暴力系ツンデレ娘の憂鬱
「恋愛表現が苦手な子が、苦手ながらも手をつないで来たりとかさ。
『好き』とか聞こえないような声で言う部分の、
血が沸騰するような歯がゆさ、
みたいなのがツンデレの魅力なんだと思うよ」
「でもさー。
それって、作為的に見せないと伝わらない部分だよね。
最後まで見てください、それじゃないと魅力が伝わりません
っていうのは作りモノとして失格だよ」
「だからこそ、ツンデレって台詞とか外見要素とかの
テンプレートが整備されてるんだろうね。
それを使って、『このキャラは後でデレるんですよ』
って言う期待感を演出しないと駄目なのかもね」
かくいう唯は、びっくりするくらい盛り上げたツインテールだ。
日常生活に支障が出るんじゃないかってくらいテールが長い。
髪を洗うだけで一苦労だといつも口を尖らせて言っているくらいだ。
口ではなんだかんだと言いながらも、
専攻しているツンデレに対する熱意は大きい。
「それがツンデレキャラにおける没個性に繋がってる訳でしょ?
もーあたしには何がなんだか……」
「うーん、確かに難しいね。
あんまり嫌なら、他のキャラクターに力を注いだら?」
「それがねー。
あたしはこれ以外が壊滅的に下手なんだって。
『どこかツクリモノめいてる』って酷評されるの」
「そりゃ難儀だね。
まぁでも適正検査で結果が出ちゃってる以上、
やっぱりその役が一番向いてるんじゃないかな」
「はぁー、まぁいいや。あんたの方はどう?
主人公を片っ端からやってるんでしょ、
しっくりくるのとかってあるの?」
見ている分には、昔に流行っていた熱血系とかが心躍る。
でも、残念なことに自分のキャラじゃないと自覚はしている。
なんというか、気恥ずかしさが先行して表現しきれないのだ。
「結局は、没個性系かなー。
教授には鈍感系とかが、安定だし向いてるって紹介されてるけど、
合わないんだよね。
『え? 今なんて言ったの?』なんて白々しくてできないよ。
明らかに好意寄せてきてる子に対して、気づかない振りとかね。
なんだよ、それって思うもん」
「あー、あるある。
時々、こいつ引っ叩いてやろうか、って思う事あるもん」
物騒な事を言ってのけて、空中でビンタの素振りを始める唯。
位置的には頬だろう。
あんなビンタを喰らったら、脳が揺れて眩暈でも起こしそうだ。
「じれったいよねー。
おい、せっかく良い雰囲気なのになんだよ、それ!
今まで何してきたんだよ、オマエ! ってなるもん」
言いながら、
ビンタの速度と精度と硬度が徐々にヒートアップしていく。
見て見ぬフリをしながら、俺も持論として思うところがあるので言う。
「ハーレムものとか特にそうだね。
正ヒロインがすっげー可哀想だよ。
主人公を鈍感にして、敢えて結ばれないように引っ張るやり方ってさ、
カタルシスがないよ。
やっぱさ、気持ちってのは率直に伝えて、率直に受け取っていかないとね。
たとえばさ、良い作品ってのは……」
「あーはいはい。そうだよね、そうなんだよね。アンタは。
わかったわかった」
俺は、興が乗って、
色々と語り尽くしたい欲求が首をもたげてきたというのに、
唯に脳天をチョップされて押し留められてしまった。
しかも手加減してないのか、すっげー痛てぇの。