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妹の素肌

 いかにも演技っぽさが溢れていて、俺と朋夏は声を出して笑った。

 その笑顔すらも、俺たちは自然に笑えているのかは分からない。


「とにもかくにも、俺たちに選択肢は無いんだし。

 適度にガス抜きしてやっていくしかないんじゃないの」

 俺は真面目に言った。

 真面目にというか、肩の力を一切抜いて素直に話した、というか。


「キャラ学でもさ、俺たちがやってきた事は通用するみたいじゃん?

 おかげで俺は優等生。朋夏だってそうだろ?

 スポーツ選手の子供がスポーツ選手になる、みたいにさ。

 俺らはキャラクターとしての才能を十全に発揮して、

 それを切り売りしていく人生なんだよ。

 たぶん」


「息の詰まる人生ですこと」

 朋夏は水面から腕を出して顎に手をやり、

 気だるそうにふーっと息を吐いた。

 水面がゆらゆらと揺れて、波が俺にまで届いてくる。


「そんな人生をさ、キャラ学の人たちは選んでるわけじゃん?

 結局、俺らの悩みって贅沢なモンなのかもしれないよ。

 中学で一念発起してこの道に進みましたーって人もいるけど、

 あんまり上手くいかなくて悩んでいる人もいるみたいだし」

「でも、自分で選んだ道でしょ?」

 形の良い唇をすぼめて、朋夏は口を尖らせる。


「自分で選んだつもりになっているのかもしれないし。

 自分で選んでないつもりになっているのかも知れないよ、朋夏。

 少なくとも、俺は孤児院であのままずっといるよりは、

 こっちの生活の方が楽かな。

 可愛い妹が2人もできたしね」


 俺は笑う。

 “自信のある“自然な笑みを浮かべられて、少し満足する。

 笑顔は伝播する。

 目の前の妹も笑った。

 少し妖しげな笑みだったけれど。


「そうね。可愛いお兄ちゃんと妹がいることだしね」

「俺って可愛い系のキャラなの?」

「没個性系でしょ?」

「あんまりじゃん」

「あーあ。

 恰好よくて優しくて、世界に1人だけのお兄ちゃんだったら

 良かったのになー」

「外見と内面はともかく、

 世界に1人だけのお兄ちゃんである事には変わりないと思うけど」


「わかってないなー、わかってないよ。

 それが鈍感系の鈍感たる所以なんだね」

「結局、俺は鈍感に生きていくしかないのか」

「はーあ。それしかないと思うよ、ホントに」

 我が家のメタ空間だと言うのに演技のスイッチが入ってしまった。

 俺と朋夏は半ば自動的に言葉を紡ぐ。


 浴槽から出てシャワーを浴びると、

 朋夏が「お背中、流してあげる」と言って、浴槽から出てきた。

 背中と言いながら、シャンプーを取り出して頭を洗われる。

 自分でやるのと勝手が違うから、

 シャンプーが目に入らないように目を瞑る。


「男の子は髪が短くていいねー。すごく洗いやすい」

「切ればいいんじゃん」

「駄目でしょ、キャラ的に」

 そんな事無いでしょ。


 と、答えようとして、

 本当にそんな事ないのか? と疑問が浮かんだ。

 でも、やっぱりそんな事はないような気がする。

 うーん。

 結局は自分のキャラについては朋夏の方が詳しいだろうし、

 俺は言うのをやめた。


「そのくらいは自分の好きでいいんじゃないの?」

「駄目だよ、ダメダメ。ちゃんとやんなきゃ」

 じゃー、っと頭にシャワーをかけられる。

 泡立てられたシャンプーが流れ去っていく。

 次は背中をごしごしされるので、

 俺はボディーソープで背中以外をせっせと洗う。

 こういう時、男の水着は結構楽だ。


「はい、綺麗になりましたねー」

 幼児を褒めるような感じで頭を撫でられる。


「ありがと」

「せっかくだから、ついでに朋夏の髪も洗ってよ。

 一人でするの大変だから」

 座っていた椅子を交代して入れ替わる。

 朋夏の髪は長くて、

 後ろからは水着の紐が見えずにおおわれている。

 見た目的には、ほぼ裸みたいなものだ。

 髪の毛の隙間から白い肌がのぞいている。


 シャンプーを出して、俺は髪の毛先から洗うことにした。

 さらさらな髪の毛を束ねて、丁寧に撫でていく。

 髪の毛が細いので力を入れると

 ぷつんっと、途切れてしまいそうで怖い。

 手で梳いたり、手のひらでこすったりしながら

 髪の毛をどんどんシャンプーで染め上げていく。


 髪を手繰る時に、たまに背中に直に触れてしまったりして、

 朋夏は「くすぐったいよー」とか「お兄ちゃんのえっちー」

 とか言いながら身体を捻った。

 いくら妹の肌とはいえ、

 柔らかくてそれでいて弾力のある肌に少しどぎまぎしてしまう。


 透き通るような白。

 女の子は有りのままの姿でそこに在るだけで絵になる。

 こういった情景こそをフィルムに残すべきじゃないか?

 と考えて、

 でもそれは男特有の感性というか願望かもしれないな、

 と自嘲気味に考える。


 俺は余計なことを考えようとする思考を排して、

 同年代で1歳しか年の違わない女の子の

 髪の毛をひたすら丁寧に洗った。


 シャワーでシャンプーを流し終える。


「ありがとう、もういいから」

 朋夏の声を聞いて、俺は朋夏の髪をごしごしとするのをやめる。


 身体の水を切って、浴室を後にして脱衣所へ。

 高い湿度から解放されて、肺が新鮮な空気をむさぼる。

 タンスからバスタオルを出し、身体を拭いて、服を出して着る。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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