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進まない原稿

 文化祭を間近に控えた1ケ月前。


 キャラ学にとって、文化祭は重要なイベントだ。

 通常授業がなくなって、文化祭の準備期間に入る。


 実際にお祭りで屋台をやる人もいれば、

 俺たちのように演劇の類を発表する人間もいる。

 あとは創作科の人間が、詞とか絵とかを発表する展示会などもある。


 俺は結太に呼ばれて、結太の創作室で来ている。


 結太の原稿はまだ書き終わっていない。

 もう8,9割がた出来上がっているのに、

 最後の部分をどうするか決まっていないらしい。


 そろそろ仕上げないとやばいぞという警告と、

 あせらずに行こうというアドバイス。

 どちらの割合を強めるべきかと考えながら結太と作品について話す。


「何をそこまで悩んでるのか、分かってあげられないけど。

 結太としては、どう思ってるの?」

「期限がもう無いってのは、分かっちゃいるんだ。けど……」

「焦らせるのもアレだけど、

 俺たちもそろそろ原稿を貰えないと覚えたりする時間が、さ」

「ああ。ごめん。分かってはいるんだ」

 いつもと違って結太らしくなく、煮え切らないような態度が続いている。

 結太は速筆な方で、原稿を前倒しで提出することが多い。


『今の時代はインスタント作家しか生き残れない』。

 常ながら結太はそう言っていたし、

 その言葉に沿うように物語をコンスタントに作り続けていた。


「何が問題なのか、話してみてよ」

 結太は俯いていた顔をあげて、何度か口を開閉させた後、

 意を決するように話始めた。


「この作品が、好きなんだ。

 もちろん原作の『愛妹ガールフレンド』ことだけど。

 それに、作家の桐原冬人先生の事も尊敬してる」

 結太はそこまで言うと俺から視線を逸らした。


「桐原先生が評価されてるのは、小説とメディア展開の橋渡しをした事だ。

 小説の方法論を学ぶ専門学校とかは沢山あったけど、

 桐原先生が提案したキャラ学は、それまでと一線を画するモノだった。

 それを桐原先生はやってのけて、その有用性を実証した」


 桐原冬人。

 親が経営している学園にキャラクター学科を作って、

 その一期生として入学。

 その後で方々に活躍しまくって、ただの学科を1つの学校まで押し上げた。


「評価されるのはそこばっかりだ。

 肝心の小説の方は、アイデアだけ奇抜な益体も無い小説だ、

 って言われてる。珍しいから受けただけ。

 才能がある訳じゃないなんて言われたりもする」


 まったくその通りだと思った。

『愛妹ガールフレンド』。

 あいまいがーるふれんど。

 語感は良い。

 けれど、こんなモノは語感と言葉遊びの産物だ。


 中身だって、ちょっと主人公がうざったいくらい

 悩み癖があるだけのラブコメディーでしかない。

 タイトルからヒロインは誰かってのは、分かりきっている。

 ただタイトルだけ思いついて書いたような作品としか俺は思っていない。


 けど、それを面と向かって言うのは憚れる。

 俺は黙って結太に言わせたいままにさせる。


 でもさ、と結太は続ける。


「でもさ、僕はそうは思わないんだ。

 やっぱり、桐原先生の作品があったからこその成功だと思うんだよ。

 キャラ学はさ。

 突飛なアイデアの中に、リアルな人間の悩みとかが詰まってるんだって、

 僕は思うんだ。

 人の気持ちを掬いあげるのが上手いんだよ」

 俺は少しいらいらしてきた。


 どうにも着地点が見えない。

「つまり、今回の劇をそういう風にしたいって事?

 その為に、必要なアイデアが出てこないっていう意味?」


「いや、これを題材にしてさ。

 桐原先生の思考をトレースしてみたかったんだよ。

 どうやったら、こういう作品を書けるんだろう、って。

 配役も今風のキャラに変えて、最初から丁寧に追っていこうとしたんだ。

 けど、ここまで書いて行き詰まった。

 見失ったんだ」


 結太は、机の上に載っているプリントアウトした原稿に手を伸ばして、

 ぐしゃっと潰した。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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