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新しい朝

 ピピピッ、と喚く電子音を止める。

 時計を確認すると、朝6時。

 いつもより、1時間ほど早い起床に眠気が抗議してくる。

 昨日1時間早く床にはついたけれど、だからと言って、

 差し引きがゼロになる訳じゃない。


 枕元の時計を確認した姿勢のままバタンキュー。

 枕に顔をうずめて、脳がぐちゃぐちゃになる感覚に身を委ねる。

 短い睡眠と覚醒を繰り返しながら、頭がどんどん馬鹿になっていく。


 眠い、眠い、眠い。


 なんだって目覚まし時計なんて鳴ったのだろう。

 いつもだったら朋夏が……、とそこで気づいて飛び起きる。

 時計を確認すると、先ほどから30分が経過していた。


 やっべー、と飛び起きてパジャマから着替えて階下に急ぐ。

 リビングに着く頃には、

 キッチンからの調理の音が聞こえてきていて、

 さらに慌てる。


「ごめん、寝坊した」

 こちらに背中を向けている2人の義妹に声をかける。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おにぃ、……お兄ちゃん、おはよう!」

 朋夏と千秋が振り向いて笑いかけてくる。


「朋夏、変わるよ。休んでて」

「ん」と短く答えて、朋夏はリビングに引っ込んでいく。

「ごめんなー、ホントに」

「いいよ。習慣で起きちゃっただけだから」

 平坦で自然な声が返ってくる。


「千秋ちゃんも、ごめんな」

「んーん、いいよ。おねぇ、お姉ちゃんが手伝ってくれたし。

 それに千秋だって久しぶりだもん」

 おねぇ、と呼ぶのが恥ずかしいのだろう。

 言い直しながら千秋は顔を赤く染めた。

 あまりにも可愛くて、気恥ずかしくなったので頭を撫でる。

 千秋は目じりをさげて嬉しそうに安堵の笑みを浮かべる。


 なごみ。


 素の千秋は、俺が頭を撫でるのをまったく嫌がらない。

 さぁ、支度を始めよう。

 千秋は菜箸で3つの弁当箱に食べ物を詰めるのを再開する。

 既に出来上がりかけているので、俺は朝食の方を準備することにする。


 冷凍庫からカチカチに固まったパンを

 取り出してトースターに放り込む。

 冷蔵の方からレタスとトマトにキュウリ、

 缶詰のコーンにシーチキンを取り出す。

 野菜を良い感じの大きさに包丁で整えて、皿に添えていく。


 卵を3つ出して、ボウルでかき混ぜる。

 フライパンにバターを落として、

 万遍なく伸ばした所に卵をじゃーっと流し込む。

 出し巻き卵にしようかな? とちょっと迷ったが、

 スクランブルエッグにする。

 ブランクがあり過ぎるから、出し巻きはちょっと危険だ。


 コーンスープのもとを陶器のスープカップに入れて、

 電気ポットでお湯を流し込んでいく。

 出来合いの手抜き商品ではあるけれど、

 キッチンにいい匂いがふわっと広がっていく。


 既にトースターから顔を出しているパン2枚を皿に乗っけて、

 もう1枚セットする。

 既にできた料理を運んでいる内に「チンッ」と

 子気味良い音を立ててパンをこんがりと焼きあがった。

 最後に出来た一番温かいままのパンを朋夏に渡す。


 全員が席について、準備終了。

「「「いただきます」」」

 手を合わせて挨拶を口にして、できたばかりの朝食を頬張る。


「ほんとごめんな、朋夏。明日からはちゃんとやるから」

「良いってば。初日だし、こんなもんでしょ。

 あーでも、この解放感いいね!」

 言って、リビングを一望している監視カメラを挑戦するように見る。

 動いているのか止まっているのか分からないが、

 とりあえず演技はしなくていいのだ。

 朋夏の言いたいことは分かる。


「今回、どんだけやってたっけ? 3か月くらいだったよな。長かったー」

「夏休みだってやってたもんね。勘弁してって感じ」

「まぁ夏休みは、結構外出したりしてたじゃん。部活とかもあったしさ」

 と言った所で、あっ、と気づいて千秋の方をちらりと窺う。

 別段気分を害した風でもなく、薄く笑っている。

 部活の時間は千秋一人っきりだったのだ。

 3人で一緒に出掛ける事も多かったけど、

 部活の時だけは千秋は一緒じゃなかった。


 と言っても、千秋は最年少という事もあって

 (なのかどうか知らないけれど)、ある程度は自由がきいている。

 俺と朋夏みたいに一緒にいる事を強制されてない。

 だから、友達の家とかに遊びに行っていたりもする。


 だから、あまり寂しくはなかったのかも知れない。

 なぜか俺はちょっと寂しい気持ちになった。


「外に出たって、盗聴器があるじゃない。

 はーあれも、しばらく着けなくていいんだね。やったー」

 それこそ演劇のリアクションのように手を広げて万歳のポーズをとった。

 やらされているのとやっているのでは違うのだろう。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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