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愛の告白

 居心地の悪さを感じながらそわそわと待つ。

 結太のやつ、ふざけやがって。

 何がラブコールだ。

 何が告白だよ。



 最初に入ってきたのは八代だった。

 楽しそうに笑っている笑顔に、どぎまぎしてしまう。


 八代は言った。

「私を選ばなくていいから」

 超、そっけなかった。

 やる気のかけらも感じない。



 次は紅音先輩。

 紅音先輩はなぜかしおらしい感じで、おずおずと部屋に入ってくる。

 でも目は真剣そのもので、いつものおちゃらけた感じとは違って、

 心を揺さぶられた。


 紅音先輩は言った。

「私は、最後の文化祭になるんだ。

 ……言っている意味は、分かるよな?」

 脅迫だった。



 薫が入ってきた。

 いつものように明るく可愛い感じで入ってくる。

 俺は時々、薫が男の娘であることを忘れてしまう。

 身体が男な分、心はせめて女でありたい、

 という女らしさへの薫の羨望がそうさせているのかもしれない。


 薫は言った。

「ボク、せめて劇の中でくらいは、春人くんと結ばれたいな……」

 こいつを選ぶ選択肢はない。



 頬を赤く染めて部屋に入ってくる唯。

 幼馴染役である唯は、順当にいけばヒロインの最有力候補の一人だ。

 ツンデレというキャラの特性上、劇との相性もいい。


 唯は言った。

「べ、べつにあたしは、他の劇で何度も結ばれてるから今回は良いわよ。

 も、もし選んでくれたら、そ、その……嬉しいけど……」

 可愛い。

 こういう時、ツンデレって得だよなぁ。



 最後は朋夏だった。

 『愛妹』を『あいまい』に変えたとはいえ、

 原作のヒロインは妹役の朋夏だ。

 その点をどう演出するのか、どういう結果になるのか、

 がこの劇にとっては重要だろう。

 でも、俺一人で決めるには余りにも責任が重大過ぎる。

 朋夏の言葉で、何か糸口でも掴まないといけない。


 朋夏は言った。

「お兄ちゃんの好きにしていいよ」

 いや、そういうのが一番困るんだけど……。



 全員分が終わったあと、5分間。

 ラブコールを反芻しろと言われたので、5分経ってから部屋を出た。


 元の創作室に戻ると、ヒロインたちは黄色い声で

「えー、だいたーん」とか何とか言っている。

 女3人寄ればかしましいとは言うが、あまりにも煩い。

 そのせいで、5分間の反芻の時間はあまり意味が無かった。

 隣の部屋にまで喧しい声が響いていたので、

 考えるのに集中できなかったからだ。


 俺が戻ってきたのを見て、ヒロインたちはくすくすと笑う。

 気恥ずかしいような心持ちがして、俺は仏頂面を維持する。


「春人、顔が赤くなってるよー」と唯。

 ぐぬぬ……。

 意識すると、さらに顔に血が昇ってくるのが分かる。


「春人くん、かわいー」

 ぱたぱたとわざと足音が響くように薫が近づいてくる。

 頬を触ろうとするので、ガード。


「さわんなよ」

「春人が照れてるぞー。いやー、若いっていいねー」

 1歳しか年が変わらない癖に、紅音先輩は、じじくさいことを言う。


「あんま春人を冷やかさないでくださいよ。

 誰か選んでもらわないきゃいけないんだから」

 結太がフォローに入ってくれるが、

 でも、その口元は笑みを我慢しているように引きついっていて、

 俺を慰めていることにはならなかった。


 1ケ月もの間、俺たちは時間に追われながら演劇の稽古をした。


 この学園での日常そのものが即興劇に近いとはいえ、

 単に遊んでいるだけの日常と、審査員やOB、

 仕事のスカウトに来ている人々の前でやるのは全然意味合いが違う。


 俺が選ぶルートは一つだが、それでも、全ルート分の練習をみっちりやる。


 結太が言うには、全員分の登場人物の気持ちを

 しっかりと把握することで、さらに劇がよくなる、と言っていた。


 言っている意味は分かる。

 しかし、現実問題として全部分を演じて、覚えて、

 その上でさらにまた演じるのは簡単なことではない。


 学校ではひたすら色々なパターンを試して、

 家に帰ったら時間の許す限り、台本を読みこんだ。


 正直、物語の流れから言って

 選択肢に入らなそうなヒロインのルートもある。

 だが。結太と交わした約束が枷となって、俺にページをめくらせた。


 いつもなら、こんな毎日はさっさと過ぎ去って欲しいと思うのに。

 時間がない時に限って、時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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