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お風呂イベント

「お兄ちゃんのお背中流すから。もう決めたから」

 大人しくしていた朋夏がいきなり宣言した。

 早めの夕飯を食べ終えてくつろいでいる最中だった。

 ソファーで隣に座っていた千秋もぎょっとした顔をする。


「いきなり何言ってんだよ」

「今月はまだ一緒にお風呂してないでしょ」

「いや、そうだけど」

「もう決めたから。早くはいろ」

 俺は腕を掴まれて有無を言わさず脱衣所に連れて行かれた。

 俺だけ入れられて脱衣所の扉が閉まる。


「おい、ちょっと朋夏」

 閉められたドアを叩きながら抗議する。


「早く先に入ってて」

「いや、ちょっと話を」

「お風呂でするからいいの」

 聞く耳を持たない。

 はぁ……、とため息をついて俺は準備をして風呂場に入った。

 シャワーをさーっと浴びて、風呂蓋を開けて湯船に漬かる。


 脱衣所でごそごそと音が聞こえた。

 スモークガラス越しに、朋夏が衣服を脱いでいるのが見える。

 男は服なんて一瞬で脱げるけれど、

 女の子はパーツが多い分、そうもいかない。

 それに一挙手一投足が丁寧だ。


 様々な色をまとっていた朋夏がだんだんと一色に染まっていく。

 素肌素肌素肌。

 どぎまぎどきむね、浸かったばかりの湯船は熱くて、逆上せ上りそうだ。


 少しの時間が経って、浴室の扉が開かれて朋夏が入ってきた。

 産まれたままの姿を見たことはないけれど、

 そう形容する類の肢体が目の前に現れる。

 家族とは言えど、普段見る事のない素肌に頭がぼんやりとする。


 女の子は男とは身体の作りが違う。

 なんていうか、優しい感じ。

 全体的に丸み帯びていて角がない。

 女性として育った胸や臀部も凹凸はありながらも、やっぱり円い。


 シャワーを浴びると、

 水滴が透き通るような白い肌の上を気持ちよさそうに流れていく。

 じゃー、するする、ぽたぽた。

 ほとばしる水滴は、落下するというよりは、伝っていく感じ。


 朋夏はシャワーを浴び終えると、浴槽の縁を跨いで(跨いで!)、

 俺と向かい合うように湯船の中に入ってきた(入ってきた!)。

 俺は足を少し縮めて朋夏のスペースを確保してやる。

 風呂は広いので、2人くらい入ってもまだゆとりがある。


 しゃがみ込むと、

 朋夏の露わだった全身がすっぽりと水面に覆われてしまう。

 ああ、なんたることだ。

 とは言っても、俺も朋夏も水着を着ているので別段大したこともない。


 俺はボクサーパンツみたいなゆったりしたやつで、

 朋夏はスクール水着、だったらいいんだけど

 まぁ風呂に入るのにそんな着にくいものは着ない。

 下着をそのまま生地にしたようなカタチの水着だ。

 下は、フリルのひらひらがついていて、チラリズムをあおる。


「はわー疲れた」

 朋夏は不可解なため息と共に、腹からひねり出したような声を出した。


「そうだなー」

 浴槽に末広がった朋夏の長い髪の毛を指先で触りながら、俺も同意する。


「お義父さん、ちゃんと見てんのかな。うちの監視カメラの映像」

「まぁ見てるんじゃないの。演じろって言ってきてるんだしさ」

「どうだかねー。わたしだったら見ないよ、面倒だもん」

「俺らと義父さんじゃ見えてる世界が違うんだろ。

 たまーに家にいる時もさ、書斎から出てこないじゃん。

 パソコンにずーっと向かってさ。

 外でもそうなんじゃないのかな、たぶん」


 俺の家には、いや、桐原家には監視カメラが張り巡らされている。

 設置されていないのは、風呂場と脱衣所とトイレ。

 俺たちは、カメラがまわっている時は演劇をするようにと言われている。

 学校に行く時も盗聴器を着けて通学するから、

 俺ら兄妹の生活には演技しかない。


 定められたキャラクターを演じ、

 自分がその規定から外れていないかと常に考える。


「さっさと休みにしてほしいんだけどー」

「ああ、それ今週いっぱいで良いってさ。

 一区切りついたから明後日から、一旦カメラ止めるって」

「あ、この前の電話やっぱりそうだったんだ。

 もっと早く教えてよー」

 朋夏の腕が水面から飛び出して、かと思ったら水面に叩き付けられた。

 どぼん、という重い音と共に水飛沫があがる。


 2人とも頭から水をかぶる。


「何すんだよ」

「あはははは」

「とりあえず、しばらくはもうやんなくて良いって。

 まぁ短くても1か月くらい」

「1か月かー。長いんだか短いんだか。

 今度はさ、どうせなら朋夏違うキャラやりたいな」

「提案してみるのは手かもしれないけど、無理じゃない?

 キャラ変しろなんて言われたことないし」


「えー、つまんなーい。お兄ちゃんなんだから、なんとかしてよー」

「どんなキャラやりたいの?」

「んー、わたしも千秋みたいな傍観的なキャラやりたいかな」

「あれはあれで難しいんじゃない?

 中学生であそこまで達観した目線をするのって、大変だと思うよ」


 それに。


「長女が達観で次女がデレるってのも微妙かな。

 なんか普通の兄妹っぽい感じがする。

 小さい妹の方をよく面倒見るから、次女の方が懐くみたいな感じでさ。

 まぁ長女の宿命だと思ってやるしかないんじゃないかな」

「朋夏だって千秋と2つしか違わないんだけど」

「朋夏はお姉ちゃんなんだから我慢しなきゃ」


「なにそれ差別じゃん。

 朋夏だって一人のか弱い女の子なんだよ?」

「じゃぁ俺にも『お兄ちゃんなんだから』とか言うのやめてくれないかな。

 ……1歳しか違わないんだから」


 べー、だ。

 朋夏はぺろりと可愛らしい舌を出して微笑んだ。


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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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