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キャラの気持ち

「作者の気持ちってやつを?」

「……ちがう」

「つまり?」

 結太は応えない。

 言葉が足りなかったのだろうか。


「つまり、どういうことを?」

 結太は机に顔を突っ伏した。

 俺はふと時計に目を向ける。


 目の前の結太から唾をのみ込む音が3度聞こえた。

 1分20秒ほど経って、結太は俺を見据えて言った。


「主人公とヒロインの気持ちを、見失ったんだ」

 俺は。


 俺は瞬間的に手を伸ばして、結太の襟首を掴んで引き寄せ、

 思いきり頬をぶん殴った。

 自分の頬は自制が聞かずに小刻みに震える。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、いくつもの光景が脳裏に浮かぶ。


「お前に何が分かるって言うんだよ!

 僕たちの何が分かるっていうんだ!」

 倒れた結太に駆け寄って、襟首を掴んで引き寄せる。


「え? 言ってみろよ!

 お前なんかに僕たち兄妹の何が分かるっていうんだ!」


 孤児院。

 見知らぬ他人に連れられて。

 大きな家。

 至る所にある監視カメラ。

 従妹だったハズの妹。

 いつの間にか増えているもう1人の妹。


 小学校でも高学年になると、様々な噂が飛び交って俺たちは揶揄された。

 違う苗字だったはずなのに、俺と朋夏は一緒の苗字になった。

 まったく顔も似ていないし、授業参観に親が来た試しはない。


 中学生にもなると、大体の人間が俺らの家の事を知っていた。

 一つ屋根の下で住んでいる他人だった男の子と女の子。

 酷くキャッチーな設定だった。

 好機の眼にさらされたし、

 実際の所、俺と朋夏は元々婚約までさせられていたんだから。

 あながち嘘でもなかった。


 家事に慣れるまではお手伝いさんがいた。

 そのおばさんは、俺らを奇妙なものでも見るように見て、

 それでも丁寧に炊事や洗濯を教えてくれた。

 でも、噂になった元はこのおばさんだったって俺は知っている。

 だから、噂は大体あっていたのだ。


 家事になれた頃におばさんはいなくなって、

 子供たちだけで暮らすようにと言いつけられた。


 俺らには普通の日常がなかった。

 皮肉な事に、父親に持たされていた盗聴器のおかげで、

 明確ないじめが続く事はなかったけれど。


 小さい頃から、他の家庭とは違うと意識しながら暮らしてきた。

 ずっと仲の良すぎる兄妹を演じた。

 実際の所、他に選択肢もなかったから俺らは仲が良かった。

 それは当然の成り行きだ。

 それからは身を寄せ合わせるように3人で過ごしてきた。


 誰も受け付けずに。

 ただただ閉じた輪の中にいて、丁寧にていねいに同じ毎日を繰り返した。

 ある程度まで関係が進めば、父親の判断で、関係はリセットされる。


 皮肉な事に、キャラ学という特異な学校では俺らは優等生だった。

 仲が良すぎる兄妹も〝珍しい設定〟ではない。

 俺も朋夏も優等生で、奇異の眼で見られることもなくなった。

 中学からの知り合いが唯くらいしかいないことも関係しているだろう。


「おい、なんとか言ったらどうなんだ!」

 俺は自分がなぜ怒っているのかも、なぜ手をあげたのかも分からない。


 それに監視カメラがないのに俺はなぜ行動しているんだ?

 辛そうな妹たち。

 けれど、俺はそこまで辛かった覚えはない。

 俺はお兄ちゃんだから、義妹たちを何とかしてあげたかった。


 でも、それは俺が結太を殴る理由になんてならない。

 俺の中にはこんな事をしている理由が見当たらなかった。


新連載はじめました。

異世界転生ファンタジーなどのテンプレものに自分のオリジナリティを加えて挑戦。

興味のある方は↓より読んでいただけると嬉しいです。

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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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