ハーレムとはいいものだ
やいのやいのと談笑をしている内に、ライトノベル研究会の部室についた。
結太の所で時間を取られていたので、既に部員で埋め尽くされていた。
キャラ学では人気のある研究会なので、所属している人が多い。
あのキャラの魅力はーとか、この作品の神髄はーとか、
色々な所でキャラや作品に対する議論が聞こえてくる。
そんな声を耳に挟みながら、
自分たちがいつも使っているグループ机へと歩いていく。
「あー春人くんだー。こっちこっちー」
後輩の早乙女薫が手招きした。
手を振るのにつれて、セミロングなピッグテールが揺れる。
薫の隣に座っている我が妹こと桐原朋夏も
こちらに気が付いて表情をぱっと明るくする。
けれど、俺の隣にいる唯を認めるとキッと睨みつけてくる。
これが無ければ我が妹ながら可愛いんだけどな。
つややかな黒髪が流れるようにストレートに流してある。
まさに日本女性の美、そのものって感じ。
ちょっとシスコン過ぎるかな、俺。
「お兄ちゃん、遅いよ! 朋夏、ずっと待ってたのに。
それに、なんで唯さんと一緒にいるの?
こんなに遅れて……今まで何してたの!」
まくし立てるように言う。
朋夏の隣に腰を下ろすと俺の袖を掴んですがってくる。
「結太の課題を2人で手伝ってるからさ。その帰りだよ。
っていうか、何度も説明してるでしょ?」
「一緒に来る必要なんてないじゃない。
なんで、一緒に来るの。朋夏へのあてつけ?」
「いや、わざわざ別れてくるのもおかしいでしょ。
部活だって同じグループなんだから」
おかしな事は言っていないはずなのに、朋夏の感情は収まらない。
今度は唯をじっと見据える。
朋夏が掴んでいた俺の袖の辺りを不満げに見ていた唯は、
顔をあげると「ふん」と鼻を鳴らしながら、顔を逸らした。
「相変わらず春人くんモテモテだねー。
女の子を泣かせるなんて罪つくりなんだからぁー」
「モテてねーし、2人とも泣いてねーよ」
「もー、春人くん細かいよ。
でも、春人くんに冷たくされるとボクもえちゃうなっ」
どっちの漢字? とは聞いてやらない。
こいつは構うとすぐに増長するので、
面倒くさそうにあしらってやるくらいでいいのだ。
「うるさい、だまれ」
薫は上目づかいに俺を見て、頬を膨らませる。
いかにも「私、怒ってます」みたいな視線を投げかけてきた。
無視無視。
「朋夏ちゃーん、春人くんがひどいよ、無視するよー」
猫なで声で朋夏にすり寄ろうとする薫を
俺は立ち上がってとっさに抑える。
「ちょっと、ウチの妹に触れないでくれるかな」
片腕で朋夏の肩を抱き寄せる形で、もう片方で薫の手のひらを遮る。
朋夏と薫がいっぺんに俺を見上げた。
「お、お兄ちゃんったら人前でダメだよ。
もう、独占欲強すぎるんだから。
あ、でも、勘違いしないでね。
朋夏、すっごく嬉しいの、
お兄ちゃんがどうしてもしたいなら人前でも……」
腰に手を回してくる朋夏の腕を押しとどめたい。
しかし、薫が俺の手のひらを恋人がするような指と指を
絡ませる握り方でぎゅっと掴んで離さない。
開いている方の手で朋夏をブロックするが体勢も悪いので
徐々に身体が近づいていく。
そんな折、天啓が降ってきた。
「おいおい、部室内で不純異性交遊なんてするな」
ラノベ研部長こと望月紅音先輩が
割って止めに入ってきてくれる。
先輩は、中世の本格的なメイド姿に身を包んでいた。
黒髪にはひらひらのレースがついたカチューシャをつけて、
ストレートに流している。
衣装の完成度に舌を巻く。
やっぱりカタチからもキャラ化している人は凄いなーなんて感心。
しかし、あろう事か持っているはたきで俺の頭をぱたぱたと叩いてくる。
なんたるメイドだ……。
「大体、桐原。お前は鈍感系専攻なんだろ?
ここまで過剰表現されちゃまずいだろうが。
もっと女の子同士を牽制させるような、
絶妙な間合いを維持していかなきゃだな、…………」
説教が始まった。
紅音先輩は顔を少し上に逸らして目をつむって手と口を動かしまくる。
ラノベ研の部長をやっているだけあってキャラへの造詣が深い。
様々なキャラクターに手を出して、モノにしている。
そんな紅音先輩だからこそ、
俺みたいな特定のキャラしか演じない人間に厳しい。
「お前は狭い分野しかやりたがらないんだから、
その分野こそを極めてやるって勢いがなくちゃダメだ。
わかったな?」
「そんな事言ったって、こいつらが勝手にまとわりついてくるんですもん。
防ぎようがないでしょ」
そんな言い方って酷いよ! 口を揃えて言う朋夏と薫。
お前らのせいで怒られてる身にもなれよ。
「そこを何とか躱して、女の子たちと適度な距離とりつつ
ヤキモキさせてこそだ、と言ってるんだよ。
いちゃついていいのは、ここぞと言いう時だけだ。
マンネリ化するだろうが」
そんなの無理だろ、
とは思うけれどキャラクターへ向かう熱量の違い的に俺には勝ち目がない。
とりあえず渋々といった感じを演出できるように頷いておくことにする。
紅音先輩は、俺が他の女の子と仲良くしているとすぐ怒る。
「まったく」
言いながら紅音先輩が俺たちのグループに加わった。
部長なので他のグループも見て回るけれど、所属グループはここなのだ。
何とか2人の後輩(片方は妹だけど)を引きはがして、
俺も自分の椅子に座り直す。
「あとはビッチちゃんと仲里か。
まぁビッチちゃんは来ないだろ。
仲里が来るまでは、何か自由に語り合おうか」