メタお義兄ちゃん
俺にとって朋夏は妹であり妹であり妹だ。
例え、朋夏が結婚して誰かの所に嫁いだとしても
夫が不貞を働くような輩だったら俺は家に乗り込んで
そいつを殴って朋夏を連れ出してやる。
そうなったらお金の問題とか生活の問題とかで、
朋夏は不安になるかも知れないけれど、
俺はそういった事をまるまる包んで、面倒を見るつもりだ。
でも、俺はその事については言葉としてメッセージにはしない。
俺のその気持ちに最初からまるまる包まれて、
それだけに依存して生きるのは違うと思うからだ。
俺は桐原家の長男であり、最年長で父親代わりのような所がある。
朋夏にはたくさんの選択肢がないと駄目だ。
それなのに朋夏は最初から選択肢を絞り込んで、
あたかもそれしか選択肢がないような顔をする。
無数にある選択肢の中から選ばなければ駄目だ。
もっとたくさんの可能性を信じなければ駄目だ。
そういった選択肢が存在する事について、知らなければ駄目だ。
リビングに戻って朋夏を椅子に座らせる。
千秋は怪訝な顔をしていたけれど、
俺の真剣な顔と朋夏の不満そうな顔を見て、何かを察する。
そして、自分は何も気づいていませんよ、
っていう風にさっきまでやっていた本の続きを読み始める。
聡い子だ。
そういう事ができる子なのだ。できてしまう子なのだ。
それでも気にはなるのだろう。
頭を動かさずに目線だけで、こちらをちらちら窺っている。
本を読もうとしても頭に物語が入っていかないんだろう。
俺たちが席についてからページは1ページも手繰られない。
朋夏が叫んだ声はここまで届いていただろうか?
だとしたら、千秋はどう思っただろうか?
俺らは何を考えて何を思って、どう動くべきなのだろうか?
ふーっ、口から深いため息を吐いて肩の力を意識して抜く。
椅子の背に無造作にもたれかかって、身体をだらりとさせた。
悪い癖だ。
役者としての自分が身体に染みつきすぎている。
それはある意味で、俺の特技なのだろう。
だからこそ、キャラ学では優秀な成績を収められている。
けれど、こんな思考を続けていたらいつか破綻する。
でも、と思う。
俺は最年長で2人の妹の兄だ。
ただ演じるだけじゃなくて
もっとメタな視点に立たないといけないのかも知れない。
単なる最年長で兄という設定だけじゃなくて、
もっとメタな存在となって2人を包みこめるようになるべきだ。
そうじゃないから、朋夏は破綻してしまい、
そんな兄と姉を見て千秋は引っ込み思案になってしまったのだろうか。
物語ばかりを消費する千秋は、思慮深くて大人しくなったのだろうか。
千秋は、はっきり言えば中学生の女の子らしくはない。
中学生の女の子が、中学生の女の子らしく生きられないというのは、
どれ程の苦痛でどれほどの圧迫なのだろう。
俺には考えることすらできなかった。
それは、俺が男だからなのだろうか。
……何もかもが分からない。




