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台本はマルチエンディング

「色々と吹っ切れた」と、結太は次の日に台本を完成させた。

 ヒロインのみなさんは、配られた台本を読んでいく。

 主人公の俺は結太に「もうちょっと待ってて」と言われ、

 台本をまだもらえてない。


 台本をぺらぺらとめくりながら、最初に口を開いたのは八代だった。


「ちょっと、こんな台本じゃ駄目でしょ。

 私は嬉しいけど」

 言葉の内容にみんなが目を丸くして、八代を見る。


 もう文化祭まで1ケ月を切った、今更また台本の書き直しが入るのか?

 もう間に合わないんじゃないのか。


「私の立ち位置って、高校に入ってからの女友達でしょ?

 その私が妹、いや妹が恋人って言うのもおかしいと思うけど、

 まぁ置いといて、妹とか幼馴染とか、お世話になった先輩とか。

 そういう人を差し置いてヒロインになるなんておかしいでしょ」

「え?」

 八代以外のヒロインたちが驚いて、台本の最後からページをめくる。


 そして、一様に「?」とでも言うような、疑問を抱えた表情になった。


「これって先輩の私がヒロインなんじゃないのか?」

 紅音先輩が台本をみんなに見えるように目の前に掲げた。


 最後のシーンは、紅音先輩が『大学で春人くんのこと、待ってるから』

 と言って終わっている。

 どう解釈しても、これは紅音先輩がヒロインだ。


「えー、なにこれ。私のと違う。

 私、春人くんとキスしてるよ?」

 八代が台本を見せる。

 ぎょっとして、指で示している部分を見ると、確かにキスシーンだった。


 なにこれ、どういうこと?

 と他のヒロインたちも同じように自分の台本をみんなに見せる。



 八代は、気の合う女友達からの恋人への飛躍エンド。

 紅音先輩は、一時の別れを乗り越えるエンド。

 薫は、男と男の娘の性差を超えた純愛エンド。

 唯は、小さい頃からずっと支えてくれている人を選ぶエンド。


 朋夏は、原作通り。

 最愛の妹を選ぶというプラトニックな恋愛エンド。


 それぞれの台本が、それぞれのヒロインと結ばれていた。


「あの、結太、これってどういうことなの?」

 わいわい騒いでいても、

 何も分からないので俺は作者の意図を問うことにした。


「マルチシナリオだよ」

「マルチたって、全員分できる訳ないでしょ」

 全員のヒロインを結ばれる話なんて、ただのプレイボーイじゃないか。

 ひんしゅくを買うだけだ。


「全員分なんてやらないよ。

 春人がどのシナリオをやるか、選ぶんだ」

「え?」

「俺が全パターンを春人に提示したから、

 春人がその中でどれをやりたいかを選ぶんだよ」

 机の上に広がっている各ヒロインの台本を眺める。


 原作通りなら朋夏だけど、

 それだと『愛妹』を『あいまい』に改題した意味がないんだよな。

 となると、キャラが立っている先輩か、あるいは幼馴染か。

 視聴者を驚かせる為に男の娘?


「あ、そうそう。どのシナリオを選ぶか、事前に言わないでね?」

「えー」っと俺もヒロインたちも声をあげる。


「今回はさ、単なる演劇を超えて、リアルな反応が欲しいんだよね。

 即興劇みたいな形でやりたいんだ。

 そうすればさ、

 題名の『あいまいガールフレンド』ってのが生きてくると思うし」

「そんな事言ったって、私たち即興劇なんて練習したことないぞ」

 と紅音先輩。


「何言ってるんですか」

 結太はおかしそうに笑った。

「いつもラノ研の部室で、やってるじゃないですか」

 俺は、紅音先輩の後に文句を言おうと思っていたけれど、

 その言葉で言いたいことが詰まってしまった。


 確かに、言われてみればその通りだ。

 俺たちキャラ学の人間は、

 ずっと即興劇の練習をしながら生活しているようなものだ。

 それもかなり意識的に。


 他のみんなも俺と同じように反論が出来ないようで、

 結太は周りを見渡して満足そうに言った。


「ルールは一つだけ。

 発言したい人は、一歩前に出てから発言してください。

 先に前に出た方が優先。

 同時だったら、より前に出てる方が優先。

 何か困った事があれば、春人が何とかしますんで」

 結太は楽しそうに無責任なことを言った。


「春人はあらゆる可能性を考える為に、たくさんのケースを用意したから」

 結太は座っている椅子の脇にあったビジネスバッグを両手で手に取り、

 俺に差し出した。

 俺は右手を伸ばしてバッグを掴む。


「離すよ?」

「うん」

 気のない返事をした瞬間、バッグごと、俺の肩はがくんと落ちた。


 重っ!

 肩が外れるかと思った。


 慌てて持ち直すが、肩がじんじんと痛むので逆の手に持ち変える。


 ファスナーを開けてバッグの中を覗くと、

 ぎっしりとA4用紙が敷き詰まっていた。


「え、なに、これ。1日で書いたの?」

「いや、ずっと書き溜めてたものだよ。

 僕だってずっとぼーっと悩んでた訳じゃないよ。

 ずっと色々なパターンを書いてたんだ。それは全部分」

 結太は口の端を釣り上げて、意地悪そうに笑った。


 頬を殴ったこと、本当は根に持ってるんじゃないのか……?


「じゃ、そろそろヒロインたちから春人に

 ラブコールを送ってもらいましょうか。

 考えついた人から、春人に何かメッセージを送ってください。

 春人が最終的に誰に告白するか選ぶんで、

 メッセージで結末が変わるかもしれませんよ」


 告白、という言葉を聞いて俺はぶっ……と吹き出す。

 抗議をしようと「結太!」

 と言ったけど、その後に続く言葉が出てこない。


 女の子たちは「えー」とか「きゃー」とか騒いでいる。


「じゃ、春人は隣の部屋に移って。

 順番にヒロインが入っていくから。真剣に言葉を聞いてね」

 結太に肩を押されて、促されるままに俺は隣の部屋に行く。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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