合いを心の中では熱望している。


 そんな中、コミュニケーションを完璧にこなすアンドロイドに対して、

 嫉妬し、恐怖し、羨望する。


 最後には、他者とのコミュニケーションは表層的でしか有り得ない。

 けれど、その裏にある心(意図)がある。

 その心をそのまま伝えてしまうことは出来ないけれど、

 伝えるためには表層的な触れ合いでしか表現できない。

 むしろ、その積み重ねこそが心そのものに通じていく。


 ということを主人公が自覚し、受け入れるという話だった。


 アンドロイド(=プログラム化された振る舞い)を受け入れることが、

 そのまま表層的なコミュニケーションを受け入れる。

 というメタファーになっているのだろう。


 どうにも台詞が作為的だったが、物語的には大きな起伏がないので、

 それを盛り上げるためにあれこれと試行錯誤したのだと思う。


 蓋を開けてみると、前回の『アイしてる』と扱っている対象も

 テーマもまったく同じだ。

 アンドロイドを扱っているけれど、(カメラを意識しての演技という)

 表層的なコミュニケーションを行い続ける

 この学園へのメッセージということなのだろうか?

 俺は作者のことを全然知らないので分からない。



 15分ほどの短い短編アニメを見ただけだが、

 俺の心は見る前よりもかき乱されていた。

 誰にするかまだ決まってないのに、変なアニメを見てしまったせいだ。


 主人公である俺がヒロインを選ぶまでの共通パートは、

 どのルートでも一緒だ。

 だから、もう嫌になるくらい頭に入っている。

 1週間くらい前から、

 ずっとヒロインのルートを何度も何度も順番に繰り返し演じていた。

 今日も同じだ。


 結太は妥協をさせてくれず、

 最後まで全員のパートを平等に演じるように指示を出してくる。


 演じることに慣れているとはいえ、

 俺だって、頭の選択肢を減らして、もっと楽になりたい。


 けれど、結太の真剣なまなざしを無下にすることはできない。

 それに、俺にとっても、演劇を通したこの題材、

 誰を選ぶのかということは重要だと思えた。


 去年、入学してから俺はずっと主人公を演じている。

 朋夏と薫以外とは、去年に徹底的に作品の中で結ばれまくった。

 今年に入ってからは、朋夏と薫(想像すると多少げんなりする)とも

 劇の中で結ばれた。


 何度も何度も決定的なハッピーエンドを繰り返した。

 劇の中での関係性を何度も演じることで、

 それが現実にも作用してしまうことはよくあることだ。

 この学園は、それをさらに加速させる。


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