表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/69

家族計画

「どうしたの、千秋ちゃん」

「えっ」

 なんでもない、

 と言った風に目線を逸らして止まっていたスプーンを機械的に動かす。

 でも、その様子をじっと見ているとおずおずと口を開いた。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんが結婚したらさ。

 ……千秋はどうすればいいの?」

 眼も合わせずにそんな事を問うてくる。

「どうすればって、千秋ちゃんの好きにすればいいと思うよ」

「はー、まったくお兄ちゃんは鈍いわね」

 呆れた、とため息をつきながら朋夏が続ける。


「結婚なんてお義父さんに勝手に決められたことなんだから、

 千秋は気にしなくていいのよ。

 ずっとこの家にいていいの。千秋が居たいならね」

「俺が言った台詞とどこが違うの、それ」

「だから鈍いっていうのよ。ニブチン」

 じと目で睨みつけてくる。

 俺と朋夏のやりとりを見て、千秋が楽しそうに笑う。

 千秋の不安(?)が拭えたのはよかったが、なぜか釈然としない。


「日本でも重婚が認められればいいのにね。

 そうすれば、千秋だって悩むことないし。

 学校の部活のみんなだってお互いに牽制し合う必要なんてなくなるし」

「なにそれ。俺の話?」

「一体何の話してると思ってるの……」

「部活のみんなは、うちの事情なんて知らないじゃん」

「でも、朋夏がひっつき過ぎてるでしょ。

 自分でやっておいて言うのもなんだけど」

「そうかもしれないけど、部活のみんなはそういうのは無いよ。

 単に配役が配役だから、そういう風に見えるだけでしょ。

 仮に、好意を持ってくれてるにしても、

 それは配役のせいで錯覚してるだけだよ」


 演劇上で恋仲同士の役者が

 劇を越えて付き合い始める例なんて腐るほどある。

 結局はグループ内での立ち位置の問題なのだ。

 擬似的な関係が現実の関係性と入れ替わってしまったに過ぎない。

 それだけならばハッピーエンドかもしれないけれど、

 そうしてできた関係性は長続きしない。


 もっとも、人生にハッピーエンドなんて元から存在しない。

 それは、ある一区切りを設けた場合の評価でしかない。

 誰にでもハッピーはあるけれど、

 その状態のままエンドロールが流れる訳ではないのだ。

 確実にあるとしたら、デッドエンドだけかな、と夢のないことを考える。


「もーまだそんな事言ってるの?

 朋夏の婚約者なんだから、しっかりしてよね。

 妹が2人もいて、まだ女心が分からないの?」

 朋夏は馬鹿にしたようにケラケラ笑っている。

 冗談なのか本気なのか分からない。


「女心って、便利な言葉だよな。まったく。

 要は、ヒントもあげないけど私の気持ち察してね、って事でしょ?」

「ヒントはあげてるの!」

「相手に伝わってないんだから、貰ってるとは言い難いな」

「はーだめだこりゃ」

 お手上げ、と朋夏は肩をすくめて料理の方に向き直る。


 言い返したい言葉はいくつか思い浮かんだけれど、

 既にこちらに聞く耳を持っていない。

 あまりしつこく言うのも恰好がつかないな、

 と思って俺は口を紡ぐことにした。


「そういやさ」俺は話題を変えようと声を出してみる。

「今回の演技期間、最後の方の展開急すぎでしょ。

 ちょっとやり過ぎだったと思うよ。

 まぁ、だから途中から俺の方でセーブかけたけど」

「えーだって、関係が進まないと終わりが来ないと思ったんだもん」

「んー、そういうもんかな。

 言われてみれば、そういう節はあるかも。

 でも、それにしてもやり過ぎじゃない?」


「あ、そうそう。

 お兄ちゃんとお姉ちゃん、もしかしてキスしてた?」

 勢い込んで千秋が聞いてくる。

 キス?

「ん? ああ、あれね。玄関のやつでしょ? してないよ。

 カメラから見てしてるように見せただけ」

「あれ、結構近かったよね。

 それに千秋が止めてくれなかったら、どこで止め時か分かんなかった」

「あー、それは俺も思った。

 千秋ちゃん絶妙のタイミングだったよ」

 絶妙ってのは、つまりワザとらしい、

 と言い換えても良いのだけど。物語としては、それでいい。


「そうだったんだ。千秋、ちょっとびっくりしちゃった。

 いきなり玄関でキスしてる! って思ったもん。

 前の日までそんなに進んでなかったのに、って」

「学校でさ、ちょっとあったんだよね。

 喧嘩っぽいイベントが。

 それの仲直りを演出しなきゃいけなかったんだけど、

 それにしてもちょっとやり過ぎだよなぁ」

「でも役得だったでしょ?」

「生殺しは役得とは言わないんじゃないの。知らないけど」


「千秋、みててドキドキしちゃったよー」

「まぁ俺も演技が入り過ぎて、

 やぶさかでもないような心持ちにはなってたかも」

「うわーサイテー。

 雰囲気に流されるなんて駄目だよ、男の子は。

 自制心もってよ、自制心」

「そういう意味では役得だったかもな」


「なにそれやだー。

 ……こんなお兄ちゃんだから、千秋も気をつけなさいね。

 油断してると襲われちゃうよ」

「んな事しないよ」

「どうだか」


 小馬鹿にしたように、妹2人はケラケラと笑う。

 まぁそれは仕方ない。

 頼りないお兄ちゃんが道化になるしかないのだ。

 俺は憮然とした顔のまま、スープを呷った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

気に入った方は 評価お気に入り感想などをいただけると嬉しいです。

▼こちらの投票もよろしくお願いします▼
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ