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楽しい食卓

 風呂の時間は、俺と朋夏で交代だ。

「朋夏が先に入るからって、脱いだ下着とか見ないでよね」

 朋夏は軽口を叩いて、風呂場へ向かった。

 いつものように、米は千秋が用意してくれている。

 今日から当分は俺と千秋で家事を担当することになる。

 俺はエプロンをつけて台所に立つと、千秋も後ろから付いてきた。


「さて、何作ろうか」

「何作ろうかって。千秋たち選べるほどレパートリー多くないじゃん」

 クスクスと千秋が笑う。

「そうだね。初日だし、冒険するのはやめて無難なモノから作ろうか」

 半ば必然的に夕飯はカレーライスと決まった。

 ちょちょっと包丁を使って野菜を切りあわせただけの

 ドレッシングの味頼みのサラダも付け合わせる。

 ついでに卵とワカメの中華スープ。


「~♪~~♪~~~♪」

 鍋をかき混ぜている千秋が鼻歌を歌う。

 歌に合わせて身体を揺り動かして、楽しそうにしているのが微笑ましい。

 包丁を止めて見ていると、

 視線に気づいた千秋がこちらを見て「ふふ」と笑う。


 演技期間は澄ましているけれど、本当は甘えんぼなのだ。

 中学生だというのに、まだ甘え癖が抜け切れない。

 思春期なのに反抗期もまるで訪れない、そんな子なのだ。

 普段甘えられない反動でちぐはぐになってしまっているのだと思う。


「どうしたの? お兄ちゃん」

 俺は苦い顔をしていたようで、千秋が心配そうな声をかけてきた。

 慌てて首を振る。


「なんでもないよ。久しぶりだからさ、美味しくできるかな?

 ってちょっと不安になって」

「ちょっとくらい失敗しても、

 お姉ちゃん、ちゃんと食べてくれるよ」

「そうだね」

「楽しいね」

「毎日作るのは大変だけどね」

「でも、楽しいよ!」

 程なくして調理は終わった。

 2人で協力したらすぐだ。


 サラダと毒々しい真っ赤な福神漬けが入ったタッパーを

 テーブルの真ん中に置いて準備完了。

 カレーとスープを食卓に出すのは朋夏が来てからだ。

 冷めてしまうから。

 程なくして朋夏が風呂場から出て来たので、

 温かいものをよそりに行く。


「ごめんね。ちょっと長風呂だったかな」

「ゆっくりしてていいよ。慰労みたいなもんなんだから」

「なにそれー、なんか朋夏が年寄みたいじゃない」

「違うよ、感謝の気持ち込めてんの。

 千秋ちゃんも頑張ったもんね?」

「うん!」

「じゃ、お味の程を確認しましょう」

「お手柔らかに」


「「「いただきます」」」

 俺はいつもの朋夏に倣って、

 朋夏が一口食べるまで箸をつけるのを待ってみる。

 千秋も手は付けずに朋夏を見ている。

 朋夏がスプーンでカレーをすくい上げて一口頬張る。

「んー、美味しいよ、これ!」

 千秋と顔を見合わせる。

「やったね!」と向日葵のような笑みがぱっと咲き、

 嬉しさをこらえきれないのか相好を崩している。


「よかった。久しぶりだから、ちょっと不安だったんだ」

「そんなこと言って。美味しいじゃない。

 それに、味見はしたんでしょ?」

「そりゃ、ちゃんとしたけどさ。

 でも、やっぱり不安はあるよ」

 ほっと一息して、再度「いただきます」してスプーンを手に取る。

 誰でもそうだろうけど、

 自分の作った料理を褒めてもらえるのは嬉しい。


「お兄ちゃんも千秋も良いお婿さんになるね」

 朋夏はニヤニヤしながら俺の脇腹を小突く。

 なんとなく馬鹿にされた気がしたので、

 俺も同じように朋夏を小突いた。


「嫁に来るのは朋夏の方だろう」

「苗字が一緒なんだから、そんなのどっちだっていいじゃない」

「男のプライドの問題なの」

「やだ、なにそれふるーい。

 お兄ちゃん、そんなの気にするんだ」

 朋夏は腹を抱えて笑った。

 食事中なのに行儀の悪いことだ、と俺は憤然として思った。


 それとは対照的に、

 千秋はこちらをちらちらと見ながら食事の手が止まっている。


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